じわり増える「鉄道の初乗り200円以上」消費税率引き上げ後も通常値上げ相次ぐ



普段利用している鉄道にもよるだろうが、鉄道の初乗り運賃といえば「100円台」というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。

国鉄の場合、初乗り運賃は1969年5月10日の時点では30円だったが、もともと国鉄運賃はほかの物価に比べ安かったことに加え二度のオイルショックの影響もあって大幅な値上げが続き、1979年5月20日の運賃改定で初めて100円になった。10年前の3倍以上だ。これ以降は値上げのスピードが鈍化しており、1979年から45年後の今年2024年9月20日時点では、JR本州3社の幹線・地方交通線の初乗りは150円となっている。

しかし、近年は全国各地の鉄道で値上げが相次いでおり、初乗りが200円以上の鉄道も徐々に増えている。消費税率の引き上げや鉄道駅バリアフリー料金の加算で結果的に200円以上になったケースもあるが、コロナ禍の影響による収入の減少や物価の高騰を受けて通常の値上げを実施し、200円以上になったケースも多い。

旅客運送を行っている各地の鉄道をJR6事業者、大手私鉄16事業者、準大手私鉄5事業者、公営地下鉄9事業者、地域鉄道102事業者、路面電車20事業者、モノレール・新交通システムなど19事業者、ケーブルカー・トロリーバス21事業者の合計198事業者に区分(複数の区分にまたがる事業者あり)した場合、消費税率が10%に引き上げられた2019年10月1日時点で初乗りが200円以上だったのは72事業者。このうち約20事業者は観光輸送に特化していて運賃がもともと高額なケーブルカーなどで、これを除くと約50事業者が初乗り200円以上だった。

その後、2024年9月20日までに12事業者の初乗りが200円以上に。2024年10月1日以降の運賃改定で初乗りが200円以上になる予定・見込みの事業者も7事業者ある。初乗りが200円台に届いていない事業者でも、180~190円と200円台に迫る事業者が増えた。

消費税率の引き上げや鉄道駅バリアフリー料金の加算などを除いても、コロナ禍の影響による運賃収入の減少に加え電気代や燃料代、人件費などの高騰による経費の増大があり、さらに老朽化した施設や車両の更新に迫られている事業者も多い。初乗りが200円以上になる事業者は今後さらに増えそうだ。

2024年10月1日の運賃改定で初乗りが200円を超える鹿島臨海鉄道の大洗鹿島線。【撮影:草町義和】

初乗りが200円以上の事業者は次の通り。

JRグループ

2019年10月1日:1事業者
2024年9月20日:1事業者
(2025年4月1日:2事業者)

2019年10月1日の消費税率引き上げにより、JR北海道がJRグループのなかでは初めて初乗り運賃が200円になった。

JR北海道とJR九州を除く4事業者は鉄道駅バリアフリー料金の加算も含め、2024年9月20日までに運賃改定を実施。いずれも初乗りは100円台にとどまっている。ただし、JR四国は2023年5月20日の改定で初乗り170円が20円値上げされて190円になり、200円が目前に迫っている。

JR九州の初乗りは170円だが、2025年4月1日に予定されている運賃改定で30円値上げされ、200円になる。JR北海道の初乗りも2025年4月1日に10円値上げして210円になる予定だ。

JRでは初乗りが唯一200円台のJR北海道。【画像:中村昌寛/写真AC】
JR九州は2025年4月1日の運賃改定で初乗りが200円になる。【撮影:草町義和】

大手私鉄・準大手私鉄

2019年10月1日:0事業者
2024年9月20日:0事業者

大手私鉄は2019年10月1日時点で全事業者が初乗り100円台だった。2024年9月20日までに全事業者がバリアフリー料金の加算も含め運賃を改定しているが、初乗り100円台は維持されている。ただし東京メトロ・名鉄・近鉄・南海4社の初乗りは180円で、200円に近づいている。

