鉄道会社「著作権侵害」事件簿 裁判記録から見えてきた「誤解」や「勘違い」



ここ10年近く、鉄道会社が著作権を侵害したとする話をときどき聞くようなった。全国紙や地方紙で報道されたケースに限って確認しても、おおむね1~2年に1回のペースで発覚しているように感じる。

他者が撮影した写真を無断で使って報道資料やポスターなどを制作すれば著作権の侵害になる可能性が高い。【撮影:草町義和、加工:鉄道プレスネット】

著作権のトラブルは鉄道業界に限ったことではないし、私が鉄道を専門にする記者だから鉄道会社による著作権侵害に気づきやすいという面もあるだろう。とはいえ、同じ業界内で著作権のトラブルが繰り返し発生しているのは気になる。過去の「事件」を振り返りながら、鉄道会社が著作権を侵害してしまう理由を考えてみた。

写真や新聞記事を無断使用

2015年1月、JR東日本の新潟支社は特急「いなほ」を5年ぶりに485系電車の国鉄色編成で臨時列車として新潟~青森で運行すると発表。そのときの報道資料で使った写真は、個人ブログで公開されていた「いなほ」の写真を無断使用したものだった。『新潟日報』2015年1月24日夕刊などによると、撮影者が写真を無断使用されたとSNSで指摘し、これに気づいた新潟支社が謝罪。その写真を削除した報道資料が改めて公表された。

鉄道会社ではないが、2016年7月には車両メーカーの協力会社が写真を無断使用している。『山陰中央新報』2016年7月15日朝刊によると、協力会社が一畑電車に導入する新型車両のイメージを制作。個人のウェブサイトで公開されていたJR四国7000系電車の写真を撮影者の許可なく加工して制作した。

一畑電車の新型車両はJR四国の7000系をベースに開発、製造されており、JR四国7000系の写真データを使えば一畑電車の新型車両のイメージを比較的容易に制作できる。イメージのデータが一畑電車に渡って同社がウェブサイト上で公開したところ、これも撮影者の指摘で無断使用が発覚した。

東京急行電鉄(現在の東急、鉄道事業は子会社の東急電鉄に移管)も2017年10月、大井町線の7両編成化と新型車両6020系電車の導入に関する報道資料で、個人ブログの写真を無断で使用。やはり個人ブログを運営している撮影者の指摘を受け、東京急行電鉄が謝罪している(『読売新聞』2017年10月13日朝刊など)。

2020年2月には、つくばエクスプレスを運営する第三セクターの首都圏新都市鉄道が『東京新聞』の記事を社内ネットワークに無断転載していたとして、発行元の中日新聞社が損害賠償を求めて提訴。同年5月には日本経済新聞社も同様の理由で提訴した。

1審の東京地裁(2022年10・11月)は首都圏新都市鉄道に対し合計651万円を支払うよう命令。2審の知財高裁(2023年6月)も中日新聞社分の賠償額を減額したが日経分の賠償額は増額し、合計では829万円に増額された。共同通信社も、これらの訴訟の記録から同社の配信記事が無断転載されていることが判明したとし、2023年11月に提訴している。

JR東日本では新潟支社の無断使用から7年後の2022年6月、千葉支社で写真の無断使用が発覚した。内房線・蘇我~姉ケ崎の開業110周年記念として企画された客車列車の報道資料で、ネット上に公開されていた写真を無断使用。やはり撮影者からの指摘を受けて謝罪し、無断使用した写真を削除した報道資料を改めて公開した(『朝日新聞』2022年6月3日東京地方版/千葉)。同年9月にも盛岡支社がネット上の写真を無断使用した報道資料を作成。撮影者からの指摘を受けて11月に謝罪している(『岩手日報』2022年11月16日朝刊)。

理由は「単純ミス」だけ?

