線路を連続的に高架化、地下化する「連続立体交差事業」(連立事業)。道路との平面交差(踏切)がなくなるため道路渋滞の緩和には絶大な効果があり、線路で分断された市街地を一体化できる利点もある。
しかし、連立事業が実施される地域の多くは人口が多く建物が密集している都市部。そのような場所で既設の線路に隣接して高架橋や地下トンネルを建設することになるため用地買収は難航し、工事も難しい。ほんの数kmの工事でも10年、20年という長い時間がかかる。
それでも各地で連立事業が行われており、そのなかには今年2023年中に完成する事業や線路の切替が行われる予定のものもある。事業中の連立事業のうち、おもなものをまとめた(2022年12月31日時点/鉄道側の工事がほぼ完了したものを除く/オレンジ色は高架化または地下化の部分)。
埼玉県
東武鉄道:伊勢崎線(東武スカイツリーライン)・野田線(東武アーバンパークライン)
一ノ割…=春日部=…北春日部 約1.6km
八木崎…=春日部=…藤の牛島 約1.9km
埼玉県が事業主体。春日部市内にある春日部駅とその前後の線路を高架化し、10カ所の踏切を解消する。2019年12月に事業認可を受け2021年3月に着工式が行われた。現在は伊勢崎線の上り線を仮線に移すための工事が進行中で、2022年度中には東口仮駅舎の使用が始まる予定。事業施行期間は2032年3月31日まで。
千葉県
東武鉄道:野田線
清水公園…=愛宕=野田市=…梅郷 約2.9km
千葉県が事業主体。野田市内の線路を高架化し、踏切11カ所を解消する。2021年3月28日に高架線に切り替えられており、現在は野田市駅の新駅舎と構内を拡張する工事が実施中。2023年度中には現在の島式ホーム1面2線から島式ホーム2面4線+留置線1線になる予定だ。連立事業の事業施行期間は2027年3月31日まで。
東京都
東武鉄道:伊勢崎線(東武スカイツリーライン)
西新井…=竹ノ塚=…谷塚 約1.7km
事業主体は東京都足立区。竹ノ塚駅とその前後を高架化して踏切2カ所を解消する。この区間は急行線と緩行線の複々線で、2020年9月までに急行線の高架化が完了。緩行線と竹ノ塚駅のホームも2022年3月20日に高架化された。現在は地上線の撤去のほか竹ノ塚駅(谷塚寄り)の引上線を高架化する工事が進められている。事業施行期間は2024年3月31日まで。
東武鉄道:伊勢崎線(東武スカイツリーライン)
とうきょうスカイツリー=…曳舟 約0.9km
事業主体は東京都墨田区。とうきょうスカイツリー駅とその東寄りの線路を高架化し、踏切1カ所を解消する。とうきょうスカイツリー駅のホームは現在地より東寄りへ約150m移設し、島式ホーム1面2線から単式・島式ホーム2面3線に増強。同駅北側にある留置線も高架化される。
2022年11月27日に上り線が高架化され、とうきょうスカイツリー駅の上り高架ホームが使用開始した。現在は下り線の高架工事が本格化している。事業施行期間は2025年3月31日まで。
京成電鉄:押上線
四ツ木…=京成立石=…青砥 約2.2km
事業主体は東京都。京成立石駅を含む葛飾区内の線路を高架化し、踏切11カ所を解消する。現在は下り線(青砥方面)の仮線工事が中心で、線路の敷設が始まった。用地買収の難航などで工事は大幅に遅れている。現在の事業施行期間は2031年3月31日まで。
西武鉄道:新宿線
中井…=新井薬師前=沼袋=…野方 約2.4km
事業主体は東京都。新井薬師前・沼袋の両駅を含む中野区内の線路を地下化し、踏切7カ所を解消する。新井薬師前駅で掘削工事が行われているほか、沼袋駅では土留壁を地中に埋め込む工事が進行中。シールド工法で掘削する区間は着手に向けた準備が進められている。事業施行期間は2027年3月31日まで。
西武鉄道:新宿線・国分寺線・西武園線
久米川…=東村山=…所沢 約2.3km
小川…=東村山 約0.8km
東村山=…西武園 約1.4km
事業主体は東京都。東村山市内の東村山駅とその前後の線路を高架化し、踏切5カ所を解消する。東村山駅構内では従来の橋上駅舎が撤去され、新しい高架駅の路盤が姿を見せている。駅の前後でも仮線の工事などが進んでいる。東村山駅の新宿線・久米川寄りの一部区間は2022年6月24日までに上下線が仮線に切り替えられた。事業施行期間は2025年3月31日まで。
京王電鉄:京王線
