東京都と大田区「蒲蒲線」負担割合で合意 三セク設立に向け前進、事業費100億円増



東急多摩川線と京急空港線をつなぐ新線構想「新空港線(蒲蒲線)」の第1期区間・矢口渡~京急蒲田間の整備事業について、東京都と大田区は6月6日、事業費の負担割合などで合意した。蒲蒲線の整備主体となる第三セクターの設立に向け、大きく動き出した。

蒲蒲線のイメージ。ルートの大半が地下になる。【撮影:草町義和、加工:鉄道プレスネット】

蒲蒲線の整備は相鉄・東急直通線(2023年3月開業予定)と同じ都市鉄道利便増進事業として実施することが考えられている。この場合、線路を整備する「整備主体」と列車を運行する「営業主体」に分離。事業費は国と地方が3分の1ずつ負担して整備主体に拠出する。残り3分の1は借入などで調達し、営業主体が支払う線路使用料で償還する。

合意書によると、整備主体となる第三セクターへの出資や都市鉄道利便増進事業の採択に向けた調整などは大田区が主体となって推進。事業費の地方分は大田区が7割を負担し、東京都は残り3割を負担する。大田区は今回の合意形成を受け、整備主体となる第三セクターの早期設立に向け取り組んでいくとしている。

乗換ルートや駅位置の検討結果も公表

蒲蒲線は東急多摩川線の矢口渡駅から現在のJR・東急蒲田駅と京急蒲田駅を経由し、京急空港線の大鳥居駅に乗り入れる約4kmの新線構想。ルートの大半が地下で、東急多摩川線・京急空港線との直通運転を行う。約800m離れている二つの蒲田駅を連絡するほか、東武東上線・西武池袋線~東京メトロ副都心線~東急東横線~東急多摩川線方面と羽田空港のアクセス向上を図る。

蒲蒲線の位置(赤)。矢口渡~京急蒲田間を第1期区間として先行整備する。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

2016年に国土交通大臣の交通政策審議会が答申した『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』(交政審198号答申)では、第1期区間となる矢口渡~京急蒲田間の約2kmについて「関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」としていた。

東京都と大田区は2020年9月、第1期区間の整備に向けた協議の場を設置。地方分の負担割合のほか、JR・東急蒲田駅の乗換ルート、京急蒲田駅の位置、需要予測、収支採算性などについて、協議や検討を行っていた。

6月6日に大田区が公表した検討結果によると、JR・東急蒲田駅の乗換ルートは3案を検討。現在の南改札とは別に南改札を新設する案を採用するものとした。この案では南改札の改札内スペースが拡大し、新たなバリアフリールートの確保が可能となるスペースを創出できる。京急蒲田駅の位置も3案を検討し、区道直下案を採用。事業費の増減がなく、道路下になるため既成市街地への影響を最小限に抑えられるという。

JR・東急蒲田駅の乗換ルート案。【画像:大田区】
京急蒲田駅の駅位置案。【画像:大田区】

第1期区間の総事業費の見込みはこれまで1260億円とされていたが、物価状況を考慮し工事手法などを見直した結果、100億円増えて約1360億円になった。この場合の地方負担分は約453億円で、大田区の負担額は約317億円になるとみられる。

1日の利用者数の見込みは約5万7000人で、このうち空港利用客は約1万5000人。累積資金収支は17年で黒字に転換するとした。費用便益比(B/C)は2.0で、事業費を大きく上回る社会的効果があるとした。

一方、第2期区間の京急蒲田~大鳥居間について、合意書は「引き続き実現に向けた関係者による協議・調整を行う」としただけで、事実上先送りした。2本のレール幅(軌間)が東急線(1067mm)と京急線(1435mm)で異なるため、蒲蒲線の全線を整備して両側から直通運転を行う場合、複数の軌間に対応した軌間可変車両(フリーゲージトレイン)を導入するか、複数の軌間を組み合わせた線路(3線軌や4線軌)を整備する必要がある。

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