北陸新幹線・敦賀~新大阪「日本一長いトンネル」出現? 詳細ルート図をたどってみた



国土交通省鉄道局と鉄道・運輸機構の2者は8月7日、北陸新幹線・敦賀~新大阪(小浜・京都ルート)の詳細なルート・駅位置の案を明らかにした。

長いトンネルを走り続けて新大阪駅に向かう北陸新幹線の列車のイメージ。【撮影:草町義和、加工:鉄道プレスネット】

「詳細」といってもルートを表現する線の幅は数百mで、駅の位置も直径1.5kmくらいの円で表現されているから、建設に必要な土地を明確に特定できるようなレベルではない。とはいえ、これまで公表されていたルートは幅10kmくらいはあるものだったから、それに比べれば詳細なのは確か。どのあたりを列車が走るのかイメージしやすくなった。

2者が公表した「詳細駅位置・ルート図(案)」で読み取れる情報を参考に、敦賀駅から列車に乗ったつもりで新大阪駅までのルートをたどってみた(鉄道プレスネットの推測を含む部分もある)。

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敦賀駅~小浜市(東小浜)付近駅

市町村:福井県敦賀市・美浜町・若狭町・小浜市

敦賀駅の13番線ホームから新大阪行きの列車に乗り込む。発車してすぐに車両基地(白山総合車両所敦賀支所)につながる回送線が左に分かれ、地上にあるJR北陸本線の線路と立体交差。敦賀駅の南西側に広がる市街地を高架橋で縦断してしばらく進む。

北陸新幹線の敦賀駅。【撮影:草町義和】
現在は行き止まりになっている北陸新幹線・敦賀駅の新大阪寄りの線路。終端部の先で北陸本線の線路と立体交差する。【撮影:草町義和】

敦賀駅から5kmほど走ったところでJR小浜線と交差してトンネルに入る。このトンネルを15kmほど走ったところでトンネルの外に出ると窓外に田んぼが広がり、小浜線の十村駅らしきものも見えた。

すぐにトンネルに入るが、またすぐに地上に出て窓外に舞鶴若狭自動車道の若狭上中インターチェンジと小浜線の線路が見えると再びトンネル。若狭湾に沿って西に進むルートだが、トンネルが多くて海の姿をじっくり見ることはできない。

このトンネルを8kmほど通って田園地帯を貫く高架橋に入ると、右窓に舞鶴若狭自動車道の小浜インターチェンジが見え、小浜線との立体交差部に設けられた小浜市(東小浜)付近駅に到着した。従来の小浜線・東小浜駅からは1kmほど離れているようだ。

小浜線との交差地点に設けられる小浜市(東小浜)付近駅のイメージ(写真は釜石線との交差部に設けられた東北新幹線・新花巻駅)。【撮影:草町義和】
北陸新幹線(小浜・京都ルート)の敦賀駅から小浜市(東小浜)付近駅までのルート(点線はトンネル)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

小浜市(東小浜)付近駅~京都市右京区京北比賀江町付近

市町村:福井県小浜市・おおい町、京都府南丹市、京都市

小浜市(東小浜)付近駅を発車して高架橋で国道27号と交差するとトンネルに入る。しばらく南西に進んで福井県と京都府の境界あたりから南に向きを変えるはずだが、窓外は暗闇が続いていてよく分からない。やっと窓外が明るくなると国道477号と大堰川(桂川上流域)が一瞬見えたが、数百m走ったところでまたトンネルの暗闇に飲まれる。

国道477号・大堰川との交差地点は京都市右京区の京北比賀江町あたりで、国道162号につかず離れずのルートで福井・京都の府県境に広がる山岳地帯を1本のトンネルで進んだことになる。その長さは35km程度。供用中の陸上鉄道トンネルとしては日本一長い東北新幹線・八甲田トンネル(約26km)を超え、建設中の北海道新幹線・渡島トンネル(約33km)やリニア中央新幹線・第1首都圏トンネル(約37km)に匹敵するはずだ。

