2024年度「グッドデザイン賞」鉄道関係まとめ 「やくも」「PRiVACE」など



公益財団法人日本デザイン振興会は10月16日、「2024年度グッドデザイン賞」の受賞結果を発表した。審査対象は5773件で、このうち1579件が受賞した。

鉄道関係では、JR西日本の新型特急「やくも」(273系特急型電車)が「グッドデザイン・ベスト100」を受賞。阪急電鉄の有料座席サービス「PRiVACE」の専用車両などもグッドデザイン賞を受賞した。大賞(11月5日決定予定)の候補となる金賞の受賞はなかった。

おもな受賞対象は次の通り。

“特急やくも”のブランディング(273系電車と停車駅などトータルデザイン)

特急「やくも」に導入された新型車両の273系。【画像:マサユキ/写真AC】

●2024 グッドデザイン・ベスト100

受賞企業:JR西日本
事業主体:JR西日本

国鉄時代に導入された381系特急型電車の更新用として製造され、2024年4月から岡山~出雲市を結ぶ特急「やくも」で運用されている。

審査委員は座敷タイプに変換できるセミコンパートメントについて「とても日本的で居心地がいい」と評価。車上型の制御付自然振り子方式の採用については「振り子式列車にはよいイメージがないかもしれないが、やくもは独自の技術による自然な遠心力で乗っていて違和感がない」とした。

273系のセミコンパート。座席をお座敷のようにフラットシートに転換できる。【撮影:草町義和】

このほか、「やくも」が発着する出雲市駅の待合室についても「間接照明や地元の家具を使ったインテリアが秀逸」と評価した。

阪急電鉄株式会社 2300系 座席指定サービス「PRiVACE」用車両

阪急京都線の座席指定車「PRiVACE」。【撮影:鉄道プレスネット】

●2024 グッドデザイン賞

受賞企業:阪急電鉄/日立製作所
事業主体:阪急電鉄

阪急京都線で2024年7月からサービスを開始した有料座席指定サービス用の車両。審査委員は「まるで大正モダンな喫茶店の落ち着きを、通勤電車内で体験できるような空間」とし、「この快適さを500円から享受できることは驚き」と評価した。

PRiVACE車の車内。【撮影:鉄道プレスネット】

仙台市交通局 3000系車両

仙台市営地下鉄南北線に導入される3000系。【画像:日本デザイン振興会/CC BY-ND 2.1 JP】

●2024 グッドデザイン賞

受賞企業:仙台市交通局/日立製作所
事業主体:仙台市交通局

仙台市営地下鉄南北線で運用されている1000N系電車の更新車両として製造され、2024年10月から営業運転を開始する予定。審査委員は「明るさの中にも静謐さが漂う内装デザイン」と評価した。

3000系の車内。【画像:日本デザイン振興会/CC BY-ND 2.1 JP】

快速うれしート

「快速うれしート」の座席を指定席と自由席に区分するために設置されたのれん。【画像:日本デザイン振興会/CC BY-ND 2.1 JP】

●2024 グッドデザイン賞

受賞企業:JR西日本
事業主体:JR西日本

既存の鉄道車両の座席をそのまま活用した有料座席指定サービスで2023年10月に開始。指定席スペースと自由席スペースのあいだに暖簾(のれん)を下げることで区分し、設備そのものには手を付けずに低コストで座席指定サービスを導入した。審査員は「既存の設備を有効活用して利用者のニーズに応えるべく、暖簾を選んだ発想に感心した」と評価した。

会津柳津駅舎情報発信交流施設

改修された只見線・会津柳津駅の駅舎。【画像:日本デザイン振興会/CC BY-ND 2.1 JP】

●2024 グッドデザイン賞

受賞企業:柳津町/TIT/やないづ張り子工房Hitarito/喫茶日めくり/柳津観光協会
事業主体:柳津町

JR只見線の会津柳津駅にある駅舎。一時は解体も考えられたが柳津町が譲り受けて改修し、カフェや案内所を併設した情報発信交流施設として2024年4月にオープンした。審査員は「昭和の駅舎を地域の人々の記憶を頼りに改築や復元、新築などを織り交ぜながら丁寧に実現」したと評価した。

柳ヶ浦駅周辺地区整備

柳ケ浦駅とその駅前広場。【画像:日本デザイン振興会/CC BY-ND 2.1 JP】

●2024 グッドデザイン賞

受賞企業:アトリエT-Plus/九州工業大学大学院工学研究院建設社会工学研究系/熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター景観デザイン研究室/日本大学生産工学部環境安全工学科永村景子研究室/風景工房/WAO渡邉篤志建築設計事務所/モビリティデザイン工房/建設技術センター
事業主体:宇佐市

JR日豊本線・柳ケ浦駅の駅舎と駅前広場を一体化したデザインで再整備し、2024年3月に使用開始した。駅舎は旧駅長室を多目的室に改装したほか、駅舎前にはシェルターを設けた。

審査員は「周囲の長閑な雰囲気をそのまま駅前に持ち込んだようなシンプルな佇まいになった」「国鉄時代に整備された画一的なRC造の駅舎も新しいシェルターで美装化され、記憶を継承している」などと評価した。

南阿蘇鉄道高森駅・交流施設

プラットホームが広場として開放された高森駅。【画像:日本デザイン振興会/CC BY-ND 2.1 JP】

●2024 グッドデザイン賞

受賞企業:高森町・株式会社ヌーブ
事業主体:高森町

南阿蘇鉄道高森線の終点・高森駅の駅舎と交流施設。2016年の熊本地震からの復興の一環として整備され、2023年7月にオープンした。

南阿蘇鉄道は車内改札システムを採用しており駅での改札を行っていないことから、プラットホームを誰でも入れる広場と位置づけて設計した。審査委員は「小さなまちのためのモデルに限らず、チケットレスの時代の都市エリアの駅舎の在り方にも大きな示唆に富む実践にもなり得るだろう」と評価した。

《関連記事》
特急「やくも」の新型車両「273系」公開 山陰を演出した車内にブロンズの外装
阪急京都線の新型車両「2300系」公開 座席指定車「PRiVACE」車内も