成田空港「ワンターミナル」で鉄道どうなる? ルート、駅の位置、輸送力、速度



日本の「空の玄関口」として知られる成田空港(千葉県成田市)ではB滑走路の延伸(2500m→3500m)とC滑走路の新設(3500m)による機能強化が計画され、6年後の完成を予定している。これに伴い旅客ターミナル再配置の検討も行われており、現在は新しい旅客ターミナルの候補地が示されたところ。今後は鉄道についても再配置の検討が進むとみられる。

「ワンターミナル化」が検討されている成田空港。【撮影:草町義和】

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成田空港を運営する成田国際空港会社は3月30日、「新しい成田空港構想検討会」(委員長:山内弘隆運輸総合研究所長)がまとめた『中間とりまとめ』を公表。3カ所に分散している旅客ターミナルを1カ所に集約する「ワンターミナル化」を図るとし、新旅客ターミナルの整備などを盛り込んだ。

新旅客ターミナルの候補地は現在の第2ターミナルの南側。『中間とりまとめ』は候補地の選定理由として「滑走路の配置とバランスの取れた位置」「ある程度まとまりのあるエリアが確保可能」「既存ターミナルの運用を継続しながら段階的な整備が可能」などを挙げている。

「新しい成田空港」の将来配置イメージ。現在は3カ所に分散されている旅客ターミナルを1カ所に集約する。【画像:成田国際空港】

整備スケジュールとしては、B滑走路延伸とC滑走路新設が完成する予定の2029年3月末以降、第1期と第2期の2段階に分けて実施する考えを示した。第1期では現在の第2ターミナル南側に新旅客ターミナルを半分整備し、現在の第2・3ターミナルと接続。現在の第1ターミナルは閉鎖する。これにより新旅客~第2~第3を一体化した暫定的なワンターミナルとし、乗継利便性の向上や固定ゲートなど一部施設の共用化による高効率な運用を目指す。

第2期では第1ターミナルの跡地に新旅客ターミナルの残る半分を整備し、現在の第2・3ターミナルを閉鎖。チェックインや保安検査、出入国手続きなどの機能を集約し、分かりやすさや利便性の向上を図るという。

B滑走路延伸とC滑走路新設(左)ののち、第1期として新旅客ターミナルを半分整備(中央)、その後、第2期として新旅客ターミナルの残り半分を整備する。【画像:成田国際空港】

成田空港は1978年に開港し、A滑走路と第1ターミナルの使用を開始。その後、第2ターミナルやB滑走路、第3ターミナルが順次整備された。航空機の発着回数は開港翌年度の1979年度が5万2613回だったのに対し、コロナ禍前の2018年度は約4.9倍の25万6821回に拡大している。

首都圏空港(羽田・成田)の計画上の処理能力は75万回に設定されているが、発着回数は今後も増え続けるとみられ、2020年代には計画処理能力を超過すると予測されている。このため成田空港でも機能強化が計画され、成田国際空港会社は2020年1月、国土交通大臣からB滑走路延伸とC滑走路新設の許可を受けた。完成予定は2029年3月31日だ。

これに伴い旅客ターミナルの再配置も考えられるようになった。『中間とりまとめ』などによると、開港当初からある第1ターミナルや貨物施設は使用開始から40年以上が過ぎて老朽化が深刻な問題に。これに加えて現在の成田空港のコンセプトや施設配置は半世紀以上前に決定されたもので現状に即しておらず、ターミナルの分散配置などで非効率な運用を強いられているという。

こうしたことから空港施設の再配置も検討されることになり、成田国際空港会社は2022年10月、学識経験者や国、地元自治体などで構成される検討会を設置。これまでワンターミナル化などを中心に検討を進めてきた。

ルートの全面変更なし?

