京成電鉄は7月12日、京成佐倉駅(千葉県佐倉市)から京成上野駅(東京都台東区)まで旅客列車による農産物輸送の実証実験を実施し、報道関係者に公開した。
この日の朝8時15分頃、「野菜がつくる未来のカタチ(チバベジ)」が佐倉市内で収穫した野菜類を京成佐倉駅に搬入した。チバベジは規格外野菜の販路開拓などでフードロスの削減を目指す一般社団法人。今回は京成上野駅に規格外野菜を持ち込んで販売する。トラック輸送の代わりに鉄道を活用することで二酸化炭素(CO2)排出量の削減も狙う。箱に詰められた野菜を見る限り不自然な点はみられないが、チバベジの関係者によれば、これでも規格外野菜という。
野菜を載せた台車はいったん改札を通って駅の事務室に入る。8時27分頃、エレベーターを使って1・2番線ホーム(上り京成上野方面)へ。エレベーターの先は跨線橋の階段が設置されていてホームの幅が狭い。慎重に台車を走らせていく。
こうして京成成田寄りのホーム端部に到着。野菜を入れた箱を台車からおろし、ホームに設置されているベンチ状の板の上に載せた。この板は「担ぎ台」と呼ばれるもの。千葉県内から東京へ野菜などを売りに行く行商人が、野菜などを詰めた箱を列車に乗るまで置くためのものだ。
かつては行商人専用の貸切列車も運転されていたが、行商人の減少に伴って1982年に運転を終了。これ以降は一般列車の最後尾1両を行商専用車としたが、これも2013年3月に終了している。近年は行商人の姿が見られなくなり、担ぎ台もベンチ代わりに使われるようになっていた。今回の実証実験では担ぎ台を本来の目的で再び使うことになったといえる。
8時57分頃、2番線に着席保証の通勤客向け有料特急「モーニングライナー208号」が入線。担ぎ台のそばには最後尾の1号車が停車した。京成佐倉駅では「モーニングライナー208号」は3号車のドアしか開かないため、京成電鉄の社員が箱を手に持ち3号車のドアまで移動。ここから1号車の末端まで移動し、大型荷物置き場に箱を載せた。まるで行商専用車が復活したかのようだ。ただし今回の実証実験では、1号車の京成上野寄り座席は通常通り一般客が利用しており、「半分専用車」といったところか。
担ぎ台のすぐそばに1号車が停止するのだから、1号車のドアを開ければ移動距離を短縮できるはず。京成電鉄の関係者によると今回は実証実験ということもあり、通常通りのドア扱いで対応。その一方、何かあったときにすばやく対応するため、車掌の乗務場所(通常は最後尾1号車の運転室)に一番近い1号車の荷物置き場に載せるのがいいと判断したという。
「モーニングライナー208号」はトラブルもなく順調に京成本線を走り、9時49分、終点の京成上野駅に到着。ホームで箱を台車に載せ、改札外コンコースにある東京観光情報センターの前まで移動した。手際よく野菜が並べられ10時過ぎに販売開始。幾人かの人が足を止めて、さっそく購入していた。
京成本線の農産物輸送は3月から京成佐倉→成田空港で実証実験が始まり、空港内のレストランに野菜などを提供。7月8日から本格運用に移行している。京成電鉄の関係者によると、京成佐倉→京成上野の実証実験は今回の1回だけで今後については未定。採算性などさまざまな観点から本格運用の実施について検討するという。
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