川崎市の建設緑政局は8月30日、南武線の矢向~武蔵小杉間を高架化する連続立体交差事業(連立事業)の検討状況を市議会まちづくり委員会で報告した。現行計画で採用することになっている「仮線工法」を「別線工法」に変えることで、事業費の大幅な縮減や工期の短縮を図れるとした。
建設緑政局の説明によると、仮線工法による現行計画の総事業費は2015年度で約1479億円と算出されていた。2020年度に単価更新や測量・地盤調査結果、変電所の移転など必要な工事を見込んで再算出したところ、総事業費は123億円多い1601億円で工期は21年とされた。
仮線工法のまま高架橋の高さを低くする案は1551億円で50億円少なくなったが、工期は21年で変わらない。一方、仮線工法から別線工法に変える案は1387億円と算出。2020年度の再算出価格より214億円少なく、2015年度の価格と比べても92億円少なくなった。工期も16年とされ、5年短縮されるとした。
高架橋を低くする案や別線工法案の場合、鹿島田駅に設けられているペデストリアンを一部撤去する必要がある。また、別線工法では線路脇に計画されている都市計画道路(矢向鹿島田線)の都市計画変更も必要になるなどの課題もあるという。
この連立事業はJR東日本の南武線・矢向~武蔵小杉間4.9kmのうち約4.5kmを高架化し、踏切9カ所を解消するもの。いずれの踏切も踏切道改良促進法に基づく緊急対策踏切に指定されており、このうち5カ所は「開かずの踏切」だ。
2020年度中の都市計画決定が予定されていたが、川崎市はコロナ禍による企業収益の悪化とそれに伴う税収不足を受け、都市計画の手続きを中断。事業費の縮減や事業期間の短縮などの再検討を進めている。
建設緑政局によると、踏切の歩行者交通量はコロナ禍の影響で減少しているが、自動車交通量はあまり変化がないといい、沿線地域の安全性の向上や都市内交通の円滑化などが図られる連立事業の必要性は変わらないとした。同局は今後も課題の整理検討などを進め、近々公表される見込みの川崎市総合計画第3期実施計画の素案で検討結果を示す方針だ。
既存の線路を高架化する場合、仮線工法を採用するケースが多い。この工法では、まず地上に敷かれた線路の脇に仮線を敷設。仮線への切替後、従来の線路を撤去して高架橋を建設する。
別線工法は従来の線路の脇に高架橋を建設し、従来の線路を直接高架線に切り替えるもの。仮線を設けないため工事費を削減でき、工期を短縮できるというメリットがある。一方で従来の線路の位置からずれるため、周辺の土地の利用計画なども大幅に変更する必要がある。
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