大井川鉄道「運休区間のバス」に乗ってみた 水害から1年「復旧」「廃止」検討のいま



静岡県を南北に縦断する一級河川「大井川」。近年はリニア中央新幹線のトンネル工事に伴う流量減少問題で注目されている。この大井川に沿って敷かれた鉄道が、SL列車で有名な「大井川本線」と観光トロッコ列車が走る「井川線」。両線とも地方私鉄の大井川鉄道が運営している。

SL列車と電車の普通列車が並ぶ千頭駅(2014年)。大井川本線の川根温泉笹間渡~千頭は2022年の水害で被災し運休が続く。【撮影:草町義和】

大井川本線は昨年2022年9月の台風15号による水害から立ち直っていない。全長約40kmのうち運行を再開したのは島田市内の金谷~川根温泉笹間渡20.0kmで、全体のほぼ半分。川根本町寄りの川根温泉笹間渡~千頭19.5kmは現在も運休中で全線復旧・再開のめどは立っておらず、廃止の可能性も浮上している。

水害から1年が過ぎた今年2023年10月23日、運休区間の「代行バス」に乗ってみた。

大井川鉄道の路線図。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

「正式ではない代行バス」に移行

静岡駅から東海道本線の普通列車に揺られ、25分ほどで島田駅に到着。大井川本線に乗り換えるなら次の金谷駅だが、ここで下車して島田市コミュニティバスの川根温泉線・川根温泉ホテル行きに乗り換えた。

10時45分ごろに発車。しずてつジャストライン(静鉄バス)の大型バスで、島田市が同社に運行を委託している。車内の客は10人弱。いつしか河原がやたら広い、大井川の東岸を走るようになる。大井川本線は西岸を通っており、近くに線路は見えない。

島田駅から島田市コミュニティバスで大井川本線の家山駅へ。【撮影:草町義和】

50分ほど走って大井川を渡る駿遠橋を通り、大井川本線の線路をまたぐ。11時36分ごろ、家山駅に到着。交通系ICカードを運賃箱のリーダーにタッチすると300円が引き去られた。島田~(東海道本線)~金谷~(大井川本線)~家山の運賃は1020円だから、鉄道の3分の1以下だ。

バスは川根温泉ホテルに向けて走り去る。これより少し前に金谷方面からの下り列車が家山駅に到着しており、駅前広場はバスと列車の下車客が交錯して少しにぎわっていた。

千頭駅行きの「代行バス」が発着する家山駅。【撮影:草町義和】

11時45分ごろ、千頭駅に向かうバスがやってきた。車両は大井川鉄道グループのバス会社「大鉄アドバンス」の大型バス。ところが、行先表示装置には「川根本町コミュニティバス 千頭駅ゆき」と表示されている。正式には代行バスではない。

大井川本線は2022年12月に金谷~家山17.1kmの運行を再開し、この時点では家山~千頭を結ぶ代行バスを大井川鉄道が大鉄アドバンスに委託して走らせていた。2023年10月1日には家山~川根温泉笹間渡2.9kmも再開したが、これにあわせて代行バスは基本的に運行を終了。川根本町が町営のコミュニティバスとして運行を引き継いだ。ただ同町も大鉄アドバンスに運行を委託しており、車両の見た目に変化はない。

家山駅前にやってきたのは正式には代行バスではない川根本町コミュニティバス。【撮影:草町義和】

運行本数は1日6往復。コミュニティバスにありがちな休日運休など運行日は限定されておらず毎日運行だ。家山駅では朝の下り1便を除き大井川本線の列車に連絡しているほか、一部の便は島田市コミュニティバスにも連絡している。ちなみに「正式な代行バス」も完全に終了したわけではない。SL列車などの観光列車が運行される日に限り、これらの列車に連絡する代行バスが設定されている。

駅を通過、駅以外に停車

千頭駅行きバスは11時55分、家山駅を発車。車内の席はほぼ埋まる盛況で、大半は観光客だ。運休区間を走っていたSL列車や2両編成の普通列車に比べれば輸送力が小さいから「盛況」に見えるのも当然かもしれない。とはいえ過疎地のコミュニティバスといえば小型バスのイメージだし、それに平日の日中だったから観光利用の多さに少し驚く。

駿遠橋を渡って再び大井川の東岸を走る。大井川本線の線路も家山駅の次の抜里駅を過ぎてから東岸に移り、バスが走る道路と線路が並行するようになる。12時を少し過ぎたころ、川根温泉笹間渡駅近くを通過。乗降客がいなかったのではなく、ここには停留所が設けられていない。

