宮城県の村井嘉浩知事は存廃問題が浮上している阿武隈急行線(福島県・宮城県)について、鉄道の維持だけでなくバス高速輸送システム(BRT)への転換なども含め検討し、沿線自治体と協議する考えを示した。
6月10日の定例記者会見で村井知事は「県としては鉄路を維持する、BRTあるいはバスで代行するといったような案を示すことはいたしましょうと。それでまずみんなでよく話し合いましょうということで決まって」と話し、まず宮城県が鉄道維持・BRT転換・バス転換の3案を丸森町・角田市・柴田町の宮城県内沿線3市町に示し、協議する考えを示唆した。
また、村井知事は「(県も)一緒に考えますけれども、メインプレーヤーは3つの自治体であるということになると思います。相当、維持するとなると苦しくなりますよ。その覚悟を持ってやっていただけるかどうかでしょう」と話し、鉄道維持の方向で動くのは厳しいとの認識を示唆しつつ、存廃を判断するのは沿線3市町との考えを示した。
阿武隈急行線は福島~槻木の54.9kmを結ぶ鉄道路線。東北本線のバイパス線として計画され、まず1968年に宮城県内の丸森~槻木が国鉄丸森線として開業した。しかし利用者が少ないことから廃止対象となり、福島寄りの福島~丸森も工事が凍結された。
このため第三セクター化で存続することになり、福島県や宮城県、沿線自治体、福島交通が1984年に阿武隈急行を設立。1986年に同社が丸森~槻木を阿武隈急行線として引き継いだ。福島~丸森の工事も第三セクター化を機に工事が再開され、1988年に阿武隈急行線の福島~丸森を延伸して全線開業した。
輸送密度は国鉄時代の1977~1979年度が1082人で第三セクター化時の1986年度は1206人。全線開業時の1988年度は1753人だった。その後も増加して2000人を超えたが、1993年度(2351人)をピークに減少。コロナ禍前の2018年度は全線開業時とほぼ同じ1755人まで落ち込んでいる。経営も悪化しており、2023年度の鉄道事業の経常収支は5億1200万円の赤字だった。
このため2023年3月、阿武隈急行や福島県、宮城県、沿線の両県5市町、専門家などで構成される「阿武隈急行線在り方検討会」が設立され、上下分離方式への転換も視野に入れた経営体制の刷新や増収策などが議論されている。
しかし「福島側は比較的経営状況がいいんですけれども、宮城側が非常に経営状況が悪い」(村井知事)こともあり、福島側の福島県と福島市、伊達市は鉄道維持を目指す方向で一致しているのに対し、宮城側は存廃の方針がまとまらず議論が停滞している状態。これに加え、柴田町が赤字の穴埋めに使う補助金(2023年度分の2358万円)の拠出を拒否していることも明らかになっている。
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