沖縄鉄軌道「京阪800系並み」も検討 内閣府2020年度調査



内閣府は10月7日までに、沖縄本島の鉄道構想「沖縄鉄軌道」の2020年度の調査結果を公表した。

調査対象となった「粘着駆動方式小型鉄道」 のイメージ。内閣府の調査では要求性能の一部が写真の「京阪800系並み」とされた。【画像:内閣府】

2020年度の調査では、需要量に応じた駅施設規模の精査や列車の編成両数の検討などを行い、概算事業費を算出した。ルートは地滑り・河川氾濫による浸水被害など防災上の観点からモデルルートの精査を実施。今回の調査では糸満市~豊見城市~那覇市~浦添市~宜野湾市~沖縄市~うるま市~恩納村~名護市と那覇空港への支線をモデルルートとし、那覇~普天間間では国道330号ルートと国道58号ルートの2案を検討した。

また、検討対象の機種として従来の「高速AGT」や「HSST(磁気浮上式)」「スマート・リニアメトロ」のほか、「粘着駆動方式小型鉄道」の導入可能性についても検討を行った。

駅施設規模は、各駅の利用者数に応じてプラットホームの幅やコンコースなどの必要規模を精査。利用者数が少ないと見込まれる駅は施設規模の縮小を想定して試算した。普通鉄道を整備するケースでは、精査前の概算事業費が約8700億円だったのに対し精査後は約8640億円で、約1%の低減にとどまった。

編成両数の検討では、糸満市役所~うるま具志川間を4両編成、うるま具志川~名護間を2両編成とし、うるま具志川駅で全列車が分割・併合を行うものとした。試算の結果、輸送需要は1日あたり約600人の減少。旅客運賃収入も年間で約8000万円減少したが、ランニングコストは年間で10億2000万円低減でき、収支採算性を向上させる効果があるとした。

新たに調査対象とした「粘着駆動方式小型鉄道」は、急勾配に対応できる小型車両を用いた鉄道。軌間1435mmで直流1500Vの電化路線を想定し、要求性能は最高速度を「100km/h(那覇~名護間60分以内)」、最小曲線半径を「50m」、最急勾配を60パーミル(1000m進んだときの高低差が60m)とし、加減速度・車両限界・車両長・編成長・車両定員は「京阪800系並み」とした。このほか、運転方式は無人自動運転を想定した。

京阪電鉄の800系電車は、急勾配と急カーブが多い路線向けに開発され1997年にデビュー。京津線の最急勾配(61パーミル)や石山坂本線の最小曲線半径(40m)に対応している。一方で最高速度は設計上で90km/h、実際の営業運転では75km/hに抑えられている。

「粘着駆動方式小型鉄道」 を採用した場合、糸満市役所~名護間の所要時間は快速列車で約83分と想定。「スマート・リニアメトロ」と同程度で、「高速AGT」との比較では約5分増加した。旭橋(那覇市)~名護間の所要時間は快速列車で66分。政策目標である「那覇~名護間60分以内」はおおむね達成できるものとしている。概算事業費は約6840億円で、「スマート・リニアメトロ」より約80億円高く、「高速AGT」より約160億円高くなった。調査結果では高くなった理由について「主として車両費がかなり割高であることが考えられる」としている。

また、車両メーカーは内閣府の意見聴取に対し「(粘着駆動方式小型鉄道は)コスト面を考えなければ、技術的に対応できる可能性はあるが、車両を総合的に設計する段階においては、物理的不可能という結論になる可能性がある」などと回答したという。

このほか、道路上に敷設した軌道(併用軌道)を走る「トラムトレイン」は交通渋滞をさらに悪化させることや、那覇~名護間を60分以内で結ぶことが不可能なことから「導入可能性は低い」とした。「スマート・リニアメトロ」や「粘着駆動方式小型鉄道」は「現時点で実用化されておらず、技術開発に時間を要する」などの課題を挙げた。

いずれのケースでも、整備費に対する社会的効果の比率を示す費用便益比(B/C)は部分単線とすることで0.65以上を確保したが、整備費以上の効果があることを示す「1」以上にはなっていない。

各パターンの調査結果は次の通り(過去の調査結果を含む)。

●普通鉄道(1)
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(全線複線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道330号(おもに地下構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
距離:79.48km
駅数:26駅
所要時間(旭橋~名護):約54分
輸送力:大
道路交通への影響:なし
概算事業費:約8700億円(約109億円/km)
※駅施設規模の精査後試算では約8640億円(約108億円/km)

●普通鉄道(2)
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(部分単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道330号(おもに地下構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
距離:79.48km
駅数:26駅
道路交通への影響:なし
概算事業費:約7350億円(約92億円/km)

●粘着駆動方式小型鉄道
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(部分単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道330号(おもに地下構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
路線延長:79.48km
駅数:26駅
所要時間(旭橋~名護):約66分
輸送力:中
道路交通への影響:なし
概算事業費:約6840億円(約86億円/km)

●高速AGT
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(部分単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道58号(おもに高架構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
路線延長:80.22km
駅数:28駅
所要時間(旭橋~名護):約62分
輸送力:中
道路交通への影響:なし
概算事業費:約6680億円(約83億円/km)

●HSST(磁気浮上方式)
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(部分単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道58号(おもに高架構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
路線延長:80.19km
駅数:28駅
所要時間(旭橋~名護):約61分
輸送力:中
道路交通への影響:なし
概算事業費:約6350億円(約79億円/km)

●スマート・リニアメトロ
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(部分単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道330号(おもに地下構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
路線延長:79.48km
駅数:26駅
所要時間(旭橋~名護):約66分
輸送力:中
道路交通への影響:なし
概算事業費:約6750億円(約86億円/km)

●トラムトレイン(1)
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(全線単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道58号(都市部地平構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
距離:80.22km
駅数:42駅
概算事業費:約4620億円(約58億円/km)

●トラムトレイン(2)
検討区間:糸満市役所~名護+空港接続線(部分単線)
 経由地:うるま
 那覇~普天間:国道58号(都市部地平構造)
 うるま~名護:恩納(西海岸ルート)
距離:80.22km
駅数:42駅
所要時間(旭橋~名護):約115分
輸送力:小
道路交通への影響:あり
概算事業費:約3230億円(約40億円/km)

2020年度調査でのモデルルート。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット編集部】

沖縄本島には戦前、那覇~与那原・嘉手納・糸満間を結ぶ県営鉄道や那覇市内を走る路面電車などがあったが、路面電車はバスの発達により廃止。県営鉄道も沖縄戦によって破壊され消滅した。終戦直後には連合国軍総司令部(GHQ)の指令により沖縄民政府が鉄道の復旧計画をまとめたが、のちに道路の整備を推進する方針に転換した。

1972年の沖縄本土復帰を受けて再び鉄道を整備する機運が高まり、那覇市内を中心としたエリアにモノレールを整備する構想(2003年開業)のほか、都市間輸送を担う鉄道として国鉄線やリニアモーターカーなどの整備も議論されるようになった。

内閣府は2010年度から沖縄鉄軌道の調査を実施。仮定のモデルルートを設定して需要予測や事業採算性、B/Cなどの検討を行っている。しかし累積赤字が多額になることやB/Cが1を大幅に下回るなど多数の課題が明らかになっており、2015年度以降はコスト縮減方策の検討が中心になっている。

《関連記事》
「那覇市LRT」整備計画作成業務の優先交渉権者が決定 二つのルート調査
沖縄モノレールの2駅「駅舎増築」検討 利用者は1.5~1.7倍、3両化計画も進行中