日本から東へ約6600km離れた北太平洋のハワイ諸島(米国ハワイ州)といえば、日本では人気の高い海外観光地として知られる。そのハワイ州の州都があるオアフ島南部のホノルルで6月30日、ホノルル高速交通公社(HART)が運営する鉄道「ホノルル・レール・トランジット」(ホノルル高架鉄道)の一部が開業する。

まず真珠湾沿いの区間が開業
現在の計画では、ホノルル西部の郊外からダニエル・K・イノウエ国際空港(旧・ホノルル国際空港)などを経由してホノルルの中心部に向かう約32kmのルート。イーストカポレイ~アラモアナセンターの21駅を42分で結ぶ。おもに幹線道路の中央部に高架橋の線路を設ける。

1435mm軌間の複線で動力は直流750Vの電気。2本の走行用レールの脇に電気供給用のレールを設置した第三軌条式を採用している。線路施設の基本的な構造や仕様は大阪メトロ御堂筋線などと同じだ。

6月30日に開業するのは西側の区間、イーストカポレイ~アロハスタジアムの約17km・9駅。パールハーパー(真珠湾)に沿って同湾の西側から北側を経て東側に向かう。
起点のイーストカポレイ駅があるエリアは近年急速に商業施設などの整備が進んでいる地域。当面の終点となるアロハスタジアム駅は駅名と同じ球技場があり、カレッジフットボールのハワイ大学ウォーリアーズの本拠地だ。
ちなみに、駅名は各駅に英語名とハワイ語名の2種類が設定される。西郊の起点駅は英語名が「East Kapolei(イーストカポレイ)」で、ハワイ語名は「Kualaka’i(クアラカイ)」になる。


イノウエ空港やホノルルの庁舎などがある中心部は、今回の開業区間には含まれない。観光スポットとして有名なワイキキビーチやダイヤモンドヘッドからも離れており、当面は地元客の利用が中心になるとみられる。
運行時間帯は5~19時(土曜・休日は8~19時)で10分間隔の運行を予定。自動改札システムを採用しており、利用に際してはホノルルの公共交通カード「HOLOカード」が必要だ。カードの価格は2ドルで、運賃は片道3ドル、1日の上限は7.5ドルになる。
初日の6月30日は14時から運行を開始。7月4日の最終列車までは無料で利用できる。
無人自動運転システムを導入
ホノルル高架鉄道には4両編成(1両の長さは19.5m)の電車が導入される。1編成で約800人を運ぶ。無人自動運転システムを採用し、座席は1両につき118人分を設置。自転車やロングサーフボードなどの搭載スペースを設けた。

車両製造を受注したのはイタリアの「日立レールS.p.A」。日立製作所の海外鉄道部門のグループ会社だ。無人自動運転システムは日立レールS.p.A子会社の日立レールSTS(旧・アンサルドSTS)が開発したもの。車両の組立は日立レールS.p.Aの米国事業会社「日立レールUSA」の工場で行われた。車両の製造だけでなく、ホノルル高架鉄道の運行管理や施設の保守も日立グループが受注している。



ちなみに、ホノルルには日立グループのテレビCMで知られるモンキーポッドの大樹、通称「日立の樹」がある。今回の開業区間からは遠く、2025年に開業する予定のミドルストリート・カリヒトランジットセンター駅から北北西へ約1.6kmの場所だ。
全線開業はいつ?
ハワイでは1870年代以降、サトウキビを運ぶ鉄道や路面電車が整備された。これらは自動車交通の発達で廃止され、いまはオアフ島に保存鉄道が残るだけとなっている。
戦後の1960年代、ホノルルの中心部と郊外を結ぶ鉄道の整備が考えられるようになった。。しかし建設費のめどが立たないことや必要性が疑問視されるなどし、具体化に向けた向けた議論は進まなかった。
この間、オアフ島の人口が増加。道路渋滞が悪化するなど交通の改善が課題になった。2000年代には具体化に向けた動きが活発化し、ハワイ州とホノルル市郡は2005年、鉄道の整備を決定。2011年から工事が始まった。
当初は2017年にイーストカポレイ~アロハスタジアムが開業し、続いてアロハスタジアム~アラモアナセンターが2019年に開業する予定だった。しかし工事の遅れや建設費の膨張、コロナ禍、完成した施設の不具合などで事業は遅れに遅れ、このほどようやく部分開業にこぎ着けた。

今後はアロハステーション~ダニエル・K・イノウエ国際空港~ミドルストリート・カリヒトランジットセンターの約8kmが2025年に開業の予定。空港やホノルルの中心部に乗り入れる。続いて2031年には、ミドルストリート・カリヒトランジットセンター~シビックセンターが開業の予定だ。
残るシビックセンター~アラモアナセンターは開業時期のめどが立っていない。HARTは現在「将来の整備区間」などとしている。
※誤字を修正しました。(2023年6月11日16時42分)
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