家山~川根温泉笹間渡は列車の運行が再開されたが、川根温泉笹間渡駅まで乗り入れる列車は家山駅より少なく、バスの折り返しスペースになる駅前広場も川根温泉笹間渡駅は狭い。こうしたことから、コミュニティバスへの移行後も家山~千頭で引き続き運行されている。とはいえ川根温泉笹間渡駅のそばを通るのだから、停車してもいいのではないかと思う。

ただ、家山~川根温泉笹間渡は島田市内で、先ほど乗った同市のコミュニティバスも走っている。川根本町によると、島田市との協議で同市のコミュニティバスに影響しない運行形態にすることになり、島田市内では大井川本線との連絡地点になる家山駅を除いて停車しないことになったという。

大井川本線と川根本町コミュニティバスの運行体制。家山駅で連絡を図る一方、バスは川根温泉笹間渡駅に停車しない。【撮影:草町義和】
大井川本線の線路と並行して走る(塩郷~下泉)。【撮影:草町義和】

川根本町に入って下泉駅停留所の先で大井川を渡り、川根本町の役場があるエリアの市街地を通る。JA川根中央倉庫、四季の里前、島田掛川信用金庫前の各停留所に停車、あるいは通過するが、いずれも運休区間の駅に対応していない停留所だ。

コミュニティバスへの移行にあわせ、駅以外の場所にも停留所が多数設定された。川根本町役場付近の市街地は大井川の西岸で、東岸を通る大井川本線は使いにくい。その点を考えれば市街地から家山方面へのアクセスはむしろ改善されたのかもしれない。

川根本町の役場があるエリアの市街地は大井川の西岸。東岸を通る大井川本線は利用しにくい。【撮影:草町義和】

しかし、家山~千頭のコミュニティバスは従来のコミュニティバス路線を集約する形で新設しており、一部の停留所が廃止されたほかデマンドタクシーに移行した区間もある。総合的にみて便利になったかどうかは何ともいえない。

川根本町コミュニティバスの一部のバス停は路線の集約にあわせ廃止された。【撮影:草町義和】

運賃は半額以下に値下げ

大井川本線の線路にくっついたり離れたりを繰り返しながら、大井川が形成した深い谷間へと入っていく。バスは12時45分ごろ、終点の千頭駅停留所に到着した。

家山から50分ほどで千頭駅(右)に到着。【撮影:草町義和】

家山駅停留所からの所要時間は50分。運休前の大井川本線は家山~千頭で40分強だったから、速達性では鉄道にやや劣る。しかし運賃は500円で、実質的には大井川本線(1060円)の半額以下に値下げされた格好だ。生活の足としてはコミュニティバスに分がある。

大井川本線は運休中だが井川線は運行しており、駅舎内も開放されている。切符売場の上に掲示されていた時刻表を見ると、井川線の項目には5本の列車の発車時刻が記されていたが、大井川本線の項目はコミュニティバスの時刻表に差し替えられていた。

千頭駅の時刻表。大井川本線の時刻表はコミュニティバスのものに差し替えられている。【撮影:草町義和】

千頭駅13時20分発の家山駅行きも観光客で座席がほぼ埋まった。13時41分、田野口駅に近い上長尾集会所前停留所で降車。近いといっても田野口駅は大井川の東岸、上長尾は西岸で、コミュニティバスは田野口駅には乗り入れていない。

バスが走ってきた道を少し戻るようにして歩き、大井川を渡る中徳橋へ。橋を渡り切ったところの下には大井川本線の線路が見えた。草に埋もれレールの頭面も赤さびていたが、施設の損壊といった大きな被害は見えない。

さらに歩いてバス停から15分ほどで田野口駅に到達。木造の古びた駅舎やホームは開放されており、清掃が行き届いていてきれいだ。いまにも列車が来るのではないかと錯覚しそうになるが、列車の音や振動はもちろん聞こえてこない。コミュニティバスもここには乗り入れていないため、バスを待つ人の気配も感じられなかった。

田野口駅の駅舎やホームは開放されていたが列車もバスもやって来ない。【撮影:草町義和】

この日は千頭駅近くの旅館に泊まり、翌10月24日の7時30分、家山駅行きのバスに乗車。朝早いせいか観光客の姿はなく、地元住民らしき若い男女が二人だけだ。しかも途中の停留所で二人とも降りてしまい、家山駅まで乗り通した客は私一人だけだった。

