西武鉄道は6月1日、高架化工事が進む東村山駅(東京都東村山市)で一部完成した高架駅の線路やホームを公開した。まず新宿線の下り線が6月29日の始発から高架線に切り替えられる。

公開は報道関係者と一般募集の参加者に分けて行われた。駅の東側に設けられた工事ヤードから仮設の階段を10mほど上がると作業構台が現れる。駅と工事ヤードのあいだにある道路をまたぐように設置されており、高架橋を構築するためのさまざまな資材の搬入ルートとして使われている。




作業構台から高架橋に入り、まずは高架ホームの南端に移動。高架橋自体は幅が30mくらいあるが、そのうち線路が敷かれているのは西側の半分くらいだ。最も西側の線路が6月29日から使用開始する新宿線の下り線。奥のほうには西武新宿方面から延びる高架橋が見える。



線路は弾性枕木直結軌道を採用している。鉄道で一般的なバラスト軌道は道床の上に砕石や砂利(バラスト)を敷き、バラストの上に枕木を敷いてレールを固定する。これに対して弾性枕木直結軌道は、コンクリート道床の上にゴムの弾性材を介して枕木を直接固定。軌道のゆがみが生じにくく、日々の保守作業を減らすことができるのに加えて乗り心地も向上するという利点がある。ただし一部を除いて消音用のバラストが枕木やレールの周囲を覆っており、一見すると弾性枕木直結軌道のようには見えない。


ホームは島式2面が並んでいる。東側の上り線ホームは土木構造物がほぼできあがった状態だが、ホームドアの設置や案内掲示類などの装飾はこれからといったところ。ホーム両側の線路も敷設が完了しているのは西側のみで、東側はまだ敷設されていない状態だ。



これに対して西側の下り線ホームは線路と架線が両側とも敷設済み。ホームに上がればホームドアや待合室、ベンチシートなどが整備済みだ。








天井からぶら下がっている発車時刻案内表示器は西側に「4」、東側に「5」の数字が付けられている。つまり西側ホームの線路番号は4・5番線ということになるが、これは西武新宿線の下り線が高架化された時点の仮の番号。すべての線路が高架化された時点で番号を振り直すことになるようだ。

東村山駅は、西武鉄道の新宿線・国分寺線・西武園線が乗り入れている駅。4方向から線路が入り込んでいるため東村山市の市街地を分断しており、周辺は道路渋滞の原因となる踏切も多い。このため、線路を高架化して府中街道など5カ所の踏切を解消し、市街地の一体化を図る連続立体交差事業(連立事業)の実施が計画された。

東京都を事業主体とし、2012年の都市計画決定と2013年の事業認可を経て工事に着手した。駅の前後は高架化の工事方法としては一般的な仮線工法を採用。現在の線路の脇に仮設の線路を敷設し、これにより空いた敷地に高架橋を構築する。これに対して駅部の高架化は、現在の駅の直上に高架駅を整備する直上工法だ。
直上工法は既設の施設上での工事になることから、新たに用地を取得する必要がほとんどないという利点がある。東村山駅の場合、東西の駅前広場の整備が完了しているうえに周囲には高層建築物もあり、仮線を敷設するスペースを確保できないことから直上工法を採用した。

ただ、直上工法は営業で使用している線路の範囲内で工事を行うため、作業時間は営業列車が走らない深夜帯(2時間程度)に限られてしまう。しかも作業時間帯と営業時間帯が異なるとはいえ、地上の線路や架線を破損しないよう慎重に工事を進める必要がある。西武鉄道連続立体交差化事務所の菅原聡所長は「下に電車が走ってお客様がいらっしゃる。ボルト一本落とせば大変な事故になる。緊張感をもって工事を進めてきた」と話した。
今後は地上線から高架線への切替が3回に分けて実施される予定。まず1回目の切替が今年2025年6月29日に行われ、高架ホームは西側ホーム1面2線の使用を開始。新宿線の下り線が高架線に移る。この時点では踏切は解消されないが、踏切を通過する列車は減少するため、遮断時間も短くなる。東京都は切替後に時間短縮の効果を調査するとしている。




2回目の切替では東側の高架ホームが1面1線で使用を開始し、国分寺線と西武園線が高架線に移る。最後の3回目で新宿線の上り線が高架線に移り、島式ホーム2面4線での運用を開始するとともに踏切を解消する。その後は仮設の地下道の撤去などを行い、2028年度末には工事が完了する予定だ。
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