つくばエクスプレス茨城延伸「土浦」一本化で次の段階へ 大幅赤字、費用便益比も悪く



つくばエクスプレス(TX、東京都・埼玉県・千葉県・茨城県)の茨城県内の延伸構想について、茨城県の「TX県内延伸に関する第三者委員会」は3月31日、提言書をまとめて大井川和彦知事に提出した。

つくばエクスプレスの列車。【撮影:草町義和】

提言では土浦・茨城空港・水戸・筑波山の4延伸案について「延伸によって得られる効果と費用のバランスなどを考慮し、土浦方面への延伸が最善」とし、常磐線の土浦駅に接続する案に優位性が認められるとした。

《続報記事》
つくばエクスプレス「土浦延伸」検討へ 茨城県が正式決定、さらなる延伸も「議論」(2023年6月23日)

その一方、収支採算性は4案とも赤字が見込まれるとし、土浦延伸では年間の赤字額が3億円になると予測。費用便益比(B/C)も4案すべてで社会的利益が事業費を下回る「1」未満とされた。

このため提言は、TX延伸の実現可能性の向上を図るため「従前どおりの沿線開発にとどまらず、更なる需要増加及び費用削減の方策を検討する必要がある」「TX県内延伸と既存路線やTX東京延伸とを一体的に扱う、いわゆるパッケージとしての事業評価や費用対効果分析の実施も検討していく必要がある」とし、延伸を見据えたまちづくりや公共交通の利用促進などを課題として挙げた。

茨城県は今後、提言を踏まえてパブリックコメントを実施し、6月にも延伸する方向を正式に決める方針だ。

TXの茨城県内の延伸方向として比較検討された4案。【画像:茨城県】

TXは秋葉原駅(東京都千代田区)とつくば駅(茨城県つくば市)を結ぶ58.3kmの都市鉄道。秋葉原駅から東京駅への延伸構想が以前からあるほか、東京駅と有明・ビッグサイト駅(仮称)の約6.1kmを結ぶ都心部・臨海地域地下鉄構想(臨海地下鉄)との接続も考えられている。

一方で茨城県は2018年に策定した総合計画でTXの県内延伸を盛り込み、2050年頃の構想として土浦・茨城空港・水戸・筑波山の4方面を延伸先として示した。昨年2022年2月、大井川和彦知事は「四つの延伸案が併存しているどっちつかずの状況では、さらに前に進めることは非常に難しい」などとし、延伸案を一本化する考えを明らかに。2022年度予算に調査・検討費を計上し、各案の比較検討を進めてきた。

今回の提言でTXの茨城県内の延伸方向が一本化され、構想は次の段階に進む。しかし検討結果が比較的良好な土浦案でも大幅な赤字が見込まれ、B/Cも1を大幅に下回るため、延伸の事業化はこれまで以上に厳しくなったともいえる。東京駅への延伸や臨海地下鉄との連携を含めた「パッケージ」として評価を行えるかどうかが、今後の焦点になりそうだ。

4案の概要は次の通り。

●土浦方面(つくば~土浦・神立)

JR常磐線の土浦駅まで延伸する場合、直線距離は4案のなかで最短の8.4kmになる。1日の輸送人員は8600人、輸送密度は7800人と予測。延伸によりTX既設区間の輸送人員は1日8000人の増加とし、常磐線は1日1000人減少するとした。

常磐線の土浦駅。【撮影:草町義和】

土浦~東京の所要時間は約65分。常磐線の普通列車に比べ5分の短縮だが、特急列車との比較では20分の増加とした。水戸~東京(土浦乗り換え)は約120分で、常磐線の特急列車に比べ40分の増加。同線の普通列車に比べ20分の短縮とした。

事業費は4案のなかで最も少ない約1400億円と算出。課題として土浦駅の接続で難工事が想定されるとした。採算性は年間3億円の赤字になると予測し、4案のなかでは赤字額が最も小さいとした。事業費以上の社会的効果があるかどうかを示す費用便益比(B/C)も、4案のなかでは最大の0.6。社会的効果と事業費が均等になる1.0にするためには1日1万2500人の利用がさらに必要とした。

