東京都葛飾区は、同区やJR東日本、JR貨物などで構成される「新金線旅客化検討委員会」が取りまとめた検討結果の報告書を公表した。鉄道として整備する4案に加えてバス専用道を整備する2案の合計6案を設定し、それぞれの利用者数や事業費、採算性などの試算結果を示している。葛飾区は5月19日から計3回、旅客化の検討状況の説明会を開催する。

新金線の旅客化は、総武本線貨物支線(新金線、新金貨物線)の新小岩~金町(約7.1km)に旅客列車を走らせ、葛飾区の南北交通の改善を図る構想。この区間は電化・単線だが、現在の線路の西側に複線化のための用地が確保されている。

この構想では、既存の施設に余裕がない金町駅への接続や、踏切渋滞の悪化が考えられる国道6号との交差、既存の線路が移設されていて複線化用地を連続的に活用できない高砂踏切付近の整備方法が大きな課題になっていた。葛飾区は2022年に検討委を設置。各課題に対応するため、鉄道を整備するA~Dの4案とバス専用道を整備するE・Fの2案を設定し、各案の検討を行っていた。


A・B案は旅客列車と貨物列車が線路を共用する案。行き違いのため一部を除いて複線化し、一部は高架化も行う。A案では新中川橋梁付近を除いて複線化するとともに、国道6号・高砂踏切は高架化により立体化。金町駅付近は旅客線を単線高架で整備する。B案は国道6号と高砂踏切の立体化は行わず、高砂踏切とその前後は単線のままとする。

C・D案は旅客と貨物の線路を分離する案。複線化用地を使って単線の旅客線を整備し、現在の単線の線路は引き続き貨物列車を走らせる。旅客線は行き違いのため、一部の駅を2線化する。C案は高砂踏切と国道6号踏切を含む区間で旅客線を高架で整備し、金町駅付近の旅客線も高架で整備。D案は国道6号踏切付近は高架化しない。

E・F案は複線化用地を活用して1車線のバス専用道を整備する案。新小岩駅は既設のバス乗り場(東北広場)を使用し、中間の停留所は上下のバスが行き違いできるよう2車線にする。E案は新小岩~金町にバス専用道を整備し、高砂踏切を含む区間はバス専用道を高架化。金町駅付近も高架のバス専用道を整備する。F案は新小岩駅から高砂踏切の手前までバス専用道を整備。高砂踏切付近から金町駅北口駅前広場まで一般道を走る。

緑=一般道を走行)。【画像:葛飾区】
設置する駅・停留所は、いずれの案も起終点を含め10駅と仮定。高齢者の一般的な徒歩圏(500m)や鉄道駅勢圏(800m)、バス停勢圏(300m)に加えて利便性・速達性の観点も考慮し、300~800mの間隔で整備する。
旅客運送を行う車両は、鉄道整備のA~D案で路面電車方式の軽量軌道交通(LRT)の車両を想定。宇都宮ライトレールが運用しているHU300形とほぼ同じ仕様を想定し、全長約30m、全幅約2.6m、床高約300mm、定員約160人とした。バス専用道のE・F案は連節バスの使用を想定。全長約18m、全幅約2.5m、床高約300~330mmで、定員は約120~140人とした。


1時間あたりの運行本数は、鉄道整備のA~D案でピーク時8本、オフピーク時4本。バス専用道のE・F案でピーク時10本、オフピーク時6本とした。駅間平均速度はA・B案が25km/h、C・D案が20km/h、E・F案は20km/h(一般道は13.6km)。全線の所要時間はA・B案が約17~21分、C・D案が約23~26分、E・F案が約26~28分とした。
運行の定時性は旅客線と貨物線を分離するC・D案とバス専用道を全線整備するE案で「全線専用線路(道路)のため優れる」とし、旅客列車と貨物列車が線路を共用するA・B案は「一部貨物線との共用線路のため部分的に影響あり」とした。バス専用道を一部整備するF案は「一部一般道路走行のため影響あり」としている。
事業方式は、鉄道整備・貨客共用のA・B案では土地と既存の施設を引き続きJR東日本が保有。旅客化施設は第三セクターが保有するとし、旅客列車の運行も第三セクターが行うものとした。鉄道整備・貨客分離のC・D案とバス専用道のE・F案は公設型上下分離方式を採用。施設と土地を葛飾区が所有し、第三セクターが旅客運送を行う。バス専用道のE・F案の旅客運送事業者は第三セクターに加え民間事業者も想定した。
概算事業費はバス専用道のE・F案が最も安く約320億~560億円。鉄道整備は貨客共用のA・B案が約450億~800億円。貨客分離のC・D案は最も高い約700~800億円とした。財源となる補助金や葛飾区の出資分を差し引いた借入額は、貨客共用のA・B案が約305億~610億円で、これは旅客運送事業者の第三セクターが借り入れる。貨客分離のC・D案は約10~15億円で葛飾区が借り入れる想定だ。E・F案では事業実施に伴う借入金がないとした。
これらの条件から需要予測などを実施したところ、1日あたりの利用者数が最も多いのは、鉄道整備・貨客共用のA・B案で約3万7000~4万4400人。鉄道整備・貨客分離のC・D案は約2万9000~3万3000人になった。バス専用道を整備するE・F案は約2万9000~3万人だった。
採算性の分析では、単年度営業収支でA・B案が約7億~10億円、C~F案で約5億~6億円の黒字。ただし30年目の累積資金収支は、第三セクターが資金を借り入れるA・B案で約280億~730億円の赤字とし、黒字転換しないとした。C~F案は葛飾区が施設・土地を保有するため、分析の対象外としている。
一方、費用便益比(B/C)はA・B案が約1.2~1.6、E・F案が約1.1~1.7で社会的効果が事業費を上回るものとしたが、C・D案は事業費を下回る約0.8~0.9とした。

検討委の報告書では、各案について「事業性、機能性、施設計画においてそれぞれ課題が異なる」「区が事業化を進めていく際には、こうした各ケースにおける課題の相関関係を考慮するとともに、所要時間の短縮や資金調達方法など、更なる機能性や事業性の向上についても検討を深めていくことが望ましい」とし、どの案が優位であるかは示さなかった。葛飾区は今後、各案の精査を行ったうえで採用案を決定するとみられる。

説明会は、5月19日18時30分から新小岩北地区センター、5月21日19時から金町地区センター、5月22時18時30分から高砂地区センターでそれぞれ開催。事前申込制で各回100人の定員制だが、会場に空きがある場合は当日参加も可能だ。申し込みは葛飾区のウェブサイトからアクセスできる専用フォームで受け付けている。
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