富士山登山鉄道「断念」代替はゴムタイヤ新交通 山梨県知事「できれば国産で」



富士山の山麓と5合目を結ぶ有料道路「富士スバルライン」に軽量軌道交通(LRT)を整備する構想「富士山登山鉄道」について、山梨県は断念することを決めた。同県の長崎幸太郎知事は11月18日の記者会見で構想の断念を表明。そのうえで代替となる新交通システム「富士トラム(仮称)」の構想を新たに示した。

山梨県が構想の断念を表明した富士山登山鉄道のイメージ。【画像:山梨県】

富士トラムは「ゴムタイヤで走る、電車の形をした新しいタイプのモビリティ」(長崎知事)を採用する。道路上にはレールを敷設せず、磁気マーカーや白線を敷設。電車タイプの車両が磁気マーカーや白線を読み取ることで所定の進行方向に誘導されて走る。自動運転に対応することも可能だ。

動力源は水素エネルギーの活用を想定。ゴムタイヤで一般道も走行できる利点を生かし、富士山周辺だけでなくリニア中央新幹線の山梨県駅(仮称)に乗り入れることも想定する。

長崎知事によると、磁気マーカーや白線の設置は大規模工事の必要がなく大幅なコストダウンが可能になる。また、磁気マーカーや白線で車両を誘導する方式のため、法令上は軌道法が適用されて路面電車の扱いに。これにより一般車の進入を規制することが可能で、富士山の来訪者コントロールを行うことができるという。

山梨県は訪日観光客の増加などを背景に、富士山の環境負荷軽減を目的にした登山鉄道の整備を構想。これに対し地元の富士吉田市などは自然環境の保護や災害発生時の安全性に問題があるとして登山鉄道の整備に反対している。

山梨県は11月13日に反対運動3団体との意見交換会を開催。開催後、「来訪者コントロールは必要であるとの意見で一致した」「県としては、各団体のご意見を踏まえ、引き続き富士山にふさわしい交通システムを研究して参りたい」とコメントしていた。

長崎知事は11月18日の記者会見で「(富士山登山鉄道の整備に対し)深刻な懸念を示してきた富士吉田市をはじめとする皆様の懸念をしっかりと受け止めて、鉄軌道に代えてゴムタイヤで走る新交通システムに転換する」と話した。登山鉄道の整備に反対している富士吉田市の堀内茂市長にも富士トラムの構想を事前に伝え、「ポジティブなご反応をいただいた」という。

トヨタや中国中車など開発例

鉄道のように通路に設置した装置などを使って車両を所定の方向に誘導して走らせるバス交通システムは、国内外に複数の開発例と実績がある。

トヨタ自動車は磁気マーカーで誘導する自動運転バス「IMTS」を開発。一時期、淡路島の農業公園で園内の移動システムとして使われていたことがある。2005年に開催された愛知万博では会場内の交通機関としてIMTSを採用。法令上は鉄道事業法が適用される鉄道として運行された。

韓国鉄道技術研究院も磁気誘導方式の自動運転バス「バイモーダルトラム」を開発。バス高速輸送システム(BRT)のバス専用レーンと連節タイプのバス車両を使った実証実験を行ったことがある。

トヨタが開発したIMTS。愛知万博では法令上は鉄道扱いで運行された。【撮影:草町義和】
バイモーダルトラムの実証実験で使われた連節タイプのバス。【撮影:草町義和】
バイモーダルトラム実証実験車からの眺め。バス専用レーンの路面に磁気マーカーが埋め込まれている。【撮影:草町義和】

中国の鉄道車両メーカーの中国中車は、路面に描いた白線を読み取ることで車両を誘導する交通システム「智能軌道快運系統」(智軌、ART)を開発。株州や西安など中国の複数の都市に導入されているほか、マレーシアなどでも導入の計画がある。

中国中車が開発したART。路面の白線を読み取ることで車両を誘導する。【画像:中国中車】

長崎知事は富士トラムに導入する具体的なシステムやメーカーについて、記者会見では明らかにしなかった。その一方で「海外の技術に着目しながら、県ではすでに国内メーカーとも接触を始めており、将来的には国産化の期待もしている」と話した。

また、「現状においては、この技術の実績を持っている唯一のメーカーがCRRC(中国中車)だが、我々としてはできれば日本企業で取り扱ってもらいたい。その製造拠点が山梨になったら、なお良しと思っている」と述べ、国産のシステム・車両での実現を目指したい考えを明らかにした。

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