奈良の防災拠点、滑走路整備に「リニア発生土」活用を想定 「貨物列車」輸送も検討



奈良県は大規模広域防災拠点(五條市)の整備に向け、用地買収や準備工事に着手する。同県が県議会に2月25日に提出した来年度2022年度当初予算案に、防災拠点などの整備費として49億300万円(債務負担行為14億6900万円)を計上した。将来的にはリニア中央新幹線の工事で発生した土を防災拠点の整備に活用することを想定。発生土の輸送に貨物列車を使うことも考えられている。

防災拠点が整備される五條市内を走る「リニア発生土」輸送の貨物列車のイメージ。【撮影:草町義和、加工:鉄道プレスネット】

2022年度は用地買収に着手。現地測量や地質調査、実施設計などを引き続き行うほか、準備工事も順次着手する。また、防災拠点の運用方針について関係機関と具体的な調整を行う。造成工事は2022年度末頃から始まる見込みだ。

このほか、京奈和自動道の五條西インターチェンジから防災拠点を経由して国道168号に接続するアクセス道路について、事業化に向けた測量・調査・設計などのほか都市計画の手続きを進める。

この防災拠点は、奈良県内や紀伊半島で大規模な災害が発生した際、支援部隊の集結や支援物資の中継・配分の拠点として使用するもの。JR和歌山線の五条駅から南西約4kmのゴルフ場敷地を活用する。奈良県は2020年から地権者との協議や補償調査を実施しており、昨年2021年6月には防災拠点の基本計画を策定した。

奈良県は早期の供用開始を目指し、3期に分けた段階的整備を計画している。第1期では5haの平らな敷地を整備。第2期は敷地面積を約46haに拡大し、600m級の滑走路も整備する。第3期(約73ha)では滑走路を2000m級に拡張する。整備期間の想定は第1期の造成工事が着工から2年目。第2期の造成・建築工事は3~10年目に行う。11年目からは第3期の工事に取りかかり、20年目の完成を目指す。

第3期の滑走路拡張工事では谷部を埋める必要があるため、大規模な盛土工事が必要だ。奈良県はリニア中央新幹線の工事で同県内だけで700万立方m程度の土が発生するとし、この発生土を活用して滑走路の拡張部分を整備する考えだ。

防災拠点の段階的整備イメージ。第3期では谷部を埋めて滑走路を延長する。【画像:奈良県】

発生土の輸送は環境への配慮や脱炭素を考慮し、鉄道貨物輸送を検討する。奈良と五條に発生土の積み卸しを行う貨物駅を新設。JR在来線の関西本線(大和路線)や和歌山線に貨物列車を走らせ、発生土を運ぶことが考えられている。貨物駅は本線・荷役線・留置線と土砂の積み卸しを行うコンテナホームを整備。構内規模は長さ400m・幅25mを想定している。

リニア中央新幹線の奈良市付近駅と大規模広域防災拠点の位置。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

リニア中央新幹線の工事による発生土の鉄道貨物輸送は現在、神奈川県川崎市内で行われている。同新幹線の資材搬入口(開業後は非常口)がある武蔵野貨物線の梶ヶ谷貨物ターミナル駅から鶴見線の扇町駅(三井埠頭)まで、発生土専用コンテナを積んだ貨物列車が運行されている。

奈良県はこのほか、大和路線・和歌山線の改良と新線の整備を組み合わせてリニア中央新幹線の奈良市付近駅と関西空港を結ぶ鉄道「リニア中央新幹線・関西国際空港接続線」(リニア接続線)を構想している。発生土輸送を鉄道で行う場合、それに伴い整備された貨物駅や在来線の改良施設などをリニア接続線で活用することも考えられそうだ。

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