福井・京都の府県境を貫くトンネルのイメージ(写真は工事中だったころの相鉄新横浜線の西谷トンネル)。【撮影:草町義和】
北陸新幹線(小浜・京都ルート)の小浜市(東小浜)付近駅から京都市北区中川北山町付近までのルート(点線はトンネル)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

京都市右京区京北比賀江町付近~京都駅~巨椋池干拓地南部

市町村:京都市、京都府宇治市・久御山町

京北比賀江町付近から再びトンネルで南下。いったん京都市の北区に入って再び右京区に入るあたり(北区中川北山町付近)で、ルートは「京都駅(東西案)」「京都駅(南北案)」「京都駅(桂川案)」の3案に分かれる。

中川北山町付近までは山岳トンネルとして整備されるが、3案は京都の市街地をシールドトンネルの地下線で貫く。途中、北陸新幹線の京都駅を地下駅として設置し、京都府宇治市・久御山町の境界付近となる巨椋池干拓地の南部で3案が合流して地上に出る。

つまり、京北比賀江町付近から巨椋池干拓地南部まで1本のトンネルでつながり、地上に出ることはない。どの案を採用するにしても、途中の京都駅で窓外が明るくなるほかはトンネルの暗闇が続くことになる。

京北比賀江町付近~巨椋池干拓地南部を結ぶトンネルの長さは東西案で41km程度、南北案で39km程度、桂川案で34km程度。東西案か南北案を採用するなら、日本一長い陸上鉄道トンネルになるはずのリニア中央新幹線・第1首都圏トンネル(約37km)よりさらに長くなる可能性がありそうだ。

北陸新幹線(小浜・京都ルート)の京都市北区中川北山町付近から巨椋池干拓地までのルート(青=東西案、赤=南北案、緑=桂川案)(点線はトンネル)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

京都駅(東西案)

山岳地帯を抜けて京福電鉄北野線(鳴滝駅北寄り)やJR山陰本線(嵯峨野線、花園駅西寄り)、阪急京都線(西京極駅付近)と交差。その過程で向きを南から東に変える。京都鉄道博物館の下を通り、現在の京都駅南側の地下に北陸新幹線の京都駅を設ける。

京都駅からは東→南→南西と大きなカーブを描いて進み、JR奈良線(六地蔵駅付近)や京阪宇治線(六地蔵駅付近)、近鉄京都線(向島駅南寄り)と交差。巨椋池干拓地南部の京都府久御山町・宇治市の境界付近に到達する。

京都駅(南北案)

嵯峨野線・花園駅西寄りまでは東西案と同じルートだが、その先で分かれて東に進み、嵯峨野線・二条駅の南寄りで嵯峨野線と交差。向きを南に変える。現在の京都駅の西寄り南側に北陸新幹線の京都駅を設ける。

その先は少し南に進むが近鉄京都線(上鳥羽口駅付近)と交差して西に向きを変え、河川の桂川をくぐるあたりから南に向きを変える。名神高速道路と交差した先で南西に向きを変えて巨椋池干拓地に入り、京都府久御山町・宇治市の境界付近に到達する。

京都駅(桂川案)

迂回ルートを描きながら現在の京都駅を通る格好となる東西案と南北案に対し、桂川案は直線的なルート。JR東海道本線(JR京都線)の桂川駅付近に北陸新幹線の京都駅を設ける。

3案が分かれる地点からほぼ南へ進み、嵯峨野線(太秦駅付近)や京福電鉄嵐山本線(帷子ノ辻駅付近)、阪急京都線(桂駅北寄り)と交差。桂川駅の北西寄り、陸上自衛隊桂駐屯地あたりに北陸新幹線の京都駅を設ける。

この先でJR京都線と交差して南東に進み、名神高速道路と交差したあたりから南北案とほぼ同じルートで巨椋池干拓地の南部に入る。

小浜・京都ルートの駅は小浜市(東小浜)付近駅と既設の敦賀駅を除き地下駅になる(写真は2階建て新幹線E4系が運行されていたころの東北新幹線・上野駅)。【撮影:草町義和】