『中間とりまとめ』は新旅客ターミナルの大まかな候補地や事業の進め方などを提示しているが、成田空港アクセス鉄道の具体的な再配置は直接的には触れていない。ただし新旅客ターミナルの候補地の選定理由の一つとして「アクセス機能(鉄道・道路)の接続が可能」を挙げていることから、鉄道ルートの全面的な変更は行われないとみられる。

成田空港アクセス鉄道は現在、JR東日本の成田線空港支線と京成電鉄の成田スカイアクセス線・本線の2社3線で、空港第2ビル駅(第2ターミナル駅)と成田空港駅(第1ターミナル駅)が設けられている。しかし第2ターミナル駅は新旅客ターミナルの候補地から離れているのが難点。第1ターミナル駅は新旅客ターミナルが全面的に完成する第2期の時点で候補地の範囲に入るが、ターミナルの西側に偏った配置になる。

成田空港に乗り入れている鉄道の現状。新旅客ターミナルは第2ターミナルの南側を候補地としている。【画像:国土地理院地形図、加工:鉄道プレスネット】
JR線(奥)と京成線(手前)の第2ターミナル駅は新旅客ターミナルの候補地から離れている。【撮影:草町義和】
第1ターミナル駅は新旅客ターミナル候補地の範囲内だが西側に偏る。【撮影:草町義和】

こうしたことから考えると、第2ターミナル駅から直進する線路を新設し、新旅客ターミナル中央部の地下に入り込んで「新旅客ターミナル駅」を設置。従来の第2ターミナル駅や第1ターミナル駅を閉鎖することが考えられる。

第1ターミナル駅が新旅客ターミナル候補地の範囲にある以上、同駅を「新旅客ターミナル西駅」として維持し、「新旅客ターミナル駅」との併用で分散させることも考えられるかもしれない。しかしその場合、列車の行き先が2方向になり分かりやすさがそがれるし、線路の分岐部でJR線と京成線の交差をどう処理するかも課題になる。

成田空港内にはこのほか、京成電鉄の東成田線と芝山鉄道線が乗り入れており、両線の境界上には東成田駅がある。三つあるターミナルのいずれからも離れた位置にあり、現在は空港従業員がおもに利用する通勤駅だ。

京成東成田線と芝山鉄道線が乗り入れている東成田駅。空港内だがターミナルから離れている。【撮影:草町義和】

芝山鉄道線が新旅客ターミナル候補地中央部のやや西側を通り抜けているため、東成田駅を閉鎖してターミナル内に新駅を設けるかどうかも検討の焦点になりそうだ。この場合、京成本線の列車が「新旅客ターミナル駅」に乗り入れる必然性は低下するし、成田スカイアクセス線の強化を考えるなら京成本線ルートを京成東成田線~芝山鉄道線ルートに集約することも検討されるかもしれない。

「偏る駅配置」対策は

いずれにしても、現行ルートをできるだけ生かして鉄道の再配置を行う場合、新旅客ターミナルの中央部、もしくは中央部~西側に鉄道駅が偏る格好になり、一部エリアのアクセスに課題が残る。

かつて第2ターミナルのメインビルとサテライトビルを結んでいた移動システム。【撮影:草町義和】

『中間とりまとめ』はワンターミナルの施設整備について「コンコースをフィンガータイプで張り出す形状だけではなく、サテライト式のコンコースをAGT(Automated Guideway Transit)で接続するような形状もあり、建築的な工夫だけでなく、将来的なモビリティやICTなどの技術革新も考慮して、利便性向上のための幅広い検討が必要である」としている。

ここでいう「AGT」とは、新交通ゆりかもめや日暮里・舎人ライナーなど自動運転の新交通システムを小規模化したような乗り物のこと。日本では関西空港の南北ウイングとターミナルビルを結ぶ移動システムとして導入されており、成田空港でも第2ターミナルのメインビルとサテライトビルを結ぶ同種の移動システムが2013年まで存在した。