土浦駅への接続のほか、同じ土浦市内の神立駅に接続するケースも調査された。直線距離は13.0kmで土浦駅より長くなるが、事業費は100億円安い約1300億円。東京方面への時間短縮効果などは土浦駅と同程度とした。一方、需要予測は輸送人員が4900人、輸送密度が4800人で土浦駅より大幅に減少。採算性は年間20億円の赤字で土浦駅より大幅に悪化し、B/Cも0.2となった。

●茨城空港方面(つくば~高浜~茨城空港

常磐線との乗換駅を高浜駅とするルートで、直線距離は28.5km。1日の需要予測は輸送人員が4900人、輸送密度が2900人。4案のなかでは輸送密度が最も低い。TX既設区間の輸送人員は1日4000人増加し、常磐線の利用者も2000人増加するとしている。

茨城空港の旅客ターミナル。【撮影:草町義和】
茨城空港延伸案では高浜駅で常磐線との連絡を図ることが想定された。【撮影:草町義和】

茨城空港~東京の所要時間は約80分で、JR特急とバスの乗り継ぎとの比較では20分の短縮。高速バスとの比較でも20分の短縮になるとした。水戸~東京(高浜乗り換え)の時間短縮効果は土浦案と同等になる。

事業費は4案のなかで2番目に高い約2400億円で、採算性も2番目に悪い年間50億円の赤字と予測した。B/Cは4案のなかで最悪の0.0。1.0以上にするためには1日2万1600人の輸送人員がさらに必要としている。

この案ではつくば~高浜の19kmのみ整備する案も調査された。事業費は茨城空港まで延伸するのに比べ700億円安い約1700億円に縮小。需要予測は1日の輸送人員が4100人で空港延伸より800人減るが、輸送密度は700人増の3600人とした。採算性は年間31億円の赤字でB/Cは0.1。1.0以上にするためには1日1万5100人の輸送人員がさらに必要としている。

●水戸方面(つくば~石岡~水戸)

石岡駅と水戸駅を常磐線との乗換可能駅としたルートを想定した。直線距離は4案のなかで最も長い45.5km。需要予測は輸送人員が4案中最大の1日1万9000人で、輸送密度も最大の8500人と予測した。

水戸延伸案で常磐線との乗換可能駅とされた石岡駅。【撮影:草町義和】

水戸~東京の所要時間は約105分。常磐線との比較では特急列車より25分長くなるが、普通列車との比較では35分の短縮になる。常磐線の輸送人員の減少数は4案のなかで最大の1日8000人と予測。TX既設区間の輸送人員の増加数も4案中最大の1日1万6000人の増加を見込んだ。

事業費は4案中最大の約4800億円。工事の課題として石岡駅と水戸駅の接続で難工事が想定されるとした。採算性は4案のなかで最悪の年間58億円の赤字とし、B/Cは0.1と予測した。1.0以上にするためには輸送人員をさらに1日6万4100人増やす必要がある。

つくば~石岡の20.6kmのみ整備するケースも調査された。水戸~東京(石岡乗り換え)の時間短縮効果は土浦駅に延伸する案と同等。需要予測は輸送人員が8200人、輸送密度が5800人とした。事業費は水戸延伸に比べ半額以下の2100億円。採算性は年間26億円の赤字でB/Cは0.0とした。1.0以上にするためには1日2万6800人の利用がさらに必要となる。

●筑波山方面(つくば~筑波山)

提言書では建設区間の直線距離を約13.5kmとしており、筑波山の山麓付近まで延伸するルートを想定した。常磐線とは交差せず乗換駅も設けられない。筑波山のケーブルカー・ロープウェイの駅との接続は急勾配のため不可能とした。

筑波山の麓にあった筑波鉄道の筑波駅跡。【撮影:草町義和】

需要予測は輸送人員が1日1万1900人で水戸案に次ぐ2番目。輸送密度は5400人とした。筑波山~東京の所要時間は約70分。TXやバスを乗り継ぐルートに比べ20分の短縮になるとした。TX既設区間の輸送人員は延伸により1日2000人の増加を見込む。

事業費は土浦案と同等の約1400億円。採算性は土浦案に次いで悪い年間22億円の赤字と予測し、B/Cは0.2とした。1.0以上にするためには、輸送人員をさらに1日4万1400人増やす必要がある。

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