西武鉄道の新車両「8000系」報道公開 もと小田急8000形、どこがどう変わった?



西武鉄道は4月10日、南入曽車両基地(埼玉県狭山市)で新しい電車「8000系」を報道関係者に公開した。西武の新形式車両だが、もとは小田急電鉄の8000形電車。大手私鉄が他社から車両を譲り受けて導入するのは異例だ。

西武鉄道の車両基地に姿を現した「もと小田急」の8000系(右)。【撮影:鉄道プレスネット】

報道関係者に公開されたのは、8000系の1編成目になる第8103編成。池袋・本川越寄りから6号車:クハ8000形(TC4)+5号車:モハ8900形(M4)+4号車:モハ8800形(M3)+3号車:サハ8300形(T)+2号車:モハ8200形(M1)+1号車:クハ8100形(TC1)の6両で構成される。

第8103編成は、もと小田急8000形の第8261編成。1985年、東急車両製造(現在のJ-TREC)で製造された。各車両の番号(小田急時代の番号)は、池袋・本川越寄りから8003(8261)+8903(8211)+8803(8311)+8303(8461)+8203(8511)+8103(8561)になる。

8000系の第8103編成。【撮影:鉄道プレスネット】
第8103編成の銘板。昭和60年(1985年)に東急車両で製造されたことを示している。【撮影:鉄道プレスネット】

改造「できるだけ避ける」

パンタグラフを搭載した2号車のモハ8200形(8203)。【撮影:鉄道プレスネット】

モーターはモハ8900形・モハ8800形・モハ8200形の3両に搭載。このうちモハ8800形とモハ8200形の2両はパンタグラフも搭載している。モーターや制御装置など搭載機器に大きな変更はないが、自動列車停止装置(ATS)など保安装置は西武線に対応した機器に変わった。蓄電地は小田急8000形が6両1編成で1台だったのに対し、西武8000系は2台に増強。追加分をサハ8300形に搭載した。

これは停電時の蓄電池からの電気の供給時間が小田急では30分を基準としているのに対し、西武では60分としているため。追加設置した蓄電池自体は新しいものだが、蓄電池を収める箱は小田急の廃車発生品を再利用した。ほかにもグランドスイッチは小田急の廃車発生品からの流用だ。

サハ8300形の蓄電地。蓄電地を収納する箱は小田急の廃車発生品を再利用した。【撮影:鉄道プレスネット】

車体のデザインは大きく変わり、西武鉄道の若手社員が発案したものを採用。西武4000系電車と同じ白をベースとし、西武鉄道のコーポレートカラーである青と緑の市松模様で装飾した。

車体デザインは大きく変化。市松模様を採用した。【撮影:鉄道プレスネット】

車体自体に大きな変更はなく、列車の行先や種別の表示器もフルカラーLEDだ。ただし乗務員用ドアの脇にある握り棒は小田急時代の上下2分割に対し西武仕様の一体型に変更した。また、列車無線アンテナなどを西武車の仕様に変更。先頭部の覆い(スカート)も形状が変更されている。一部のドアの下にあったはしごは撤去された。

一方、ドアが開いたときにドアを収納する部分の窓(戸袋窓)はそのまま残された。西武鉄道の2000系電車はデビュー時に戸袋窓を設けていたものの、のちのリニューアルで戸袋窓をふさいでいるが、西武鉄道によると、8000系は改造範囲をできるだけ減らすため戸袋窓を残したという。

先頭車の側面。列車無線アンテナや乗務員ドア脇の握り棒が「西武仕様」に変わっている。戸袋窓はそのままだ。【撮影:鉄道プレスネット】
側面のフルカラーLED式の行先・種別表示器。【撮影:鉄道プレスネット】
一部のドアの下にあったはしごは撤去された。【撮影:鉄道プレスネット】

「昔からいた電車」心がける

デザインも含め小田急時代からの変更点が目立つ外装に対し、車内は床板や座席、壁、天井に至るまでほぼ小田急時代のまま。案内ステッカーも一部は小田急時代のものをそのまま流用している。車椅子スペースも小田急時代のままで、編成両端の1号車と6号車に設けている。

8000系の車内。小田急時代からの大きな変更点はない。【撮影:鉄道プレスネット】
ステッカー類も一部は小田急時代のものがそのまま使われている。【撮影:鉄道プレスネット】
変更されたステッカーもある。写真は所属鉄道会社と管轄警察が変わったことによる新しいステッカー。【撮影:鉄道プレスネット】
ドアの注意喚起ステッカーは西武30000系を模したデザインに。【撮影:鉄道プレスネット】

大きな変更点としては、車端部の座席を4人掛けから3人掛けにしたこと。これにより一人あたりの横幅が大きく拡大し、握り棒の位置も変えている。また、天井近くの広告枠は小田急が縦280mmなのに対し西武は縦364mmが中心のため、広告枠用のレールを追加。B3判の広告に対応した。一部の中づり広告も位置を変更している。

車端部の座席は4人掛けから3人掛けに変更。これに伴い握り棒の位置も変えている。【撮影:鉄道プレスネット】
車端部座席の握り棒の位置を変えたことで、旧位置の「痕跡」が確認できる。【撮影:鉄道プレスネット】