朝の家山駅行き。観光客はおらず地元客も少なかった。【撮影:草町義和】

大規模な土砂崩れも発生

大井川鉄道といえば、古くから大井川本線のSL列車や井川線の観光トロッコ列車が有名だ。2014年からは、英国アニメ『きかんしゃトーマス』の主人公「トーマス」を模したSL列車「きかんしゃトーマス号」を大井川本線で運行。井川線でも2022年8月、『トーマス』キャラクターの「トビー」を模した観光トロッコ列車「きかんしゃトビー号」の運行が始まった。

大井川本線のSL列車「きかんしゃトーマス号」(2016年)。【撮影:草町義和】

その一方、過疎化や自動車交通の深度化で沿線住民の利用が減り、天災による長期運休やコロナ禍による観光客の減少もあいまって経営は厳しい状況だ。2022年8月には、国土交通省中部運輸局の主催で大井川鉄道の運営に関する意見交換会が行われた。

2022年台風15号で大井川鉄道の全線が被災したのは、その矢先の9月23~24日だった。大井川本線の場合、島田市内の金谷~家山の7カ所と川根本町寄り家山~千頭の13カ所、合計20カ所で土砂流入や路盤流出などの被害が発生。島田市内の神尾~福用では大規模な土砂崩れが発生し、線路が大量の土砂で埋まってしまった。

しかし、金谷~家山は3カ月後の12月16日に運行を再開した。神尾~福用の土砂崩れは静岡県管理の採石場跡地から土砂が流出したものだったため、同県が土砂を撤去。それ以外の6カ所は被害が比較的小さかったのが幸いした。そして2023年10月1日、家山~川根温泉笹間渡も運行を再開。島田市内の駅はすべて営業を再開している。

これにより、川根本町寄りの川根温泉笹間渡~千頭が運休区間として残った。バスで見回ったときは被害らしい被害は見えなかったが、下泉駅から田野口寄り約600mの地点で大規模な土砂崩れが発生している。

大井川沿いに敷かれた大井川本線の線路(下泉~田野口)。大きな被害はないように見えるが、この写真の手前側で大規模な土砂崩れが発生した。【撮影:草町義和】

費用だけではない課題

大井川鉄道は2023年1月、川根温泉笹間渡~千頭は自力での復旧が困難とし、静岡県に公的支援を要請する要望書を提出。これを受けて静岡県は中部運輸局や沿線自治体、大井川鉄道などで構成される「大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」を設置し、3月に第1回の会合を開いた。

復旧に際してはさまざまな課題がある。大井川鉄道が検討会で示した復旧費は約19億円だが、同社経営企画室(広報担当)の山本豊福次長は「この金額はあくまで概算。これより増える可能性も考えられる」と話す。

たとえば、土砂流出や土砂崩れの「発生源」となった場所のなかには、所有者や管理者がはっきりしないものもあるという。権利関係の手続きに時間を取られれば、運休のさらなる長期化や費用の増大が考えられる。

大井川鉄道の被害状況。復旧には19億円くらいかかるとされている。【画像:静岡県】

また、大井川鉄道が自力復旧は困難としている以上、復旧するなら公的資金の投入、つまり静岡県や沿線自治体が復旧費の一部を負担することが条件になる。復旧費を負担する場合、その割合をどうするのかも大きな課題だ。

川根本町は第1回の検討会で「これまでの経緯を踏まえると、この検討会は全線復旧に向けた要望に基づき開催されているものと認識している」「まずは全線復旧に向けた取組ではないのか」と発言しており、復旧を求めていく考えを強くにじませている。一方で同町は取材に対し、復旧費を負担するかどうか明確には示さなかった。検討会の第2回会合以降、町としての正式な方針を示すとみられる。

公的支援が難しい「特殊事情」

そして最大の課題といえるのが、そもそも鉄道を維持する必要があるのかどうか、という点だ。

検討会の第1回会合で、事務局は「まずは復旧に向け何ができるか考えていきたい」とあいさつしたが、静岡県は「全線復旧の課題を共有したうえで全線復旧や今後の維持も含め、沿線の公共交通のあり方について検討していきたい」「必ずしも全線復旧を前提にしていない」と発言。鉄道復旧の支援策だけでなく、運休区間の廃止も視野に入れて議論する考えを匂わせた。

実際、大井川鉄道はほかの地方鉄道とは異なる特殊事情があり、それが公的支援を難しくさせている面はあるかもしれない。

国土交通省が公表しているデータ(コロナ禍の影響を受けていない2018年度)によると、大井川鉄道の年間輸送人員(大井川本線と井川線の合計)は約70万6000人で、輸送密度は761人/日。輸送密度ベースでは、同じ静岡県内に鉄道路線を持つ第三セクターの天竜浜名湖鉄道(751人)に近い。このレベルだと、通常は公的支援がないと経営が困難だ。

