北九州市とJR九州が共同で北九州空港のアクセス強化に取り組む。空港に比較的近い位置にある日豊本線の朽網駅に、博多・小倉方面~大分方面を結ぶ「ソニック」などの特急列車が来年2025年4月1日から新たに停車。朽網と空港を結ぶバスも増便して特急列車との連絡を図る。北九州市とJR九州が今年2024年12月26日、発表した。
折尾~空港の場合、現在の直通バスは65分で結んでいるが、折尾~(特急)~朽網~(バス)~空港の乗り継ぎなら50分程度で大幅な時間短縮に。道路を通る距離が減るため定時性も向上する。ただ、朽網駅は空港から直線でも8kmほど離れており、結局のところバスへの乗り継ぎが必要。とくに大きな荷物を持ち込むことが多い航空利用客にとって、乗り換えの有無は交通機関の選択に大きく作用する。
そうしたこともあり、北九州市は空港に直接乗り入れる「北九州空港アクセス鉄道」の調査・検討を以前から行っている。
北九州空港は戦時中の1944年、現在の北九州市南区の曽根地区に旧陸軍の飛行場として整備された。戦後は米軍の接収を経て、小倉空港として民間飛行場に転用。1973年に北九州空港(初代)に改称されている。
ただ、滑走路の長さが1500mと短かく、ジェット機への対応が難しかったことから、2500mの滑走路を設けた新空港が構想された。周防灘沖に土砂処分場として造成された人工島に空港を整備することになり、1994年から空港の工事に着手。2006年、新北九州空港(現在の2代目・北九州空港)が開港した。
空港の工事が進むなかでアクセス鉄道の構想が浮上し、北九州市は2001年度から調査・検討を開始。2003年度までに「在来線新門司ルート」「在来線下曽根ルート」「高規格新門司ルート」の3案を設定した。
在来線新門司ルートは、小倉駅から東に進んで空港の北側から入る鉄道新線を整備するもの。中間の新門司地区にも駅を設ける。在来線下曽根ルートは日豊本線から分岐し、空港連絡橋に沿って空港島に入る新線を整備する。分岐点は下曽根駅に加え、行橋方面からのルートとして苅田駅も想定している。これらはいずれも在来線規格で整備するもので、鹿児島本線や日豊本線からの直通運行が考えられる。
一方、高規格新門司ルートは新幹線規格で整備。小倉駅から在来線新門司ルートとほぼ同じルートで空港島に入る。こちらは山陽新幹線や九州新幹線からの直通運行が考えられる。
その後はこの3案を基本に事業採算性などが検討される。開港後の2007~2010年度に実施された調査の結果によると、事業費は在来線下曽根ルートが最も少ない657億円で、これに在来線新門司ルートの680億円が続く。高規格新門司ルートは最も高い1188億円とされた。その一方、鉄道の利用者数は在来線新門司ルートが最も多い1万200人。在来線下曽根ルートは4000人で、高規格新門司ルートは最も少ない2400人と想定された。
しかし、事業性については3案とも採算性の確保が困難という結果が出た。空港アクセス鉄道整備の補助金(補助率3分の1)を受けることを前提に、30年間で累積資金収支が黒字転換するために必要な年間航空旅客数は、最も少なくなる在来線新門司ルートでも300万人とされた。北九州空港の乗降客数は2010年度が約118万人で、300万人を大幅に下回る。
このため、北九州市はアクセス鉄道の検討を休止。利用者数が200万人を超えたときに検討を再開するものとし、当面は既存のアクセス手段を活用しながら北九州空港の利用促進に取り組む方針に転換した。
検討休止から10年後の2020年度はコロナ禍の影響を受け、北九州空港の利用者数も約32万人に激減した。しかしコロナ禍前の2018年度は過去最大の約179万人を記録し、200万人台が迫っていた。そこで北九州市は検討再開の事前準備として、同市とJR九州、公益財団法人のアジア成長研究所の3者による勉強会を企画し、2020年11月から2021年5月にかけ4回開催。これまでの検討ルートの現地調査や、検討休止時点からの環境の変化などの確認も行った。
勉強会に参加したアジア成長研究所は、アクセス鉄道の整備には膨大な建設費と整備期間を要するとし、当面の対応として日豊本線に新駅を整備することを提案している。2024年7月に同研究所がまとめた報告書によると、朽網~苅田のあいだ、東九州自動車道の苅田北九州空港インターチェンジ近くに新駅を整備。新駅と空港を結ぶバスを運行する。朽網~空港に比べて距離が短く、バスの所要時間を短縮できる。
報告書による新駅の工費は10~20億円で工期2年。小倉~空港の所要時間はノンストップバスで33分、朽網駅の特急停車+バス乗り継ぎで36分なのに対し、新駅の特急停車+バス乗り継ぎは25分に短縮されるという。
北九州市は現在、市の財政負担が大きいことに加え、鉄道事業の採算性確保のためには北九州空港の大幅な利用者の増加が不可欠として、アクセス鉄道の早期整備には消極的だ。朽網~苅田の新駅案にしても、建設場所の選定や財源スキーム、さらにはアクセス鉄道整備後の処遇などの課題がありそうで、北九州市は新駅案については課題の整理などを進めるとしている。
沖合に整備された海上空港の北九州空港は、福岡空港と異なり24時間運用できるという強みがある。こうした利点を生かしつつ、当面は今回発表されたような既存の公共交通の改善などで空港利用者の増加を目指していくことになりそうだ。
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