横浜「上瀬谷ライン」の代替は「連節・隊列BRT」へ 地下トンネルの専用道を整備



横浜市は西部地域の南北方向を結ぶ「新たな交通」を整備する方針を固めた。実質的には新交通システム「上瀬谷ライン」の代替となる構想。一般道から分離したバス専用道を整備し、道路混雑の抑制や利便性の向上を図る。同市は来年度2024年度の当初予算案に、新たな交通の検討などを含む周辺道路整備事業費として29億5918万円を計上した。

専用道を走る連節バスのイメージ(インドネシアの首都ジャカルタのBRT)。【撮影:草町義和】

横浜市が今年2024年2月13日に示した方針や構想によると、西部地域は南北方向の交通ネットワークが脆弱(ぜいじゃく)で交通の空白地域も存在。このため同市は「西部地域の南北方向の交通ネットワーク」の形成を目指すことにした。道路の環状4号線を活用したルートで、横浜市営地下鉄ブルーライン・立場駅や相鉄いずみ野線・いずみ中央駅があるエリアからJR横浜線の十日市場駅や長津田駅があるエリアを結ぶ。このうち相鉄本線の瀬谷駅付近から上瀬谷までバス専用道を整備する。

南北交通ネットワークのルート。瀬谷~上瀬谷(青)はバス専用道を整備する。【画像:横浜市】
新たな交通(バス専用道)などの位置。【画像:横浜市】

瀬谷~上瀬谷のバス専用道は瀬谷駅付近の地下に瀬谷ターミナル(仮称)を設置。ここから北へ2kmほど地下トンネルを進み、地上に出て米軍の施設跡地「旧上瀬谷通信施設地区」に上瀬谷ターミナル(仮称)を設ける。上瀬谷ターミナルの近くには駐車場や整備工場などを備えた待機場・営業所を整備する。

専用道は横浜市が整備してバスの運行は民間事業者が行うことを想定。専用道の完成時点では連節バスを最大3台で隊列走行させて輸送力を確保する。瀬谷ターミナルから上瀬谷ターミナルまで3台の隊列走行を行い、その先は隊列走行を解除して1台で一般道を走って十日市場方面へ運行するといったことも考えられている。将来的には専用道での自動運転の導入も目指し、運転の省力化を図る考えという。

瀬谷~上瀬谷の縦断面図のイメージ。グレーの部分が専用道として整備される範囲になる。【画像:横浜市】

この構想はJR西日本などが研究・開発を進めている、自動運転・隊列走行のバス高速輸送システム(BRT)に似ている。JR西日本は2022年11月、広島大学や東広島市と自動運転・隊列走行BRTの導入検討に関する協定を締結。2023年11月から2024年2月にかけ東広島市内で実証実験を実施した。横浜市は「BRT」という言葉は使ってないが、自動運転・隊列走行BRTも含め機種選定の検討を進めるとみられる。

JR西日本などが開発を進めている自動運転・隊列走行BRT。【画像:JR西日本・ソフトバンク】

瀬谷~上瀬谷では以前、自動運転の案内軌条式鉄道(AGT)による新交通システムの上瀬谷ラインが計画され、旧上瀬谷通信施設地区で開催される2027横浜国際園芸博覧会(横浜花博、2027年3~9月)にあわせて開業する予定だった。

横浜市は湾岸のAGT路線を運営する同市の第三セクター「横浜シーサイドライン」に上瀬谷ラインの運営への参画を要請したが、横浜シーサイドラインは横浜花博終了後の採算性に課題があるなどとして要請を拒否した。このため横浜市は上瀬谷ラインの花博開催時の開業を断念。花博終了後に新たな交通を整備する方向で検討を進めていた。花博の開催期間中は周辺の鉄道路線の駅と会場を結ぶシャトルバスが運行される。

横浜市は「瀬谷~上瀬谷だけなら新交通システムの導入も可能だが、西部地域全体の交通利便性を向上させようということになると、既存のインフラを使って汎用性のあるものでないと運行システムとしては成り立たない」とし、新たな交通は汎用性の高いシステムを選択することにしたという。

横浜花博開催時の整備が断念されたAGTのイメージ(写真は横浜シーサイドライン)。【撮影:草町義和】

総事業費は上瀬谷ラインが2021年9月時点の見通しで約640億~680億円だったのに対し、バス専用道は概算で約466億円。横浜市は「(上瀬谷ラインと新たな交通の)検討時期が違うので単純比較はできないが、(軌道交通の施設としての)レールや車両基地が不要になるので、数百億円は安くなる見込み」としている。同市は市の負担割合が半分程度になるよう、国費などの導入について検討を進めるという。

横浜市は今後、専用道について2024年度から基本設計に着手する考え。2028年度から工事に着手し、2030年代前半の使用開始を目指す。

専用道構想の今後のスケジュールの想定。【画像:横浜市】

このほか、横浜市は旧上瀬谷通信施設地区の北西側を通り抜ける東名自動車高速道に新しいインターチェンジを整備する構想も示した。上瀬谷とその周辺の交通利便性の向上や交通環境の改善を目的としたもので、同市はバス専用道と同じ時期の2030年代前半の使用開始を目指すとしている。

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