一方、2018年度の旅客運輸収入は天竜浜名湖鉄道が約4億2000万円なのに対し、大井川鉄道はその1.8倍ほどの約7億6000万円だ。これは単価の高い定期外客(定期券以外の切符を買って利用する客)が多いため。SL列車などの乗車を目的にした観光客が多いことをうかがわせ、これが大井川鉄道の維持に大きく貢献している。

逆にいえば、地域公共交通として大井川鉄道を利用している人は少ない。定期券を購入して日常的に利用している定期客は全体の15%。運賃収入ベースならわずか4%だ。静岡県内のほかの地方私鉄や第三セクター鉄道の場合、定期客の割合は輸送人員ベースで全体の40~50%。大井川鉄道と同様に観光利用が多い伊豆急行でも25%が定期客だ。

おもに地元住民が利用している普通列車。【撮影:草町義和】

ちなみに、大井川鉄道は家山~川根温泉笹間渡の再開にあわせダイヤ改正を実施したが、地元住民が利用する毎日運行の普通列車は改正前のほぼ半分に減便。一部の駅を通過する区間急行(追加料金なし)を含めても、下り3~7本、上り4~7本になった。

山本次長は「長期に渡って各駅の乗降人員を現地で徹底的に調査するとともに、沿線の島田市や川根本町とも協議を重ね、地元利用者にとって本当に必要な列車を残した。公共交通としての役目を捨てたわけではない」と説明する。とはいえ、本数だけで見れば観光への依存が高まったダイヤになった面は否めない。

大井川鉄道が自社の営業努力によって沿線外から多くの観光客を呼び込み、それが鉄道の維持に大きく貢献していることをデータは示している。一方でそれは今回のダイヤ改正の内容も含め、地域公共交通としての性格が弱いことを意味している。沿線住民があまり利用しない鉄道の復旧に税金を投入することの意義や根拠は問われるだろう。

鍵は「クロスセクター効果」か

ただ、観光主体の鉄道に対して公的支援を行うなら「クロスセクター効果」と呼ばれる評価手法を根拠にすることが考えられる。

国土交通省はクロスセクター効果を「地域公共交通を廃止したときに追加的に必要となる多様な行政部門の分野別代替費用と、運行に対して行政が負担している財政支出を比較することにより把握できる地域公共交通の多面的な効果」と説明する。端的にいえば、採算性だけでなく地域全体で必要となる費用も見て公共交通の存廃を判断しようという考え方だ。

たとえば、鉄道の維持を支援するための費用(運営上の赤字の穴埋めや復旧費など)と、鉄道を廃止した場合に行わなければならない対策の費用(スクールバスや通院バスなどの運行費に加え、鉄道廃止で影響を受ける業者への支援費など)を比較。その結果、鉄道維持策のほうが安ければ廃止対策を行うより財政負担が軽減されるわけで、鉄道を維持するための公的支援を行う根拠になる。

仮に大井川本線を廃止した場合、SL列車への乗車などを目当てに川根本町を訪れる観光客が減少。現地の観光業者は打撃を受けて税収も減る。鉄道の代替となるバスの運行だけでなく、場合によっては観光業者などへの公的支援も行う必要があるだろう。比較検討を詳細に行わないと何ともいえない面はあるが、大井川本線の復旧・維持に公的支援を行うほうが財政負担が軽減される可能性が高いのではないかと思う。

観光交流人数の推移。川根本町の観光交流人数は「きかんしゃトーマス号」の運行が始まった2014年ごろから回復傾向にあったが、2020年と2021年はコロナ禍の影響で大幅に減少している。【画像:静岡県】

検討会は当初、2カ月に1回の頻度で開催し、12月ごろに検討結果を議論して年内には一定の方向性を示すスケジュールだった。しかし第1回の会合以降、検討会は一度も開かれておらず、2回目の会合が11月29日に開催されることがようやく決まった段階だ。静岡県交通基盤部は取材に対し「復旧費用の再算定に時間がかかった」と話しており、検討会としての考えがまとまる時期は遅れる可能性もありそうだ。

田野口駅のホーム。ここに再び列車がやってくるのはいつになるだろうか。【撮影:草町義和】

大井川本線が全線復旧と一部廃止のどちらで進むかは依然不透明だが、沿線住民と観光客のどちらにとっても納得がいく結論が出るのかどうか、注視していきたい。

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