笹塚…=代田橋=明大前=下高井戸=桜上水=上北沢=八幡山=芦花公園=千歳烏山=…仙川 約7.1km
事業主体は東京都。世田谷・渋谷区・杉並3区内の線路を高架と掘割で立体化し、25カ所の踏切を解消。八幡山駅を除く途中7駅を高架化(八幡山駅は高架化済み)する。隣接する土地に高架橋を建設する別線工法をおもに採用。用地の造成が行われているほか一部では高架橋の支柱も姿を現している。全体的に工事は遅れており、現在の事業施行期間は2031年3月31日まで。
JR東日本:赤羽線(埼京線)
板橋…=十条=…赤羽 約1.5km
事業主体は東京都。北区内の十条駅を中心とした区間を高架化して踏切6カ所を解消する。2020年3月3日に事業認可を受け、JR東日本は2021年2月から本体工事に着手している。事業施行期間は2031年3月31日まで。
京急電鉄:本線
泉岳寺…=品川(※地上化)=北品川=…新馬場 約1.7km
事業主体は東京都。品川区内にある北品川駅付近の線路を高架化して3カ所の踏切を解消する。同時に港区内の品川駅付近は引上線も含め現在の高架線を地上に下ろし、駅のホームを現在の2面3線から2面4線に増強する。2020年4月1日に事業認可を受け、用地の買収と造成、品川駅の仮設化などの工事が進んでいる。事業施行期間は2030年3月31日まで。
東武鉄道:東上線
下板橋…=大山=…中板橋 約1.6km
事業主体は東京都。大山駅とその前後の区間を高架化して踏切6カ所を解消する。大山駅は現在地から中板橋寄りに100mほど移す。2021年12月20日に事業認可を受けた。事業施行期間は2031年3月31日まで。
神奈川県
京急電鉄:大師線
鈴木町…=川崎大師=東門前=産業道路=…小島新田
事業主体は川崎市。現在の線路の下にトンネルを構築する地下化で道路との立体化を図る。産業道路駅(現在の大師前駅)とその前後の区間を1期(1)区間として3カ所の踏切を解消。川崎大師駅と東門前駅を含む区間は1期(2区間)として7カ所の踏切を解消する。1期(1)区間は2019年3月3日に地下化された。
1期(2)区間は2020年度に工事着手の予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大や川崎市の財政難などを受け見送られた。京急川崎寄りの地上線に接続させる部分(鈴木町~川崎大師)は都市計画が決定しておらず、完成のめどは立っていない。都市計画法に基づく事業認可の事業施行期間は2025年3月31日までだが、川崎市は本年度2022年度末までに今後の取組方針をまとめる方針。
京急川崎~川崎大師は2期区間としてルートの大幅な伴う地下化が計画されていたが、2期区間に接続するはずだった川崎市営地下鉄(川崎縦貫高速鉄道)の計画が中止されたことや財政難などを受け中止に。川崎市は交通量が多い踏切1カ所(本町踏切)のみ立体化する方向で検討を進めている。
相鉄:本線
西谷…=鶴ケ峰=…二俣川 約2.8km
事業主体は横浜市。鶴ケ峰駅とその前後を地下化して踏切10カ所を解消する。2022年6月21日に事業認可を受け、同年11月26日に着工式が行われたばかり。事業施行期間は2034年3月31日まで。
富山県
富山地鉄:本線
電鉄富山=…稲荷町 約1.0km
事業主体は富山県。富山駅と同駅に乗り入れる鉄道各線を高架化し、高架下をくぐる都市計画道路の整備や富山駅で南北に分かれている路面電車線の接続を図る。
あいの風とやま鉄道線とJR高山本線は2019年3月4日に高架化が完了し、2020年3月21日には富山地鉄の南北の路面電車線(富山軌道線・富山港線)が接続された。残る富山地鉄本線の高架化工事が進行中で、現在は仮線の整備が進められている。事業施行期間は2027年3月31日まで。
静岡県
JR東海:東海道本線・御殿場線
三島…=沼津=…片浜 約3.7km
大岡…=沼津 約1.6km
事業主体は静岡県。沼津市内の沼津駅とその前後の線路を高架化し、踏切13カ所を解消する。沼津駅に隣接する車両基地や貨物駅は高架区間の範囲外に移転する。第1段階となる貨物駅の移転は用地買収の難航で着手が大幅に遅れ、2022年1月から沼津市が造成工事に着手したばかり。このため高架化の工事自体はまだ始まっていない。2022年度の事業再評価では2040年度の高架切替を想定している。
愛知県
