鉄道車両「動力近代化計画」国交省の研究会が策定、主要鉄道の非VVVF車全廃など



国は「カーボンニュートラル」の2050年までの実現に向けて鉄道車両の動力システムを今後10年間で近代化し、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指す。国土交通省などで構成される「鉄道分野のGXに関する官民研究会」が「鉄道分野のGXに関する基本的考え方」を取りまとめ、国交省の鉄道局が9月16日に公表した。

VVVF制御を採用していない京成電鉄の3500形電車。【撮影:草町義和】

「基本的考え方」は気候変動への対応を機に鉄道への関心が高まっているとし、現在は日本の鉄道産業が「最先端の省エネ技術や革新的な車両を武器に、海外需要を取り込んで成長する絶好の機会」と分析。「主要鉄道事業者」と「国・関係団体等」がCO2排出量の削減に向けて実施する施策を目標時期も含めて盛り込んだ。主要鉄道事業者の施策としては「省エネの徹底」「非電化区間のGX」「再エネの最大限導入」の三つを挙げている。

「省エネの徹底」については、次世代半導体や高性能モーターを採用した高効率車両の導入加速化と、回生電力の活用促進計画の策定、営業線仕様の超電導送電システムの実用化を2030年度までに実施するよう求めた。続いて2035年度までに実施する施策として、電気を効率よく制御できるVVVF制御を全列車に導入。現在は5000両以上存在する非VVVF車両と初期VVVF車両(GTO方式)の全廃を目指す。さらに回生電力の活用を拡大するほか、超電導送電システムを営業線に導入、展開する。

これらのほか省エネ運転などソフト面の対策も含め、2040年度までにエネルギー使用量を2013年度比で25%以上削減。さらに省エネ車両・機器・システムの海外展開の拡大を目指す。

主要鉄道でVVVF制御を導入していない車両は2035年までの全廃を目指す。写真はVVVF制御を導入していない旧国鉄電車でJR西日本が運用している115系電車。【撮影:草町義和】
近く営業運転に導入される東京臨海高速鉄道の新型車両の71-000形電車。VVVF制御を採用している。【撮影:鉄道プレスネット】

「非電化区間のGX」は、まず2030年度までに実施する施策として水素車両の営業運転とバイオディーゼル燃料による営業運転の開始を求めた。続いて2035年度までに実施する施策として、2031年度以降は非電化区間に導入する新規車両を原則としてハイブリッド車両や蓄電池車両、水素車両に限定することを求めた。導入条件が整っている場合は蓄電池車両や水素車両を優先し、ハイブリッド車両はバイオディーゼル燃料の使用に努める。

これにより2040年度までに鉄道車両の軽油使用量を2013年度に比べ40%以上削減するこを目指し、水素車両などの海外展開も目指す。

国鉄時代に導入され現在はJR西日本が運用している気動車のキハ40系。古い車両でCO2排出量が多い。【撮影:草町義和】
非電化の男鹿線で運用されている蓄電地電車のGV-E801系。【撮影:草町義和】

「再エネの最大限導入」については、次世代型太陽電池等の開発状況を踏まえつつ、2030年度までに鉄道の施設や設備を活用した再エネの導入を目指す。2035年度時点では再エネ発電の設備容量を10年間で2倍以上にすることを目指し、2040年度時点では鉄道が使用する電力の実質7割程度を非化石由来にすることを目指す。

「基本的考え方」は主要鉄道事業者を「JR、大手民鉄、地下鉄事業者」としている。ただし「主要鉄道事業者以外の鉄道事業者においても可能な範囲において取り組むよう努めることとする」ともしており、ローカル線を運営する地方鉄道などでも同様の施策を実施する余地を残した。

一方、国や関係団体などに対しては、高効率化や次世代燃料を利用した車両・設備の導入に向けた支援制度の検討、次世代エネルギーなどの安定調達に向けた他業界との連携の枠組みの整備、海外展開に向けた標準化戦略の策定などを求めた。

「基本的考え方」は、これらの施策によりCO2排出量を2013年度に比べ実質540万トン削減することを目指すとしている。

「基本的考え方」が示したCO2排出量削減策とその目標時期。【画像:国土交通省】

GXは「Green Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)」の略。温暖化など地球規模の気候変動に対応するため、化石燃料をできるだけ使わずにクリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動を指す。日本はCO2の排出量を2050年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しており、各分野でGXの取組が課題になっている。

国交省は鉄道分野でのGXの基本方策をまとめるため、学識経験者やJR7社、民鉄協などで構成される官民研究会を今年2025年3月に設置。研究会は4回実施した議論を踏まえて「基本的考え方」を取りまとめた。

海外でも動力近代化によるCO2排出量の削減に向けた動きが活発になっている。中国の場合、昨年2024年9月に国家鉄路局が「老旧型鉄路内燃機車淘汰更新監督管理弁法」を公布。原則として30年以上使用した旧型ディーゼル機関車を使用禁止とし、今後導入する新型のディーゼル機関車はハイブリッドシステムを採用するなど大気汚染物質の排出量を減らしたものでなければならないと定めている。

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