こうしてみると、とくに目立つのが写真の無断使用だ。ネット上の写真を無断で使用し、撮影者が気づいて謝罪に追い込まれたケースが多い。

発覚当時の報道によると、鉄道各社は無断使用に至った理由として「広報などの参考用として保存していた画像を取り違えて使用」(JR東日本盛岡支社のケース、『岩手日報』2022年11月16日朝刊)や「資料作成の際にインターネットで見つけたブログの画像を転用」「正式な写真に変更せず、そのまま発表」(東急のケース、『読売新聞』2017年10月13日東京夕刊)を挙げている。

意図的に無断使用したわけではなく、公表時に著作権上の問題がない写真に差し替えるのを忘れていたという「単純ミス」だ(※1)。とはいえ同じ業界内で何度も似たケースが相次いでおり、とくにJR東日本は支社が異なるとはいえ3回も発覚している。社内や業界内で著作権トラブルの情報共有ができていないように思う。

しかし、単純ミスや情報共有の不足だけが相次ぐ無断使用の理由だろうか。私は東武鉄道と同社から駅業務を受託している東武ステーションサービス(東武SS)が民事で訴えられた裁判の記録から、写真を無断使用してもかまわないという誤解や勘違いが、鉄道会社の側に少なからずあるのではないかと感じる。

この民事訴訟の判決文などによると、埼玉県在住の男性が撮影しネット上で公開していた「SL大樹」など東武鉄道の列車の写真を、東武SSに所属する社員がダウンロードしてポスターに加工。2020年、使用許可を受けないまま東上線の駅に掲出した。

これに気づいた男性が東武に連絡して交渉の場が持たれたが調整が付かず、男性は2021年3月、さいたま地裁に提訴。東武鉄道・東武SSに対し写真使用料と慰謝料の支払い(合計125万円)などを求めた。さいたま地裁は2023年2月、東武SSに合計50万円の支払いを命令。写真使用料は大幅に減額されたが、慰謝料(20万円)は満額認めた。

この裁判で東武は裁判の全面的な棄却を主張。その理由の一つとして挙げたのが、写真の著作物性の有無だった。東武は無断使用した写真に著作物性はないとした。

これについては少し説明がいる。裁判で取り上げられた写真は特殊なもので、列車の編成をどこから見ても完全な真横になる構図で作成したもの。実際は長い編成の列車を完全な真横になるよう撮影するのは難しく、線路を走り抜けていく列車を横から動画で撮影。真横で撮影できた部分のみ静止画で切り出し、それをつなぎ合わせて1枚の写真に加工している。

写真は著作物ではない?

写真は基本的に著作権法で保護される著作物だが、東武は「完全真横編成」の写真を「車両を横から写したもので車両の形状を忠実に写し取ったものにすぎず、このような写真はありふれたものである」と主張した。ありふれた表現だから「思想又は感情を創作的に表現」(著作権法第2条)した著作物ではなく、著作権が発生しないから無断で使用してもかまわない、という論法だ。

しかし、この主張にはかなり無理がある。列車を完全な真横で撮影するのは先に述べた通り難しく、撮影や制作にはそれ相応の工夫を駆使する必要がある。こうした写真を撮影する人は少なく「完全真横編成」の写真を見る機会も多くないから、ありふれた表現とは言い難い。

また、東武は裁判で「アイデアや表現の手法それ自体などの表現でないものは、著作権法で保護されるものではない」とも主張している。その通りだとは思うが、アイデアや表現の手法を駆使して制作した写真には著作権が発生する。ここにも著作権に対する誤解が感じられる。

もし東武の主張が通るなら、たとえば鉄道写真家の広田尚敬さんが1982年に発表した「完全真横編成」の写真集『動止フォトグラフ』(交友社)には、著作物性がないということになる。当時、広田さんは特殊なカメラを自作したうえで「完全真横編成」の写真を制作しており、いま以上に工夫を凝らす必要があった。東武は広田さんに対し「あなたの写真は著作物ではない」と言えるのだろうか。

商標権や意匠権と混同?

