岡山「路面電車の環状化」「吉備線LRT化」進展せず 事業費3倍、利用回復せず



JR岡山駅東口駅前広場の路面電車乗り入れ工事が終盤を迎えつつある。2020年の軌道特許取得時点の予定からは大幅に遅れたものの、現在は2026年度末の完成を目指して工事が進んでいる。

岡山の路面電車の延伸・環状化のイメージ。ハレノワ(左)へのアクセス向上を図る。【画像:岡山市】

その一方、岡山市などが構想している路面電車の延伸・環状化やJR吉備線の軽量軌道交通(LRT)化は進展しておらず、足踏みした状態が続いている。

岡山電軌が運営する路面電車の延伸・環状化は、清輝橋線の大雲寺前停留場から東山本線の西大寺町・岡山芸術創造劇場ハレノワ前停留場まで約600mの併用軌道を単線で整備し、既設の軌道を組み合わせて環状化を図る構想。2023年にオープンした文化芸術施設「岡山芸術創造劇場(ハレノワ)」のアクセス向上などを図る。

路面電車の延伸・環状化で新たに整備する軌道のルート(赤)。【画像:岡山市】
延伸・環状化では併用軌道を単線で整備する。【画像:岡山市】

岡山市は2021年9月に都市計画を決定したが、役割分担や費用負担などで岡山電軌との協議が難航して中断。さらにコロナ禍による路面電車の利用者の減少などもあり、2022年度予算では関係費用を盛り込まず一時凍結した。2024年度予算で関係費用を計上し、調査・検討を再始動している。

岡山市の大森雅夫市長などによると、2024年度は協議再開に向けて事業性や採算性などの検討を改めて実施。その結果、概算事業費は物価高騰や為替の変動、安全対策などの追加により、2019年度時点の見込み(約9億円)の3倍になる約27億円と大幅に増加する見込みになった。この結果を岡山電軌に示したところ、「路面電車は10年間、赤字が続いており、新たな設備投資を行える状況ではない」と回答されたという。

岡山電軌の現在の運賃は120円または140円。岡山市は今後、路面電車の運賃を160円に改定した場合の収支改善効果を試算し、その結果を岡山電軌に示したうえで役割分担や費用分担について協議する方針だ。

吉備線のLRT化構想は2003年にJR西日本が提案。2018年に岡山市・総社市・JR西日本の3者がおおむね10年後のLRT化を目指すことで合意した。しかしコロナ禍による利用者の減少を受け、2021年以降は協議が中断している。

吉備線の備前一宮駅。【画像:shonen_j/写真AC】

大森市長によると今年2025年1月、協議の再開に向けた協議を3者で実施。JR西日本は「在来線の利用は(コロナ禍前の水準に)戻っておらず、地方鉄道の経営は厳しい状況が続いている。現時点ではLRT化の協議を再開する状況には至っていない」と主張したという。大森市長は「協議再開を働きかける状況ではない」としており、当面は協議の中断が続くとみられる。

JR西日本が公表している資料によると、吉備線の輸送密度はJR西日本発足時の1987年度が6690人で、コロナ禍が本格化する前の2019年度は5941人。コロナ禍が本格化した2020年度は4743人まで落ち込んだ。2023年度は5477人まで回復している。

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