準大手私鉄も2019年10月1日時点で全事業者が初乗り100円台。2024年9月20日までに神戸高速鉄道(阪急・阪神・神鉄各社の神戸高速線)を除き運賃の改定を実施しているが、初乗りは100円台を維持している。

地下鉄

2019年10月1日:7事業者
2024年9月20日:7事業者

地下鉄(大手私鉄に区分した東京メトロを除く)はもともと運賃が高めで、2019年10月1日時点では都営地下鉄と大阪メトロを除き初乗りが200円台だった。

札幌市交通局(札幌市営地下鉄)と仙台市交通局(仙台市営地下鉄)、横浜市交通局(横浜市営地下鉄)、名古屋市交通局(名古屋市営地下鉄)、神戸市交通局(神戸市営地下鉄)、福岡市交通局(神戸市営地下鉄)の6事業者が初乗り210円で、京都市交通局(京都市営地下鉄)の初乗りは220円だ。

2024年9月20日までに値上げしたのはバリアフリー料金を加算した大阪メトロだけだが、初乗りは180円から10円値上げの190円で200円には達していない。ちなみに大阪市営地下鉄時代に初乗りが200円だったことがあるが、2014年の運賃改定で180円に引き下げられており、現在はこれにバリアフリー料金が加算されている。

地下鉄はもともと運賃が高め。写真は初乗りが210円の横浜市営地下鉄。【撮影:草町義和】

地域鉄道(北海道・東北)

2019年10月1日:3事業者
2024年9月20日:3事業者
(2025年4月1日:4事業者)

2019年10月1日時点で初乗り運賃が200円以上の事業者は、青い森鉄道(200円)と弘南鉄道(210円)、会津鉄道(200円)だった。2024年9月20日までに運賃改定を実施した事業者はない。

2025年3月にIGRいわて銀河鉄道が運賃改定を予定しており、道南いさりび鉄道も2025年4月1日に運賃改定を予定。このうち道南いさりび鉄道の初乗りは現行の190円から10円値上げされて200円になる。

2025年4月1日の改定で初乗りが200円になる道南いさりび鉄道。【画像:まこりげ/写真AC】

地域鉄道(関東)

2019年10月1日:7事業者
2024年9月20日:7事業者
(2024年10月1日:9事業者)

2019年10月1日の時点で初乗りが200円以上の事業者は、野岩鉄道(200円)と埼玉高速鉄道(210円)、芝山鉄道(200円)、東葉高速鉄道(210円)、北総鉄道(210円)、東京臨海高速鉄道(りんかい線、210円)、江ノ島電鉄(200円)だった。

2024年9月20日までに6事業者が運賃を改定しており、このうち横浜高速鉄道(みなとみらい線)がバリアフリー料金の加算で初乗り200円になった。ただし北総鉄道が運賃を値下げして初乗りを190円に引き下げたため、初乗り200円以上の事業者数は変化がなかった。

2024年10月1日に3事業者が運賃を改定する予定で、このうち鹿島臨海鉄道(大洗鹿島線、180円→230円)と秩父鉄道(170円→200円)の2事業者の初乗りが200円台になる。

北総鉄道の初乗りは200円台だったが値下げで100円台になった。【撮影:草町義和】
秩父鉄道は2024年10月1日の改定で初乗りが200円になる。【撮影:草町義和】

地域鉄道(甲信越)

2019年10月1日:0事業者
2024年9月20日:1事業者

2019年10月1日の時点では初乗り200円以上の事業者は存在しなかった。北越急行(ほくほく線)が2023年10月1日に運賃を改定し、初乗りを170円から40円値上げして210円に引き上げた。

北越急行ほくほく線は2023年10月の改定で初乗りが200円を超えた。【撮影:草町義和】

地域鉄道(東海)

2019年10月1日:8事業者
2024年9月20日:8事業者
(2025年春:9事業者)

2019年10月1日の時点で初乗りが200円以上だった事業者は、天竜浜名湖鉄道(200円)と東海交通事業(城北線、230円)、名古屋臨海高速鉄道(あおなみ線、210円)、明知鉄道(200円)・長良川鉄道(210円)、養老鉄道(210円)、伊賀鉄道(200円)、四日市あすなろう鉄道(200円)だった。