さらに東武は、裁判で取り上げられた写真の被写体が自社、つまり東武鉄道の車両であることを理由に著作物性が認められないとも主張した。東武が提出した準備書面(2021年11月)では「当社(東武鉄道)が所有、使用している車両であるにもかかわらず、写真を使用するたびに著作権の確認をしなければならなくなり、著作物として保護されるものでない」としている。

これは商標権や意匠権と混同しているように感じる。他社の商品と同じものを無断で製造して販売すれば商標権や意匠権を侵害する可能性は高いが、商品を撮影した写真は基本的には商標権や意匠権が及ばない。東武側はそれと同様に写真の著作権も発生しないと誤解したのだろうか。

あるいは「自分が保有している車両の写真なのに、なぜ自分がその写真を自由に使えないのか」という不満があったのかもしれない。しかし写真の著作権は基本的に撮影者が持つ。被写体の所有者が誰であるかは関係ない。

判決では著作物性の有無について、東武の主張は全面的に退けられた。先に挙げた東武以外のケースでも、問題になった写真の被写体は一畑電車の新型車両のケースを除き、写真を無断使用した鉄道会社が所有している車両だった。「自社の所有物の写真だから自由に使ってもかまわない」と勘違いしていたフシは感じられる。

東武の裁判ではもうひとつ気になったことがある。写真の無断使用によって制作されたポスターの責任は誰にあるのか、という点だ。

東武の準備書面(2022年3月)などによると、このポスターは東上線の駅に勤務していた東武SSの現業社員が発案し、業務時間外に自宅などの職場外で自発的に制作したもの。ポスターの掲示は駅の所属長らが自発的に立ち上げた連絡会で決めたという。東武はこれを理由に「職務上作成した著作物ではなく、東武SSが著作者となることもない」とし、会社としての責任はないと主張した。

しかし駅施設などに掲示する以上、本来は自発的かどうかは関係なく会社が責任を負うべきではないだろうか。実際、裁判ではポスターは東武の名義で発表された著作物ではないとされたが、東武SSには掲示に際して著作権を侵害していないかどうかなどを確認する注意義務があり、それを怠ったとして東武SSの責任が認められている。

「プロではないプロ」の危うさ

駅などに掲示されているポスターは広告会社などに発注して制作したものだけではない。駅員など現業社員が制作したものもある。それらはいい意味で「手作り感」があり、見ていて頬が緩んでしまうことも多い。ただ、現業の社員は鉄道運行のプロであっても知的財産のプロではない。そこに誤解や勘違いが発生しやすい危うさがあるのではないか。

ある大手私鉄では、社員が撮影するなど著作権上の問題をクリアにした写真のデータを社内の共有サーバーにアップロードし、社員なら報道資料やポスターの制作などで自由に使えるようにしているという。これなら個々の社員に著作権の知識がなくても問題なく使用できるし、教育コストも抑えられるはずだ。

東武鉄道は2023年6月、東上線の座席指定列車「TJライナー」の15周年を記念して制作したヘッドマークのデザインが他社のものと類似しているとの指摘を受け、掲出を中止すると発表。どの鉄道会社のヘッドマークに類似しているかは発表しなかったが、ネット上ではJR中央・総武緩行線の列車に掲出された鉄道開業150周年記念のヘッドマークに似ていると指摘された。

その後、新しいデザインのヘッドマークが制作され、10月から掲出された。類似しているからといって必ずしも著作権を侵害したとはいえないが、先の裁判の判決から数カ月後のことで、慎重さが足りないのではないかとも思う。

鉄道会社の本業はあくまで鉄道の運行であって、著作物の制作ではない。そのことを肝に銘じたうえで対策してほしい。

※1:公表前の検討・制作の段階であっても、一定の条件がそろわなければ著作権の侵害を問われる可能性はある(著作権法第30条の3)。

※追記

この原稿を書き上げた直後の2024年1月19日、個人運営のウェブサイトの文章を書籍で無断使用したとして、鉄道誌『レイル・マガジン』や鉄道模型誌『RM MODELS』などを発行している出版社「カルチュア・エンタテインメント」と書籍の著者が謝罪した。こちらは「プロではないプロ」ではなく正真正銘の「プロ」。しかも現物を見る限り合法的な引用や軽微な侵害とはとても思えず、非常に残念だ。

私など足元に及ばないほど鉄道に関する知識や知見を持っている人は多いが、そのような人でも他者の著作物を雑に使用しているケースをときどき見かける。私も通り一遍の知識しか持ち合わせていないし、とくに無断使用できるケースとできないケースの境界では迷うことが多い。法令や判例を厳格に解釈して軽微なものも含めれば、他者の著作権を侵害したことが一度もないとは言えないだろう。とはいえ一定の配慮はしているつもりだし、皆さんにもこれを機に著作権のルールを改めて確認いただければと思う。

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