JR東日本は12月10日、同社が展開している交通系ICカード「Suica」について、今後10年間で実施する機能・サービス強化のスケジュール案「Suicaの当たり前を超えます ~Suica Renaissance~」を発表した。
「renaissance(ルネサンス)」は「再生」「復活」を意味するフランス語。従来は技術上の制約などから提供できなかった新サービスを順次展開し、Suicaを「移動のデバイス」から「生活のデバイス」に進化させることを目指す。
今後10年以内の実現を目指すおもな機能・サービス向上策のスケジュールは次の通り。
●2025年3月
外国人訪日客向けのアプリ「Welcome Suica Mobile」のサービスをiOSで開始。当初はクレジットカードでのチャージや新幹線(自由席)の利用などに対応し、2026年春までに新幹線(指定席)や在来線特急、普通列車グリーン車の利用にも対応する。
●2025年春以降
JR東日本線のSuica利用エリアのうち首都圏エリアを長野県内に拡大する。
●2026年秋ごろ
現在のモバイルSuicaアプリを大幅にリニューアル。Suicaの現在の上限額(2万円)を超える高額決済の買い物にも利用できるコード決済機能や、電子マネーを家族や友達同士で送ったり受け取ったりする機能、クーポン機能、地域限定バリューの発行機能などを追加する。
●2027年春ごろ
JR東日本線のSuica利用エリアを統合し、各エリアをまたいでの利用を可能にする。Suica未導入エリアでもモバイルSuicaアプリで購入できる「スマホ定期券(仮称)」を導入し、画面表示などで利用できるようにする。
●2028年度
「Suicaアプリ(仮称)」をリリース。これによりセンターサーバー管理型の鉄道チケットの提供を開始する。JR東日本は新サービスの例として「毎月3000円を払うことにより、自宅最寄り駅である大宮駅を起点として、どの駅でも運賃が50%割引となるサブスク商品(割引上限あり)」「鉄道の日などの記念日、駅ビルやイベントでのお買い物により配信される鉄道クーポン」を挙げている。
●2028年度以降
自治体とJR東日本のMaaS連携によるDXモデルを、各地で導入されているSuicaベースの地域連携ICカードと統合。2028年度以降、Suicaアプリをベースにした「ご当地Suica(仮称)」として展開する。マイナンバーカードとの連携を図り、地域内の生活コンテンツや商品割引・デマンドバスのサービスの利用、商品券や給付金の受け取り、行政サービスの利用などを実現する。
●今後10年以内
タッチしなくても改札を通過できる「ウォークスルー改札」の実現を目指す。また、改札機がない駅でも位置情報などを活用した改札を導入。これによりSuicaをJR東日本の全線で利用できるようにすることを目指す。ほかにも、クレジットカードや銀行口座とひも付けることでチャージする必要がない後払いサービスの実現を目指す。
JR東日本は従来のSuicaの課題を「Suicaの当たり前」と表現。 おもな課題として「鉄道利用は固定的という当たり前」「改札はタッチするという当たり前」「Suica利用エリアという当たり前」「事前にチャージという当たり前」「少額決済という当たり前」を挙げている。
現在のSuicaはカードや端末のICチップでチケットやチャージ額を管理しており、記憶容量の限界から展開できるサービスにも限界がある。JR東日本は、地上施設のサーバーで運賃計算やチケット・チャージ額の管理を行う「センターサーバー化」を図る方針。これにより従来のSuicaでは導入が難しかったサービスに加え、新たなサービスの展開も進めて「当たり前」を超える考えだ。
Suicaは2001年にサービス開始。当初は首都圏のJR線の乗車サービスのみ提供していた。2003年からは電子マネーサービスを追加。2006年から携帯端末を利用するモバイルSuicaのサービスも始まった。これまでの発行総数は1億超で、モバイルSuicaの発行数も2023年3月時点で2000万枚を超えている。
利用エリアは現在、首都圏・新潟・仙台・盛岡・秋田・青森の6エリアに拡大しており、ICOCAやPASMOなど全国交通系ICカードとの連携も図られている。2021年からはSuicaベースの地方向けICカード「地域連携ICカード」が東日本の各地の公共交通で導入が進んでいる。
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