幻の鉄道・根北線のコンクリートアーチ橋「やがて崩壊」CFで保全費を調達



北海道の斜里町は、国の登録有形文化財「旧国鉄根北線越川橋梁」の保全事業として14年ぶりの樹木除去作業を計画した。クラウドファンディング(CF)で保全費の寄付を受け付けている。

斜里町に残る根北線の越川橋梁。【画像:文化庁】

越川橋梁は国鉄根北線の橋梁として1940年に完成した、コンクリート10連アーチの鉄道橋。正式な名称は第1幾品川橋梁だが、一般には越川橋梁と呼ばれている。戦時中の金属不足のため無筋コンクリートで建造されたのが特徴。全長147m、高さ21.7mで北海道のコンクリート鉄道橋としては最大規模だ。過酷な労働環境のため複数の労働者が工事中に死亡している。

越川橋梁の完成後に根北線の建設が中止されたため、この橋梁を列車が走ったことは一度もない。そのため「渡らずの橋」とも呼ばれる。下を通る道路の拡幅で一部撤去されたが、それ以外は現存。1998年に国の登録有形文化財に指定された。

斜里町によると、現在の越川橋梁は木々が根付いて成長しており、これを放置すると伸びた根がコンクリートに入り込んで隙間を広げ、やがて崩壊するかもしれないという。前回の樹木撤去作業は2011年に行われており、斜里町は14年ぶりに撤去作業を計画。今年2025年9~10月を樹木撤去作業の期間とし、10~12月には越川橋梁に関連した講座やツアー、展覧会を計画している。

寄付はCFサイト「さとふる」で受け付けている。返礼品は根北線の列車や越川橋梁をデザインしたポストカードセットなど。寄付金は樹木の撤去費のほか越川橋梁の魅力と価値を発信するための普及事業の企画・運営に充てる。目標金額は168万8000円で、10月7日17時40分時点の寄付合計は22万3000円。

根北線とその周辺の鉄道路線の位置(青=廃止、赤=中止)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

根北線は標津線の根室標津駅(1989年廃止)と釧網本線の斜里駅(現在の知床斜里駅)を結び、道東の根室地方と北見地方を短絡する計画だった全長57.2kmの国鉄線。1938年度に事業着手した。おもに斜里寄りの区間で路盤工事が進められたが、戦時体制への移行に伴って1940年に中止された。

一部撤去される前の越川橋梁。【出典:斜里町史編纂委員会編『斜里町史』斜里町、1955年】

戦後は路盤が完成していた部分のうち、斜里~越川の12.8kmで工事が再開され1957年に開業。越川橋梁を含む根室標津~越川の約44kmは、1964年に発足した日本鉄道建設公団(鉄道公団、現在の鉄道・運輸機構)が建設用地や完成した施設を引き継いだ。

しかし、開業区間の斜里~越川は輸送量が極度に少ない赤字路線となったことから、国鉄は開業からわずか13年後の1970年に同区間を廃止。この結果、未開業区間の根室標津~越川も事実上中止され、幻の鉄道と化した。

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根北線の延伸:根室標津~越川(未来鉄道データベース)