奈良県「リニア駅」「近鉄移設」など予算執行を一時停止、査定へ 新知事が指示



4月の奈良県知事選挙で当選した山下真知事は5月8日、奈良県庁で就任記者会見を行った。本年度2023年度予算に盛り込まれていたプロジェクトの一部について、山下知事は同日付けで予算の執行をいったん停止するよう指示。執行の可否や見直しを判断するための「予算執行査定」を行うと発表した。

リニア中央新幹線に組み込まれる山梨リニア実験線。【撮影:草町義和】

鉄道関係では、リニア中央新幹線・奈良市付近駅の位置などの早期確定に向けた検討と、奈良市付近駅~関西空港を在来線の改良などで結ぶ接続線の検討(2023年度予算は合計4500万円)について、予算執行を停止した。

リニアの奈良市付近駅をめぐっては5カ所で誘致の動きがあり、奈良県は2022年9月、候補地を3カ所に絞ってJR東海に打診していた。山下知事は奈良市付近駅を「当然必要の立場」としつつ「駅位置は基本的にJR東海が決定するもの」とし、県としてどこまで関与する必要があるのか再検討するとしている。

一方で接続線については「必要だと私は到底思えない」「予算執行はしないという判断になる可能性が高い」などと話し、事業の中止を示唆した。

リニア奈良市付近駅の候補地。奈良県は3カ所(赤)をJR東海に打診した。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】
奈良市付近駅と関西空港を結ぶ接続線のルート(青:在来線の改良、赤点線:新線の建設)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

近鉄線の高架化事業などの調査(2023年度予算は1億2500万円)も予算執行を一時停止した。この事業は、近鉄奈良線・京都線・橿原線が合流する大和西大寺駅付近を高架化するとともに、近鉄奈良線・大和西大寺~近鉄奈良の線路を平城宮跡の敷地外に移して地下化し、合計8カ所の踏切を解消するプロジェクト。2021年3月、奈良県と奈良市、近鉄が実施に向け合意した。総事業費は約2000億円と見込まれており、合意では2041年の工事着手、2060年の完成を目指すとしていた。

山下知事は大和西大寺駅付近の高架化について「やったほうがいいと思う」とする一方、大和西大寺~近鉄奈良の移設・地下化は「あまり意味がないだろう」とし、「(大和西大寺駅付近の)高架化はするけど、そのまま下げていって、いまの平城宮跡のなかのルートを通る」案を基本に、近鉄や国土交通省と協議する考えを示した。

大和西大寺~近鉄奈良間の高架化・移設ルートと解消される踏切の位置。【画像:国土地理院地図、加工:草町義和・鉄道プレスネット】
高架化に向け動き出していた大和西大寺駅。【画像:DR_AC/写真AC】

また、リニア中央新幹線の建設で発生する土を活用して2000m級の滑走路を整備することが想定されている大規模広域防災拠点(五條市)の整備費など(2023年度予算は26億3350万、債務負担行為20億円)も、予算執行が停止された。

近鉄橿原線・八木西口~畝傍御陵前の新駅構想のきっかけになった奈良県立医科大学の移転と医大病院施設・新外来棟の整備(2023年度予算は132億3460万円)は、新外来棟の基本計画策定とスキルラボ棟・教育研修棟の移転先の設計について、予算執行査定を実施したうえで執行の停止を指示するかどうか検討する。

山下知事は予算執行査定を6月上旬までに終わらせ、事業の中止や予算執行の一時停止を判断する考えだ。

このほか、JR西日本の関西本線(大和路線)・郡山~奈良で事業中の高架化(2023年度予算は23億564万円、債務負担行為3億2000万円)は、高架化区間への設置が考えられている新駅について、2023年度予算に限らず事業全般に対するヒアリングを実施する。ヒアリングは7月以降に時間を確保して実施する予定だ。

山下知事は2006年から2015年まで奈良県の生駒市長。2015年の奈良県知事選挙に立候補したが現職の荒井正吾知事に敗れ、2017年の奈良市長選挙でも現職の仲川げん市長に敗れた。2023年4月の奈良県知事選挙では、日本維新の会公認候補として出馬。荒井県政が推進していた大型事業の見直しを公約に掲げ、当選を果たした。

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