新金貨物線の旅客化「鉄道事業許可」4年後にも申請へ 東京都葛飾区、南側を先行整備



東京都葛飾区は総武本線貨物支線(新金貨物線)の旅客化について、2030年頃の部分開業を目指すことを決めた。従来は区内公共交通の充実化の一環として検討を進めてきたが、来年度2022年度予算案では新金貨物線の旅客化検討費を独立させて2800万円を新規計上。関係機関で構成される検討会を設置して検討を本格化させ、4年後の2026年頃にも鉄道事業法に基づく鉄道事業許可の申請を目指す。

新金貨物線を走る貨物列車。【撮影:草町義和】

葛飾区の青木克德区長は2月28日の区議会で、今後のスケジュールなどについて答弁。国道6号(水戸街道)との交差部より南側の新小岩~新宿(にいじゅく、仮称)間を先行整備し、2030年頃の開業を目指す。鉄道事業法に基づく手続きは、2026年頃に鉄道事業許可を申請しなければならないとした。

検討会は今年2022年4月中に発足させ、運行主体の明確化や事業運営の手法など幅広く検討する。現在は検討会の設置に向け、JR東日本・JR貨物・京成電鉄・国土交通省関東運輸局・東京都都市整備局・警視庁と調整を進めている。委員は学識経験者やJR東日本、JR貨物、京成電鉄を想定。各行政機関などに対してはオブザーバーとしての参加を要請している。また、作業部会を設置して車両の選定や駅の位置、車両基地などの具体的な検討を実施する。

このほか、将来の延伸について葛飾区は「まずは着実に区内区間の実現に向け取り組む」としつつ「江東区のLRT構想などの動向も注視しつつ地域間ネットワークのあり方について、ほかの自治体と連携しながら取り組む必要があると考える」と答弁した。

新金貨物線の旅客化ルート(左:10駅案、右:7駅案)。【画像:葛飾区】

新金貨物線の旅客化は、総武本線・新小岩駅と常磐線・金町駅の約7kmで同線の旅客化を図る構想。葛飾区は区内南北交通の改善策と位置付けている。同区のこれまでの検討案によると、1日の運行本数は片道84本(5~24時台、ピーク1時間あたり6本、オフピーク1時間あたり4本)。起点・終点を含む駅数は10駅案と7駅案があり、所要時間は10駅案で22分、7駅案で17.7分としている。

旅客化の構想は古くからあり、調査も行われている。葛飾区は1993年以降、高架・複線化を前提に整備する案や、地上・単線の線路のまま路面電車タイプの軽量軌道交通(LRT)を導入する案などを調査してきた。

しかし、高架・複線化案は事業費が膨大になり、調査では採算面で難しいという結論に。地上・単線案は道路との平面交差(踏切)が残り、とくに幹線道路である水戸街道の渋滞悪化が懸念されたほか、LRTと貨物列車の併存が技術的、法的に可能かどうかといった課題もあったことから、葛飾区は2006年度に新金貨物線の旅客化を長期構想路線と位置付け、検討を事実上凍結した。その後、同区は新金貨物線を通る貨物列車の減少や法制度の改正、脱炭素化に向けた取組など社会情勢の変化があったとし、2017年度に旅客化の検討を再開した。

水戸街道は渋滞緩和策として新宿地区での拡幅事業が進められており、将来的には新金貨物線を高架化して踏切を解消する計画だ。葛飾区は2月28日の区議会で「高架化されるまでのあいだは平面交差で運行することを視野に入れて検討を進めてきた。技術的には水戸街道の拡幅後も平面交差による渋滞への影響はないものと考える」と答弁。その一方で「踏切での確実な安全性を確保するには施設管理者の合意が不可欠であり、現状では解決に時間がかかる」として、水戸街道より南側の区間の先行整備を決めたという。

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