幻の阿佐線「1日だけ開業」高知と徳島、道路と線路を走れる「DMV」で直通



徳島県と高知県を太平洋沿いに結ぶ計画だった幻の鉄道「阿佐線」が、8月30日の1日だけ「開業」する。道路と線路の両方を走れる阿佐海岸鉄道の軌陸両用バス「DMV」を使用。阿波海南文化村から阿佐海岸鉄道阿佐東線や太平洋沿いの道路を経由し、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の奈半利駅まで直通する臨時バス「奈半利特別便」が走る。

阿佐海岸鉄道の軌陸両用バス「DMV」。【画像:たろとれ/写真AC】

当日の運行時刻や停車地点は次の通り。阿波海南駅~甲浦駅は阿佐海岸鉄道の阿佐東線を走り、それ以外の区間は道路を走る。

●DMV9107便
阿波海南文化村9時42分→阿波海南駅9時46分→海部駅9時51分→宍喰駅9時59分→甲浦駅10時07分→海の駅東洋町10時11分→室戸岬廃校水族館10時48分→室戸世界ジオパークセンター10時54分→室戸岬11時03分→海の駅とろむ(10分程度の休憩)11時20分→奈半利12時00分

●DMV9050便
奈半利駅14時20分→海の駅とろむ(10分程度の休憩)15時12分→室戸岬15時18分→室戸世界ジオパークセンター15時27分→室戸岬廃校水族館15時33分→道の駅宍喰温泉16時12分→甲浦駅16時16分→宍喰駅16時22分→海部駅16時30分→阿波海南駅16時36分→阿波海南文化村16時39分

奈半利駅では12時10分~12時25分と13時50分~14時05分の2回、DMV車両の道路走行モードと線路走行モードの切替(モードチェンジ)の実演と記念撮影会が行われる。

運賃は阿波海南文化村~奈半利駅で3500円。事前予約制で運賃の支払いは当日の現金払いのみになる。申込みは阿佐海岸鉄道ウェブサイトからアクセスできる申込フォームで7月30日9時から8月14日17時まで受け付ける。応募多数の場合は抽選。

阿波海南文化村~奈半利駅の運賃表。【画像:阿佐海岸鉄道】

阿佐線は1922年に公布された鉄道敷設法で、高知県の後免から安芸、徳島県の日和佐を経て古庄に至る区間が予定線に定められた。高知県寄りは1924年から1930年にかけ、後免~安芸が土佐電鉄(現在のとさでん交通)の安芸線として開業。徳島県寄りは牟岐~羽ノ浦(古庄駅の一つ先)が1936年から1942年にかけ国鉄(現在のJR四国)の牟岐線として開業した。

残りの安芸~田野~奈半利~室戸~野根~甲浦~海部~阿波海南~牟岐は戦後、1964年に発足した日本鉄道建設公団(現在の鉄道・運輸機構)が建設し、完成後は国鉄に貸し付けて列車を運行することに。すでに土佐電鉄安芸線が開業していた後免~安芸も、同線の敷地を活用する形で阿佐線として再整備することになった。

まず1973年、徳島県内の海部~阿波海南~牟岐が牟岐線の延伸区間として開業。その後も高知・徳島の県境をまたぐ野根~甲浦~海部の区間で工事が進められた。一方、高知県寄りでは1974年に土佐電鉄安芸線が廃止され、後免~安芸~田野で工事が本格化した。しかし国鉄の経営悪化を受け、輸送密度が4000人未満と想定された阿佐線は1980年代初頭に工事が凍結された。

その後、工事が比較的進んでいた区間を中心に第三セクター鉄道として工事を再開することになり、まず1989年に甲浦~海部が阿佐海岸鉄道の阿佐東線として開業。2002年には後免~安芸~田野~奈半利が土佐くろしお鉄道の阿佐線(ごめん・なはり線)として開業している。残る奈半利~室戸~野根~甲浦は幻に終わった。

1922年の鉄道敷設法で予定線として定められた阿佐線のルート。一部は国鉄(JR)線と第三セクター鉄道として整備されたが中間の奈半利~室戸~甲浦は実現しなかった。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

阿佐海岸鉄道は2021年12月、DMVを導入。牟岐線の阿波海南~海部をJR四国から譲り受けて阿佐東線に編入したうえで、阿佐東線とその前後の道路を直通するDMVの営業運行が始まった。通常は阿波海南文化村~道の駅宍喰温泉を阿佐東線経由で結んでおり、土曜・休日は1往復だけ室戸市内まで延長運転されている。

高知県は今回の臨時運行について「101年前に計画された高知県と徳島県を結ぶ阿佐線が、史上初めてシームレスにつながります」とアピールしている。

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