2024年9月20日までに5事業者が運賃改定を行っているが、初乗りが新たに200円以上になった事業者はなかった。2024年10月1日には天竜浜名湖鉄道が運賃を改定する予定で、初乗りは現行200円のところ30円値上げの230円に変わる。2025年春には愛知環状鉄道が運賃を改定する予定。初乗りが200円以上(180円→210円)になる。

天竜浜名湖鉄道は2019年の消費税率引き上げ時点で初乗りが200円だったが、さらに値上げされる。【撮影:草町義和】

地域鉄道(北陸)

2019年10月1日:2事業者(実質3事業者)
2024年9月20日:5事業者

2019年10月1日の時点で初乗りが200円以上だった事業者は、富山地方鉄道(富山地鉄、210円)と、のと鉄道(210円)だった。ただし富山地鉄は地域系ICカード「ecomyca」「passca」で利用すると初乗りが190円になる。

2024年9月20日までに6事業者が運賃を改定(1業者はJR北陸本線のハピラインふくいへの経営移管に伴う設定)し、このうち北陸鉄道の初乗りが160円から40円値上げの200円に。福井鉄道も初乗りが30円値上げされて210円になった。ただし福井鉄道の運賃均一区間(併用軌道区間)は改定前後ともに100円台だ(160円→180円)。

初乗りが200円になった北陸鉄道。【撮影:草町義和】

なお、黒部峡谷鉄道は2024年4月1日の運賃改定で初乗り(2kmまで)が200円以上(180円→230円)になった。ただし同社の鉄道駅は関係者のみ乗降できる業務用の駅が多く、一般旅客が乗降できる駅に限った場合の最短距離は5~6kmになる。この距離帯の運賃は2019年10月1日時点で570円、2024年4月1日改定時点では700円で、実質的には以前から200円以上だった。

地域鉄道(近畿)

2019年10月1日:3事業者
2024年9月20日:4事業者

2019年10月1日時点で初乗り200円以上だった事業者は、信楽高原鉄道(210円)と叡山電鉄(210円)、嵯峨野観光鉄道(630円)だった。

2024年9月20日までに4事業者が運賃を改定し、このうち水間鉄道の初乗りが180円から20円値上げされて200円になった。叡山電鉄はさらに10円値上げして220円、嵯峨野観光鉄道も250円値上げの880円になっている。

水間鉄道の初乗りは消費税率引き上げ後の値上げで200円になった。【撮影:草町義和】

地域鉄道(中国・四国)

2019年10月1日:3事業者
2024年9月20日:6事業者

2019年10月1日時点で初乗りが200円以上だった事業者は、井原鉄道(210円)と阿佐海岸鉄道(210円)、土佐くろしお鉄道(ごめん・なはり線、210円)だった。

2024年9月20日までに4事業者が運賃を改定しており、水島臨海鉄道の初乗り(180円→210円)と高松琴平電鉄の初乗り(ことでん、190円→200円)、伊予鉄道の初乗り(160円→200円)の3事業者が200円以上になった。ちなみに阿佐海岸鉄道は道路・鉄道両用バス「DMV」の導入に伴う運賃改定で初乗りを10円値下げして200円になっている。

伊予鉄道は2019年10月1日時点で初乗りが160円だったが、その後運賃改定を3回実施して2023年10月1日の改定で初乗りが200円になった。2024年10月1日にも改定して初乗りは230円になる予定だ。

伊予鉄道は消費税率引き上げ後に運賃改定を3回実施して初乗りが200円に。さらに値上げされる。【画像:shonen_j/写真AC】

地域鉄道(九州)

2019年10月1日:2事業者
2024年9月20日:2事業者
(2024年10月1日:4事業者)

2019年10月1日時点で初乗り200円以上の事業者は筑豊電鉄(200円)と平成筑豊鉄道(220円、門司港レトロ線は300円)だった。このうち筑豊電鉄は2024年9月20日までに運賃を2回改定し、現在の初乗りは220円になっている。