名鉄:瀬戸線(※参考)
小幡…=喜多山=…大森・金城学院前 約1.9km
事業主体は名古屋市で法手続上は連続立体交差事業ではなく単独立体交差の扱い。守山区内の喜多山駅を含む区間を高架化して踏切9カ所を解消する。2022年3月19日に上り線が高架化され、下り線の高架化工事が現在進められている。事業期間は2023年度まで。
名鉄:名古屋本線・三河線
一ツ木…=知立=…牛田 約1.6km
三河八橋…=三河知立(※高架区間外に移設)=知立=…重原 約1.9km
事業主体は愛知県。知立市内の知立駅とその前後の線路を高架化して踏切10カ所を解消する。三河線の三河知立駅は高架化の範囲外に移設する。計画の遅れから段階的に高架化することになり、まず2023年3月21日に名古屋本線の上り線(豊橋方面)が高架化される。
その後は三河線の三河知立駅を2023年度中に移設。2025年度に名古屋本線の下り線(名古屋方面)を高架化し、2027年度には三河線の切替により高架化が完了する。現在の事業施行期間は2029年3月31日まで。
名鉄:三河線
竹村…=若林=…三河八橋 約2.2km
事業主体は愛知県豊田市。豊田市内の若林駅とその前後の線路を高架化し、4カ所の踏切を解消する。仮線の工事が進行中で線路の敷設も始まっている。場所によっては仮の高架線も設置される。事業施行期間は2027年3月31日まで。
JR東海:武豊線
乙川…=半田=…東成岩 約2.6km
事業主体は愛知県。半田市内の半田駅付近とその前後の線路を高架化し、踏切9カ所を解消する。現在は仮線の工事が進められており、2021年6月に半田駅の仮駅舎が使用を開始した。2023年4月から高架本体の工事が本格的に始まる見込みで2026年度には高架線に切り替えられる予定。事業施行期間は2028年3月31日まで。
岐阜県
名鉄:名古屋本線
岐南…=茶所(※廃止)=(※新駅)=加納(※廃止)=…名鉄岐阜 約2.8km
事業主体は岐阜県。現在の茶所駅と加納駅を含む区間を高架化し、踏切13カ所を解消する。茶所~加納のカーブしている部分はルートを南側に変更して新駅(統合駅)を設置。これにより茶所駅と加納駅は廃止される。2022年2月28日に事業認可を受けたばかり。事業施行期間は2037年3月31日まで。
奈良県
JR西日本:関西本線(大和路線)(※参考)
奈良…=(※新駅)=…大和郡山 約1.9km
事業主体は奈良県。事業中の京奈和自動車(大和北道路)・奈良IC(仮称)の予定地付近の線路を高架化して踏切4カ所を解消し、高架化区間には新駅を設ける。2020年11月に用地取得が完了。2021年1月にJR西日本と工事施行協定を締結し同年9月から仮線工事が始まった。新駅を除く高架化工事の期間は2028年度まで。
法手続き上は連続立体交差事業ではなく、道路のほうを立体化する場合の費用を限度に国の補助が受けられる限度額立体交差事業。道路より鉄道を立体化するほうが事業費を抑えられる場合や、道路の立体化が地形的、技術的に難しい場合などに適用される。
大阪府
JR西日本:東海道本線貨物支線(梅田貨物線)
新大阪…=(※新駅)=…福島 約2.4km
事業主体は大阪市。貨物列車のほか京都・新大阪方面~関西空港・和歌山方面を結ぶ特急「はるか」「くろしお」が走る梅田貨物線のうち北区内を中心に地下化し、踏切1カ所を解消する。梅田貨物駅跡地の再開発地域(うめきた2期)内を通るルートに変更され、大阪駅の北側に新駅が設けられる。事業施行期間は2024年3月31日まで。
工事はほぼ完了しており、2022年2月13日から地下線の使用が始まる。新駅は3月18日に使用開始し、現在の大阪駅と改札内の連絡通路で結ばれる。このため営業上は現在の大阪駅と同一駅として扱われ、「大阪駅(うめきたエリア)」と案内される。
南海電鉄:南海本線・高師浜線
浜寺公園…=羽衣=高石=…北助松 約3.1km
羽衣=…伽羅橋 約1.0km
事業主体は大阪府。高石市内の南海本線と高師浜線の線路を高架化し、踏切13カ所を解消する。南海本線は2021年5月までに高架化が完了。残る高師浜線は路線自体を運休(バス代行)して高架橋の工事が進められており、これにより踏切の解消が先行して実施された。高架化完了は2024年春の予定。事業施行期間は2026年3月31日まで。
南海電鉄:南海本線
石津川…=諏訪ノ森=浜寺公園=…羽衣 約2.7km
