JR九州の取締役会は12月23日、船舶事業からの撤退を決議した。浸水トラブルとその隠蔽(いんぺい)の影響で運休している新型高速船「クイーンビートル」について、安全性を確保するのが困難と判断した。30年以上続いた同社グループの船舶事業は突然の幕引きになった。
JR九州は1987年の発足後まもなく船舶事業部を設置。水中翼船タイプの高速船「ビートル」を導入し、1990年に福岡(博多)~平戸~長崎オランダ村(のちにハウステンボス)で運航を開始した。翌1991年には博多~釜山(プサン)を結ぶ日韓航路の運航を開始。1994年以降は国内航路を休航して日韓航路の増強を図った。2005年からは船舶事業を分社化し、JR九州子会社のJR九州高速船の運航に。いわゆる「韓流ブーム」の追い風を受けて利用者が増えたこともあったが、近年は低迷していた。
「クイーンビートル」はオーストラリアの造船メーカー「オースタル」が製造した三胴船(トリマラン)構造の高速船。従来の「ビートル」の更新を目的に計画され、当初は2020年7月から日韓航路に就航する予定だった。しかしコロナ禍を受けて日韓航路自体が運航停止に。「クイーンビートル」は2021年3月から国内クルーズなどで使用され、実際に日韓航路に就役したのは2年遅れの2022年11月になった。
昨年2023年2月以降、「クイーンビートル」で浸水トラブルが続発。さらにJR九州高速船は実際の浸水量を偽ったり、浸水検知装置の設置場所をずらしたりするなどして組織的な隠蔽を図った。今年2024年8月、浸水トラブルの隠蔽が発覚。これに伴い同社は「クイーンビートル」の運航を休止した。
JR九州によると、同社とJR九州高速船は運航再開に向けて安全管理体制の見直しや「クイーンビートル」船体のハード対策を検討してきた。しかし「外部専門家の意見も受けて検討するなか、ハード対策を施しても船体へのクラック発生のリスクを完全に払拭することができない」として、船舶事業から撤退することを決めたという。
JR九州は今後、関係機関などとの調整が完了次第、船舶事業を廃止する考え。捜査の対応などが完了したあと、JR九州高速船を清算する予定だ。
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