近鉄線の大和西大寺駅付近を高架化する連続立体交差事業(連立事業)について、奈良県の山下真知事は5月30日の記者会見で高架化後のイメージイラストを公表した。一方で奈良市との協議が停滞していることから、この夏に実施する予定の政府要望では連立事業の推進の要望を見送る方針も明らかにした。

この連立事業は近鉄の奈良線・京都線・橿原線が乗り入れる大和西大寺駅付近を高架化し、同駅西側の踏切4カ所の解消を図る事業。奈良県は「あくまで現時点での県のイメージ」「今後の検討や関係機関との協議等により変わります」としつつ、高架化後の大和西大寺駅とその周辺のイメージイラストを示した。
このイメージと山下知事の説明によると、大和西大寺駅と近鉄奈良線は現在の線路敷地から南側にずらして高架橋を整備。近鉄京都線も西側にずらして高架化する。高架化により廃止される地上の線路敷地は都市施設などの整備で活用。高架駅北側の敷地には駅ビルの整備を想定する。近鉄奈良線の敷地(大阪難波寄り)には県道を整備。近鉄京都線の敷地も遊歩道などの整備を想定している。


このほか、北口駅前広場近くの交差点(安倍晋三元首相銃撃事件の現場)から近鉄線の高架橋をくぐって南口駅前広場につなげる道路などの整備も想定。駅の南北両側にある既設の駅前ロータリーは残し、移設は考えていないという。


山下知事はイメージ図を示しながら「大和西大寺駅の北側の道路は非常に狭く、歩行者と自動車の分離もできていない。(鉄道の高架化に伴う周辺道路の整備で)大和西大寺駅北側のゴチャゴチャしたイメージも変わるんじゃないか」と話し、周辺整備の面でも連立事業の効果があることを強調した。
一方、奈良県・奈良市・近鉄の関係3者による連立事業の協議会は2023年11月の第2回会合を最後に開かれておらず、協議は停滞している。このため奈良県は、国の来年度2026年度の予算編成に対する最重点要望(知事要望)の項目から連立事業の推進を外すことを決めた。
奈良県によると、3者協議会の第3回会合を2023年度中に開催することで合意していたが、「協議会を開催するのは時期尚早」とする奈良市の意向で開催できなかった。今年2025年1月には、「市が考える、高架化以外の方法」などを次の協議会で協議することを奈良市に提案。しかし奈良市は「さらに事務方で協議を行う必要があるため、協議会の日程について回答することは困難」と回答し、議論が進むめどは立ってないという。
奈良市は大和西大寺駅の西側を南北に縦断する都市計画道路「大和中央道」の整備により交通の流れが変わり、近鉄線を高架化する必要性がなくなるとの考え。連立事業の実施には消極的な立場を取っている。これに対して奈良県は「大和中央道の整備で大和西大寺駅周辺の道路混雑が改善されるとは考えにくい」との考えだ。
奈良市が消極的な背景には高額な事業費の負担もあるとみられる。大和西大寺駅付近の連立事業の場合、事業費は奈良県による現時点の想定で約1000億円。負担割合は国が55%、関係自治体が38%、鉄道事業者が7%になる。
奈良県は関係自治体の負担分について、JR奈良駅の連立事業や現在事業中のJR新駅と同じ枠組み(県と市が半分ずつ負担)を想定。この場合の奈良市の負担額は190億円になる。さらに人件費や資材の高騰などから「(事業費は)上がっていくと思う。1000億円ではとどまらない」(山下知事)とみられ、奈良市は事業着手後の事業費の膨張も警戒しているとみられる。
一方で山下知事は記者会見で「(高架化で解消される踏切のうち)市道は4分の3。それにもかかわらず県は2分の1を出す。これ以上の譲歩は難しい」と話し、負担割合の変更は行わない考えを示した。

奈良県は今後、奈良市の意向なども踏まえて大和西大寺駅周辺の交通シミュレーション調査を本年度2025年度中に実施。高架化や周辺道路整備の効果検証を行う。同県は「単なる駅の高架化に留まらず、高架化に伴う駅周辺の道路整備や速攻対策も含め、総合的に検討を進めていきたい」とし、奈良市との協議再開を目指して調査や検討を進める考えだ。
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