新旅客ターミナルの駅が中央部に設けられるのなら、ターミナルの東西を結ぶAGTを整備してアクセスを補完することも考えられるだろう。

鉄道プレスネット編集部による鉄道再配置の予想の一つ。新旅客ターミナル中央部と中央部やや西寄りに駅を整備してターミナルの東西を結ぶAGTの導入を想定してみた。【画像:国土地理院地形図、加工:鉄道プレスネット】

「根本的課題」解消できるか

ただ、成田空港アクセス鉄道は再配置以前の根本的な課題を抱えている。東京都心からのアクセスに時間がかかり、運行本数も多いとはいえない。新旅客ターミナルの整備に伴う鉄道の再配置に際しては、こうした課題の解消も含めた検討が必要といえる。

『中間とりまとめ』は「鉄道は現在でもコンコースやホームに混雑が生じている。空港内や空港周辺の単線区間により行き違いの待ち時間が発生」しているとし、運輸総合研究所が設置した「成田空港鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会」の提言に触れたうえで「検討の深度化が必要」とした。

この提言は2022年7月にまとめられたもの。まずは現在の施設のまま列車の長編成化や運行本数の増加による輸送力向上を行うことを求めているが、成田空港の年間発着回数が50万回になれば現在の施設のままでは輸送力向上に限界があるとし、単線区間の解消や都心側の輸送力向上などが必要としている。

現在のJR空港支線と京成成田スカイアクセス線は、成田新幹線(1987年中止)用に建設された複線の路盤を分け合う形で空港に乗り入れており、単線の線路が並行している形になっている。このため列車の大幅な増発や所要時間の短縮が難しい。

複線で建設された成田新幹線の路盤をJR(右)と京成(左)が分け合って使用している。【撮影:草町義和】

提言では現在の線路の北側か南側に線路を増設する案や、JR・京成の両線とも複線化する案、京成のみ複線化する案など4案を比較検討し、工事費は概算で700億~1400億円とした。相当な費用がかかるため新旅客ターミナルの整備にあわせて複線化を図るのは難しいように思えるが、少なくとも将来の複線化を見据えた構造で整備するなどの配慮が必要になるだろう。

運輸総合研究所の検討会が比較検討した複線化4案。概算事業費は左から、N1(北側線増、JR単線・京成複線)=800億~1100億円、N2(北側線増、JR・京成とも複線)=1000億~1400億円、N3(南側線増、JR単線・京成複線)=700億~900億円、N4(南側線増、JR・京成とも複線)=約900~1100億円になる。

スカイライナー「200km/h」も?

提言ではこのほか、東京都心の主要駅と成田空港の所要時間について「20分台」の実現が望まれるとし、とくに「高速化の余地のあるスカイアクセス線ルートの更なる高速化について検討することが望まれる」としている。

成田スカイアクセス線を走る京成スカイライナーの最高速度は160km/hで、新幹線を除く鉄道では日本最速。しかし160km/hを出せるのは印旛日本医大~空港第2ビルだけで、北総鉄道北総線と線路を共用している京成高砂~印旛日本医大は130km/hに抑えられている。提言では130km/h区間の最高速度を160km/hに引き上げることや、さらには200km/h化についても「長期的視点から検討を開始することが望まれる」とした。

京成スカイライナーは130km/h区間での160km/h化のほか200km/hへの向上の可能性も提言で指摘された。【撮影:草町義和】

ただ、スカイライナーの速度向上や成田空港側の複線化を図っても、都心側の鉄道でも輸送力の向上をあわせて図らなければ効果が薄くなる。現在は具体化に向けた動きがほとんどみられないが、長期的には押上~東京駅~泉岳寺を結ぶ都営浅草線のバイパス線(都心直結線)の整備も視野に入るだろう。

「新しい成田空港」構想による新旅客ターミナルのイメージ。【画像:成田国際空港】

成田空港の施設再配置の検討はようやく折返し地点を過ぎたところ。それに伴う鉄道の再配置は具体的な検討案がまだ出ておらず、どのような形で落ち着くかは不明だ。いずれにせよ、誰にとっても使いやすいターミナルになることを期待したい。

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