2024年10月1日に3事業者が運賃を改定する予定で、このうち松浦鉄道の初乗り(170円→200円)と肥薩おれんじ鉄道の初乗り(190円→230円)が200円以上になる。

肥薩おれんじ鉄道は2024年10月1日の改定で初乗りが230円になる。【画像:ゴンクロパパ/写真AC】

路面電車

2019年10月1日:7事業者
2024年9月20日:10事業者
(2025年6月ごろ?:11事業者)

路面電車の運賃は利用距離の長さによって運賃を変えているケースと、距離にかかわらず1乗車の金額を定めた均一運賃を採用しているケースが混在している。このため一律に考えるのは難しいが、ここでは均一運賃は初乗りとみなす。

2019年10月1日時点で初乗りが200円以上の事業者は、札幌市交通事業振興公社(札幌市電、200円)と函館市企業局交通部(函館市電、210円)、富山地方鉄道(富山市内線、210円)、万葉線(200円)、京福電鉄(嵐電、220円)、阪堺電軌(210円)、とさでん交通(高知市内均一区間、200円)だった。

2024年9月20日までに11事業者が運賃を改定(1事業者はライトラインの新規開業による設定)。このうち豊橋鉄道(豊橋市内線、180円→200円)と広島電鉄(白島線を除く広島市内線、190円→220円)、伊予鉄道(松山市内線、160円→200円)の3事業者が新たに初乗り200円以上になった。また、嵐電は30円値上げされて250円、阪堺電軌は20円値上げの230円になっている。

今後は伊予鉄道の松山市内線(2024年10月1日)ととさでん交通の高知市内均一区間(2024年11月1日)で運賃が改定される予定で、いずれも30円値上げの230円に。2024年12月1日には札幌市電も現在の200円から30円値上げされて230円になる予定だ。2025年4月に上下分離される予定の熊本市電は同年6月ごろにも運賃が改定され、現在の180円から20円値上げして200円になる見込み。

札幌市電は消費税率引き上げ時点で200円の均一運賃。2024年12月の改定で230円に値上げされる。【撮影:草町義和】

モノレール・新交通システムなど

2019年10月1日:8事業者
2024年9月20日:8事業者

特殊な構造を採用したモノレールや新交通システムなどは運賃が比較的高め。2019年10月1日時点で初乗りが200円以上だった事業者は、千葉都市モノレール(200円)と舞浜リゾートライン(ディズニーリゾートライン、260円)、大阪モノレール(200円)、沖縄都市モノレール(ゆいレール、230円)、山万(ユーカリが丘線、200円)、横浜シーサイドライン(240円)、名古屋ガイドウェイバス(ゆとりーとライン、200円)、神戸新交通(ポートライナー・六甲ライナー、210円)の8事業者だった。

2024年9月20日までに4事業者が運賃改定を実施しているが、初乗りが新たに200円以上になった事業者はない。ディズニーリゾートラインは40円値上げして300円になった。

初乗りが200円の大阪モノレール。【撮影:草町義和】

ケーブルカー・トロリーバス

2019年10月1日:20事業者
2024年9月20日:20事業者

観光輸送に特化したケーブルカーは古くから運賃が非常に高い。中間駅が存在しない路線がほとんどのため初乗り=全区間の乗車になり、その点でも運賃が高くなりがちだ。2019年10月1日時点では、小田急箱根(箱根登山ケーブルカー)を除くすべての事業者で初乗りが200円を超えている。

ちなみに、箱根登山ケーブルカーは中間駅が多数設けられており、初乗り(0.3km以下)は鉄道運賃として日本一安い90円に設定されている。

トロリーバスは立山黒部貫光が運行する立山トンネルトロリーバスしか残っておらず、都市交通ではなく観光に特化した路線。ここも現在は中間駅がなく初乗り=全区間(3.7km)の利用になり、運賃は2200円だ。なお、2024年シーズンを最後に廃止され、電気バスに転換される。

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