JR九州高速船は8月15日、九州の福岡と韓国の釜山を結ぶ日韓航路向けの高速船「QUEEN BEETLE(クイーンビートル)」について、「安全に関わる重大な問題」を国土交通省から指摘されたとして謝罪した。船体の浸水を確認していたにもかかわらず隠蔽(いんぺい)し、運航を継続していた。福岡~釜山航路は8月13日から運休している。
JR九州高速船と同社親会社のJR九州によると、昨年2023年2月11日に「クイーンビートル」船首区画の浸水警報が作動し、浸水を確認。応急措置を講じたものの、JR九州高速船は国交省の九州運輸局やJR九州には報告せず運航を継続した。
2月14日に九州運輸局が運航停止を指示。JR九州高速船は応急修理と臨時検査を経て、国交省海事局に今後の改善策などを提出した。これを受けて国交省は運航再開を承認し、3月5日に運航を再開。6月には国土交通大臣が輸送安全確保命令をJR九州高速船に発出し、これを受けて同社は7月に改善報告書を提出した。
今年2024年に入ると1月4日に「クイーンビートル」で再び浸水が確認され、1月13日に運航を停止して25日に再開。2月12日にも少量の浸水を確認したが、九州運輸局には報告しなかった。このとき、浸水量に関する管理簿を作成。その後は浸水確認時に浸水量を管理簿に記載する一方、航海日誌やメンテナンスログなどには「異常無し」と記載して隠蔽を図った。
5月27日には博多港帰着時のチェックで浸水量の増加を確認したが、警報センサーの位置を上部にずらして警報装置が鳴らないようにした。当初は7月の予定だったドック入りを5月30日に早めて運航を停止。7月11日に運航を再開したばかりだった。
8月6日から国交省がJR九州高速船の監査を実施。乗務員や役員からの事業聴取で隠蔽が発覚した。これを受けてJR九州高速船は「昨年(2023年)国土交通省に提出した『輸送の安全の確保に関する命令』に対する『改善報告書』に記載した事項に反しており、安全管理体制に関する重大な問題がある」として、8月13日からの運休を決定。JR九州高速船の代表取締役社長だった田中渉氏は8月13日付けで取締役に降格になり、JR九州エンジニアリング経営企画部の大羽健司部長が同日付けで社長に就任した。
JR九州高速船は「『改善計画書』に記載した事項に沿って全役員・社員一丸となって取組むとともに、現在行われております国土交通省の監査に真摯に対応し、問題点を明らかにした上で、改善に取り組んでまいります」としている。
JR九州によると国交省の監査は継続中で、処分の決定時期や内容は未定という。JR九州高速船は「お客さまに安心してご利用いただける体制を構築するまでの間、船舶の運航を中止させていただきます」としているが、一方で運航再開については「安全管理体制の再構築が整ったことを確認できた上で判断してまいりますが、国土交通省による監査結果に応じた対応を行ってまいります」としており、再開時期のめどは立っていない。
「クイーンビートル」は2020年に完成した新型高速船。従来の高速船「ビートル」は川崎重工が建造した全没翼型水中翼船のジェットフォイルだったのに対し、「クイーンビートル」はオーストアリアの造船メーカー・オースタル社が建造。三つの船体を並べた形の三胴船(トリマラン)を採用した。
当初は2020年中の運航開始が予定されていたが、コロナ禍で日韓航路自体が運休になり運航できない状態に。暫定的に日本国内で運航され、2022年11月から福岡~釜山航路で運航されている。
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