つくばエクスプレス線(TX)の茨城県内の延伸に向け、関係する自治体の動きが活発になっている。茨城県は2月、四つの延伸案を調査、検討して一つに絞り込む「一本化」の方針を発表。これを受けて各案の沿線自治体が誘致運動を本格化させているが、誘致運動はすでに「土浦案」と「茨城空港・水戸案」の二つに集約されている。
茨城県は2018年に策定した総合計画でつくばエクスプレスの県内延伸を盛り込み、2050年頃の構想として(1)筑波山、(2)水戸方面、(3)茨城空港方面、(4)土浦方面の4案を延伸先として示していた。
《続報記事》
・つくばエクスプレス茨城延伸「土浦」一本化で次の段階へ 大幅赤字、費用便益比も悪く(2023年4月3日)
今年2022年2月、大井川和彦知事は「TX延伸を巡る環境というのは、調べれば調べるほど難しい事業」「四つの延伸案が併存しているどっちつかずの状況では、さらに前に進めることは非常に難しい」などとし、延伸案を一本化する方針を発表。2022年度予算に調査・検討費として約1800万円を計上した。
茨城県の動きを受け、最初に動いたのは土浦案に関係する土浦市だった。4月5日、土浦市や同市の経済団体などで構成される「TX土浦延伸を実現する会」が発足。6月12日には決起大会が開催される予定だ。土浦市はTXの土浦延伸で常磐線との連絡が図られ、東京~TX沿線地域~つくば~土浦~県内各地の移動がスムーズになると主張。4案のなかで距離が最も短く、事業費を抑えられるのもメリットの一つといえる。
茨城空港案は同空港と県内各地や東京都心とのアクセス向上が図られ、水戸案は茨城県北部の地域振興に寄与するとされる。5月17日、石岡市が中心となって「TX石岡延伸推進協議会」が発足し、石岡経由で茨城空港への延伸を目指す方針を掲げた。
続いて5月23日には、かすみがうら市・石岡市・小美玉市・茨城町・水戸市の4市1町が参加する「TX水戸・茨城空港延伸促進協議会」が発足。茨城空港経由で水戸まで延伸することを目指して活動することになり、茨城空港案と水戸案の誘致運動が事実上統合される格好となった。
6月1日には小美玉市が企画財政部に「TX茨城空港戦略室」を設置。促進協と連携しながら延伸の実現に向け広報活動などを行う。
筑波山案は筑波山の観光振興に寄与するなどの効果があるとされるが、関係するつくば市は以前から「まず(TXの)東京駅への延伸を第一に考えている」「東京駅への延伸実現後に、事業の採算性等を含め、運営会社と共に検討すべき課題」との考えを示しており、早期実現には消極的だ。
茨城県は今後、各案の需要予測調査などを行い、来年2023年春にも延伸案を一つに絞り込む方針。しかし4案とも巨額の事業費がかかるとみられるほか、少子高齢化による人口減少が進むなかで採算性を確保できるかどうかも課題で、一本化後ただちに事業化に向け動き出せるかどうかは不透明だ。
TXの開業区間(秋葉原~つくば、58.3km)の場合、事業費は8081億円。1kmあたりでは約139億円かかった。単純計算すると、つくば~土浦間(約8kmと想定)で1100億円程度、つくば~茨城空港~水戸間(約50kmと想定)では7000億円程度かかることになる。
戦前からあった計画
これら4案のうち、茨城空港案を除く3案は古くから同様の構想・計画があった。いずれも当時の経済状況や財政事情などの問題から実現には至ってない。
戦前の1920年代後半には東京の上野駅(現在の京成上野駅)と筑波山を結ぶ「筑波高速度電気鉄道」が民間有志によって計画され、現在の筑波山案に相当する。資金不足や技術上の問題などにより中止されたが、上野寄りの区間のみ現在の京成本線に組み込まれる形で開業した。
水戸案は戦後の国鉄構想に起源を持つ。1967年、国鉄が東京と水戸を結ぶ「通勤新幹線」の整備を提唱し、のちに在来線の「常磐開発線」「第二常磐線」の構想へと変化。1985年には東京駅と筑波研究学園都市を結ぶ「常磐新線」として、運輸大臣諮問機関の運輸政策審議会の答申に盛り込まれた。
しかし事業費の問題などから、実際に建設されたのは秋葉原~つくば間のみ。2005年にTXとして開業したが、国鉄時代からの構想区間を含めれば東京駅~秋葉原間とつくば~水戸間が実現していないことになる。
つくば駅と土浦駅のあいだでは、ゴムタイヤで専用通路を走る新交通システムが計画されたことがあり、現在の土浦案に相当する。1985年、土浦駅東口から学園大橋を結ぶ高架道路「土浦ニューウェイ」が開通。将来は新交通システムに転用できるよう荷重を考慮して整備され、同年開催された国際科学技術博覧会(科学万博)会場と土浦駅を結ぶバスが運行された。その後、新交通システムの導入構想は頓挫し、現在は一般道として使われている。
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