大阪府堺市が事業主体。堺市から高石市にかけ南海本線の線路を高架化し、踏切7カ所を解消する。都市計画府に基づく事業認可の事業施行期間は2028年3月31日までだが、用地買収の難航や耐震基準の変更による工期の延長などで計画は大幅に遅れている。上り線は2022年5月22日に浜寺公園駅付近で仮線に切り替えられた。2023年1月21日には諏訪ノ森駅付近の上り線も仮線に切り替えられる予定。
京阪電鉄:京阪本線
寝屋川市…=香里園=光善寺=枚方公園=…枚方市 約5.5km
事業主体は大阪府。寝屋川市内と枚方市内の線路を高架化し、いわゆる「開かずの踏切」13カ所を含む踏切21カ所を解消する。
これまで用地買収が中心だったが、2022年9月に高架化工事の起工式が行われて工事が本格化している。都市計画法に基づく事業認可上の事業施行期間は現時点で2029年3月31日だが、大阪府は事業施行期間を変更する方針で事業完了は遅れるとみられる。
阪急電鉄:京都線・千里線
南方…=崇禅寺=淡路=…上新庄 約3.3km
天神橋筋六丁目…=柴島=淡路=下新庄=…吹田 約3.8km
大阪市が事業主体。阪急の京都本線と千里線が合流する淡路駅を中心に線路を高架化し、17カ所の踏切(うち1カ所は吹田市内)を解消する。高架橋の工事は進んでいるが用地買収の難航が影響して大幅に遅れている。高架切替は2028年度、事業完了は2031年度の見込み。
阪急電鉄:京都線
正雀…=摂津市=…南茨木 約2.1km
事業主体は大阪府。摂津市内の摂津市駅とその前後の線路を高架化し、5カ所の踏切を解消する。現在は用地買収が進められている。事業施行期間は2034年3月31日まで。
南海電鉄:高野線
我孫子前…=浅香山=堺東=…三国ケ丘 約3.2km
大阪府堺市が事業主体。堺市内の浅香山駅と堺東駅を含む区間を高架化し、踏切10カ所を解消する。2022年3月28日に事業認可を受けたばかり。事業施行期間は2038年3月31日まで。
阪神電鉄:阪神なんば線(※参考)
千鳥橋…=伝法=(※橋梁改築)=福=…出来島 約2.4km
伝法~福にある淀川橋梁の改築事業に伴い橋梁前後の線路が高架化され、踏切5カ所が解消される。福駅の前後約1.0kmは橋梁改築事業と都市計画道路立体交差事業の共同事業区間。現在は新しい橋梁のほか福駅の前後で仮線化の工事が進められている。新橋梁・高架線への切替は下り線が2026年度、上り線が2029年度の予定。事業全体の完了予定は2032年度となっている。
広島県
JR西日本:山陽本線・呉線
安芸中野…=海田市=向洋=…天神川 約3.9km
矢野…=海田市 約1.2km
事業主体は広島県と広島市。海田町から広島市安芸区、府中町にかけ山陽本線・呉線の線路を高架化し、山陽本線の踏切12カ所と呉線の踏切4カ所を解消する。このうち山陽本線の向洋駅付近(約2.0km)を第1期区間として工事が始まった。2023年4月16日夜に旅客列車の上り線の仮線切替が行われる。第1期区間の事業施行期間は2038年3月31日まで。
愛媛県
JR四国:予讃線
三津浜…=松山=…市坪 約2.4km
事業主体は愛媛県。松山駅とその前後の区間を高架化し、8カ所の踏切を解消する。松山駅に併設されていた車両基地や貨物駅の機能は2020年3月までに高架化区間から外れた北伊予~伊予横田に移転した。高架橋の工事が終盤を迎えており、7工区のうち3工区の高架橋が完成。線路の敷設も始まっている。2023年度中には高架線に切り替えられるとみられる。事業施行期間は2025年3月31日まで。
福岡県
西鉄:天神大牟田線
井尻…=雑餉隈=(※新駅)=春日原=白木原=下大利=…都府楼前 約5.2km
福岡県の福岡市から春日市、大野城市にかけて天神大牟田線の線路を高架化して踏切19カ所を解消し、あわせて雑餉隈~春日原に新駅を設置する。福岡市内の区間は福岡市が事業主体で、それ以外の区間は福岡県の事業として行われている。2022年8月28日に高架化が完了。新駅は「桜並木駅」として2023年度後半に開業の予定だ。
※追記(2023年1月2日19時02分):記事のタイトルに誤記があり修正しました。
※追記(2023年1月9日6時44分):掲載路線を追加しました。
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