車両基地

3案の合流地点近く、巨椋池干拓地に車両基地を設ける。厳密には3案合流地点の少し手前で、第2京阪道路の久御山ジャンクションの東側あたり。3案はシールドトンネルの地下線として建設することになるため、車両基地の位置も地下線の範囲内になる。

鉄道・運輸機構に取材したところによると、車両基地自体は地上に設けることが考えられている。ただし北陸新幹線の営業線路と車両基地をどう結ぶかは未定という。3案の地下線から地上に延びて車両基地に接続する回送線を設けるか、あるいは3案の合流地点の先にある地上区間と車両基地を結ぶ回送線を整備することになりそうだ。

巨椋池干拓地は宇治市や久御山町のハザードマップで水害発生時の洪水・浸水地域と想定されている。2019年、長野市内にある北陸新幹線の車両基地(JR東日本の長野新幹線車両センター)が水害で浸水し、留置車両が廃車になるなど大きな被害が発生したのは記憶に新しい。車両基地の敷地を相当な高さまでかさ上げする必要がありそうだが、その場合はトンネルの掘削で発生した土を活用してかさ上げすることになるかもしれない。

2019年の水害で浸水した北陸新幹線・長野新幹線車両センター。【丸岡ジョー/写真AC】

巨椋池干拓地南部~新大阪駅

市町村:京都府宇治市・久御山町・城陽市・八幡市・京田辺市、大阪府枚方市・交野市・寝屋川市・門真市・守口市、大阪市

3案が合流した先で地上に出て、少しカーブして南西に進む。やっと地上に出て窓外には市街地と田園が広がる。木津川を渡って第2京阪道路に並行するが、新名神高速道路が合流する八幡京田辺ジャンクション近くでトンネルに入る。地上に出てから再びトンネルに入るまで、わずか6kmだった。

このトンネルに入ってすぐ、地下駅の京田辺市(松井山手)付近駅に到着。JR片町線(学研都市線)・松井山手駅と第2京阪道路・京田辺パーキングエリアに挟まれたエリアのはずだが、地下駅だから地上の駅や道路の状況は分からない。

京田辺市(松井山手)付近駅を発車すると京都府から大阪府に移るが、窓外はトンネルの暗闇が続く。八幡京田辺ジャンクション付近から終点の新大阪駅までは全長約25kmの地下シールドトンネル。地上に出る部分はない。

関西の市街地の地下を通り抜けるシールドトンネルのイメージ(写真は工事中だったころの東京メトロ副都心線のシールドトンネル)。【撮影:草町義和】
北陸新幹線(小浜・京都ルート)の巨椋池干拓地から新大阪駅までのルート(点線はトンネル)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

学研都市線や第2京阪道路に絡むようにして枚方市や交野市、寝屋川市の市街地を南西に進む。京阪交野線(交野市駅南寄り)と交差して国道170号と第2京阪道路が交差するあたりで西に向きを変え、京阪本線(萱島駅付近)と交差する。しかしトンネル内ではどこでどこの市街地を通っているのか、どの鉄道路線と交差したのかは分からない。淀川をくぐってしばらくすると、新大阪駅の地下ホームに滑り込む。

全長約140km前後の小浜・京都ルートのうち地上に出る部分は20kmもないとみられる。地上に出る部分も大半は防音壁を高くした高架橋になると思われ、景色が楽しめない路線になるのは確実だ。比較的大きな国の割に可住地面積が小さい山岳国であることを実感させてくれるという意味では、興味深いルートといえるかもしれない。

そもそも、小浜・京都ルートは従来の試算より事業費が大幅に膨らみ、工期も大幅に長くなることが明らかになっている。そのため小浜・京都ルートよりは事業費が安くなり工期も短い米原ルートの再考を求める声も高まっており、小浜・京都ルートで着工するかどうかは不透明な情勢になってきた。ここで描いた小浜・京都ルートの車窓は「幻の車窓」になるかもしれない。

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