このほか、車内照明のLED化などを実施。一部の車内照明は防犯カメラを併設したものが導入されている。乗務員室は小田急用の自動列車停止装置(ATS)の表示器を撤去し、西武用の無線機器や列車情報機器、列車無線用モニターなどを設置した。

防犯カメラは車内照明併設型を導入した。【撮影:鉄道プレスネット】
ドア上部の案内表示装置。小田急車では決して表示されることのない西武線の駅名が表示されている。【撮影:鉄道プレスネット】
8000系の乗務員室。【撮影:鉄道プレスネット】
列車無線用のモニターは西武用のものに取り換えられた。【撮影:鉄道プレスネット】

西武鉄道の鉄道本部車両部車両課の窪谷紀生課長補佐は、報道公開後の記者会見で「中古車ということは目立たないようにしたが、利用者には気づかれるかもしれない」としつつ「何か突拍子もないものがいきなり現れたのではなく、昔から西武にいたような電車という風に受け取ってもらえるデザインを心がけた」と話した。

8000系の主要諸元。【資料:西武鉄道】

※追記(2025年4月22日21時05分):主要諸元表に誤りがあったと西武鉄道から連絡があり、該当部分を修正しました。

「中古車両」で電力消費量を早期削減

電車は架線から供給された電気を制御装置で調整してモーターを回す。制御装置はかつては抵抗器を使った方式(抵抗制御)が主流だったが、現在は電気を効率よく調整できるVVVFインバーター制御が主流だ。関東大手私鉄9社の場合、6社が業務用やイベント用の電車を除き、すべての電車がVVVF化されている。

一方、西武鉄道の電車は電力消費量が多い抵抗制御の車両もあり、VVVF化率は7割台にとどまっている。そこで同社は「2030年度までにVVVF化100%を達成し、電気の消費量を削減する」という目標を設定。VVVF機器を搭載した新造車両の導入に加え、他社からVVVF制御装置を搭載している既存車両、つまり「中古車両」を譲り受けることで抵抗制御の電車の更新を早期に進めることにした。西武鉄道はVVVF化の早期達成を目的に導入する中古車両を「サステナ車両」と銘打っている。

サステナ車両の導入にあたり、西武鉄道は「制御装置がVVVFであること」「改造範囲をできるだけ少なくできること」「西武線に導入されているホームドアのドア開口部の位置と車両のドア位置が合うこと」などを条件に他社車両を「物色」した。

ちなみに当初の方針では、車体が無塗装であることもサステナ車両の条件にしていた。無塗装の車体は軽量ステンレス製かアルミ製であることが多く、これにより車両の軽量化を図り、電気使用量の削減や保守費の削減を図ることができるからだ。

しかし、「無塗装」かつ「VVVF」という条件に見合う「出物」はそうそうあるものではない。「ステンレス(などの無塗装車体)は必須の条件ではなかった」(西武鉄道)といい、最終的には「無塗装」をサステナ車両の条件から除外。VVVFの制御装置を搭載した小田急8000形と東急電鉄9000系電車を導入することを決めた。

小田急8000形は1982年から1987年にかけ160両が製造された。車体は鋼製で制御方式は抵抗制御の一種である界磁チョッパ制御だが、2004年以降のリニューアルで制御装置を更新してVVVF方式に変更した。西武8000系の第8103編成も2006年のリニューアルでVVVF化されている。

小田急電鉄の8000形。【画像:たもぞう/写真AC】
西武8000系の車内にはVVVF化改造時の銘板(左上、2006年)と西武への譲受・改造を示すステッカー(2024年)が貼り付けられている。【撮影:鉄道プレスネット】

運用期間「劣化状態など見ながら」

西武8000系の第8103編成は今年2025年3月末までに試験を終了。5月末に営業運行を開始する予定で、国分寺線で運用される。西武鉄道は合計約40両の8000系を導入する計画だが、第8103編成に続く2編成目以降の導入スケジュールの詳細は「小田急電鉄の計画に左右される」として現時点では明らかにしていない。サステナ車両の第2弾になる東急9000系は約60両を譲り受ける計画。本年度2025年度以降に順次運行を開始する予定だ。

東急9000系もサステナ車両の第2弾として導入される。【撮影:草町義和】

サステナ車両の導入により、制御方式がVVVFではない101系電車や2000系電車は2030年度までに引退の見込み。一方でデビュー時は抵抗制御だったが、のちにVVVF制御に改造された9000系電車は2030年度までに引退させる計画はないという。

大手私鉄が他社から中古車両を導入した例としては、名鉄の3880系電車(もと東急3700系電車)がある。第1次石油ショックの影響で名鉄線の利用者が急増したのを背景に、緊急対策的に1975年から1980年にかけて21両を当時の東急電鉄から譲り受けている。もともと「ワンポイントリリーフ」的な車両だったことに加え、名鉄のほかの車両と仕様が異なることや新造車両の導入が進んだこともあり、最初の導入から10年後の1985年までに全車引退した。

西武8000系も製造から40年ほどが過ぎており、「VVVF化100%」を早期に達成するための「ワンポイントリリーフ」になりそうだ。窪谷課長補佐は「車両の劣化状態などを見て寿命を決めたい」と話した。

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