近鉄線の大和西大寺駅付近を高架化する構想で、関係者間の協議が難航している。大和西大寺駅の高架化と近鉄奈良線の移設・地下化をセットにした従来案に加え、大和西大寺駅の高架化のみ行う新たな案の比較検討が行われているが、奈良市が3回目となる協議会の開催に応じておらず、議論は膠着(こうちゃく)している。

この構想は大和西大寺駅付近を高架化するとともに、平城宮跡を通り抜けている近鉄奈良線・大和西大寺~近鉄奈良の線路を宮跡外に移設、地下化するもの。これにより大和西大寺駅周辺などの「開かずの踏切」を解消することを目指す。2021年3月に奈良県・奈良市・近鉄の3者が合意していた。
しかし、昨年2023年4月の奈良県知事選で大型事業の見直しを公約に掲げた山下真氏が当選。事業費の削減を図るため、大和西大寺駅の高架化のみ実施して宮跡内の線路はそのまま残す案も比較検討して整備方針を決めることになり、3者は同年7月に第1回協議を行った。

今年2024年9月20日に開かれた奈良県議会の代表質問で山下真知事が答弁したところによると、3者は2023年11月、担当部長級による第2回協議会を開催。鉄道のルートに関する技術的な制約や事業効果などについて意見交換を行った。その後、2案ある整備方針を絞り込む検討を行うため、奈良県は第3回協議会を2024年9月に行う方向で調整。近鉄は同意したが、奈良市は応じていない状態が続いている。
7月には山下知事が奈良市の仲川元庸市長や市幹部職員に直接会い、9月開催への協力を依頼したものの、奈良市からは回答期限を過ぎても回答がなかった。現在は副知事から市長に面談を申し入れているが、市長からは「市議会があり都合がつかない」と回答されたという。
また、これまでの協議で市長が費用負担に懸念を示し、自治体負担分の全額を奈良県が負担するよう提案していたことを明らかに。知事は「開かずの踏切を通過している道路は県道より市道のほうが多い。市の分まで県が全額負担することは考えられない」と述べた。

一方、仲川市長は10月8日の記者会見で、「知事が県議会で一方的に報告するとは夢にも思わなかった」「議論を拒否しているわけではない」などと述べて反発。総事業費などの事業規模を明確にしたうえでの協議が必要との認識を示した。
これに対して山下知事は、翌10月9日の記者会見で反論。「県議会で(検討状況を)質問される予定である、県としては県議会で聞かれたら経過については回答せざるを得ないということを(奈良市の政策部長に)伝えている」とし、「夢にも思わなかったというのは事実とは違う」と述べた。
また、3者が従来案で合意した際は事業規模や負担割合などが決まっていなかったとし、「負担割合が決まってないから協議はできないというのは、私からすると、2021年3月の合意は何だったんだと言いたくなる」と述べた。
奈良市が消極的な態度を取っている背景には、高架化に伴う膨大な費用負担を警戒しているのに加え、大和中央道の整備が進んでいることもある。大和中央道は大和西大寺駅の西側を南北に貫く都市計画道。2024年6月に近鉄奈良線北側の敷島工区が完成した。今後、近鉄奈良線南側の若葉台工区も完成すれば自動車交通の流れが変わり、大和西大寺駅周辺の踏切の混雑も緩和される可能性がある、というのが奈良市の認識だ。

これに対し、山下知事は記者会見で「大和西大寺駅周辺には、ならファミリーのような大きな商業施設に加え、塾や予備校、幼稚園があり、最近はオフィスビルもできている。ここに行く車が踏切を通っているわけだから、大和中央道ができても大和西大寺駅周辺に流れてくる車の数が減るとは到底思えない」などと述べて反論した。
山下知事は「奈良市長にちょっと考え直してもらわない限りは、なかなかこの協議は進まない」と述べ、協議の長期化の可能性を示唆した。
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