長野県飯田市は6月17日、JR東海が同市内に整備するリニア中央新幹線・長野県駅(仮称)と周辺地域を連絡する二次交通の調査結果を明らかにした。長野県駅の近くを通るJR飯田線に「乗換新駅」を整備するより、バスやタクシーなどで飯田線の既設駅と連絡するほうが優位とした。
この調査は飯田市が2021年度に実施したもの。長野県駅と飯田線の連絡について、乗換新駅を整備する「ケース1」とバス・タクシーで既設駅に連絡する「ケース2」を対象に、経済性や所要時間、利便性、地域への波及効果の観点から比較検討を行った。
乗換新駅は整備費が約8億円で、年間の運行経費が約360万円。所要時間は市田駅まで約13分、天竜峡駅まで約42分となった。待ち時間は市田駅までが平均32分で最大約99分。天竜峡駅までは平均38分、最大約113分としている。
乗換回数は1回か2回。長野県駅から乗換新駅までの徒歩移動距離は約300mで、乗換新駅での乗降時に階段の昇り降りがあるほか飯田駅の乗換時にも階段の昇り降りがある。地形上、長野県駅と乗換新駅の高低差が大きくなるため、高齢者や手荷物がある場合は利用しにくいとした。
既設駅への連絡は、元善光寺駅と飯田駅に連絡する二つのケースを検討。連絡手段はバス・タクシーを想定したが、技術開発が将来進んだ場合は小型自動運転バスを導入するとした。
元善光寺駅への連絡は駅前広場の整備費として約2000万円かかる。年間の運行経費は約1300万円。所要時間は市田駅まで約7分で、待ち時間は平均32分、最大約103分とした。乗換回数は2回。階段の昇り降りは生じない。
飯田駅への連絡は新たなインフラ整備がないとした。年間の運行経費は約4800万円かかる。天竜峡駅までの所要時間は約38分。待ち時間は平均31分、最大約69分かかる。乗換回数は2回。飯田駅での乗換時に階段の昇り降りがある。
乗換新駅は運行経費が最も低く乗換回数も既設駅連絡よりやや優位だが、それ以外の所要時間や待ち時間などでは既設駅連絡より不利になる。一方、既設駅連絡は運行経費や待ち時間、乗換回数の面で一部不利だが、それ以外は乗換新駅案よりほぼ優位となる。総合評価では乗換新駅より既設駅連絡のほうが優位とした。
飯田市は長野県駅から北へ約300mの位置に乗換新駅を設置する方針だったが、2020年10月の市長選で乗換新駅の中止を公約に掲げた佐藤健氏が当選。乗換新駅が整備される可能性は低くなっている。
佐藤市長就任後の2021年2月に飯田市が明らかにした比較検討資料によると、現在の飯田線の線路に乗換新駅のホームを設置する場合、事業費は概算で約3億2000万円。ただしホーム部分の勾配が25パーミルで「鉄道に関する技術基準を満たしていない」とした。
一方、現在の線路を改良してホーム部分の勾配を10パーミルに抑える場合の概算事業費は、かさ上げ案が約7億7000万円、切り下げ案が約5億3000万円。いずれも路盤のかさ上げ・切り下げのほか橋梁の架け替えなどが必要で、工事では列車の運休とバスによる代行輸送などが必要としている。
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