「東九州新幹線」どう造るか 大分県「久大線ルート」も検討、知事「勝負のとき」



九州東部を南北に縦断する「東九州新幹線」の実現に向け、大分県の動きが活発になっている。同県は従来想定されていた「日豊本線ルート」に加え、「久大本線ルート」の調査にも着手した。。

東九州新幹線のイメージ。【作成:さかいあきよ】

国は1973年、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づき東九州新幹線や四国新幹線、中央新幹線など12路線の基本計画を決定。2014年に中央新幹線のみ一部着工したが、それ以外の11路線は石油ショックや国鉄の経営悪化を背景に事業化されておらず、基本計画の次の段階になる整備計画も決定していない。

近年は北陸新幹線の敦賀~新大阪などを除き整備新幹線の建設が進んだことから、基本計画路線を抱える地域では事業化に向けた動きが高まっている。国も今年2023年6月16日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)で、「(新幹線の)基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う」との方針を盛り込んだ。

大分県は本年度2023年度7月補正予算案に「東九州新幹線推進事業」として383万3000円を計上。当初予算に計上されていた180万円を含め563万3000円に増額される。大分県は九州や四国の関係県と連携したシンポジウムを開催するとしている。

大分県の佐藤樹一郎知事は就任後初の所信表明を7月5日の県議会定例会で実施。「今回の骨太の方針では久々に基本計画路線に関する記載があった。東九州新幹線の整備計画路線への格上げを強く働きかけていくタイミングが到来したと考えている」と話し、東九州新幹線の構想を積極的に推進していく考えを示した。

東九州新幹線のルートについては、7月13日の県議会定例会の代表質問で「1月に開催した(東九州新幹線の)シンポジウムでは、これまでの日豊本線ルートに加え、久大本線ルートも含めた活発な意見交換が行われた」とし、「久大本線ルートも含めた費用対効果の調査を実施している」と答弁した。

福岡~大分の距離は短縮だが…

東九州新幹線の基本計画では、福岡市を起点に大分市付近と宮崎市付近を経由し、鹿児島市を終点としている。それ以外の経由地は決まっていない。

国土交通省が従来公表していた資料では、東九州新幹線の距離を「約390km(キロ程には山陽新幹線との共用区間は含まない)」とし、山陽新幹線の小倉駅付近で分岐して鹿児島まで日豊本線に並行するルートが考えられていた。しかし2018年以降の同省の公表資料では、距離や山陽新幹線との共用区間に関する記述がなくなった。

沿線自治体で構成される東九州新幹線鉄道建設促進期成会が2016年3月にまとめた調査報告書では、小倉~鹿児島中央の約380kmを基礎ルートとして設定。山陽新幹線との共用区間を含め博多(福岡)~鹿児島中央で約447kmとし、所要時間は小倉~鹿児島中央で1時間48分、整備費用は小倉~鹿児島中央で2兆6730億円と推計している。

久大本線ルートは今後の調査次第だが、仮に同ルートを九州新幹線(鹿児島ルート)からの分岐として新鳥栖~大分か久留米~大分を新規整備区間とした場合、距離は110km前後になるとみられ、日豊本線ルートの小倉~大分とほぼ同じ距離になりそうだ。

一方、既設新幹線と共用する区間の距離(実キロベース)は、山陽新幹線・博多(福岡)~小倉が55.9kmなのに対し、九州新幹線・博多~久留米が32.0km(博多~新鳥栖は26.3km)。博多~大分では久大本線ルートのほうが日豊本線ルートより20~30kmほど短くなり、所要時間の短縮が期待できる。逆に大阪方面~大分は久大本線ルートが日豊本線ルートに比べ80kmほど長くなる。

東九州新幹線の日豊本線ルート(赤)と久大本線ルート(青)の想定。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

新幹線の整備は巨額の事業費のほか、並行在来線の扱いも課題になる。これまでに開業した整備新幹線の並行在来線は多くがJRから経営分離され、第三セクター化された。佐藤知事は7月13日の代表質問で「並行在来線などの課題もあわせて今後議論を行ないたいと考えている」と答弁したが、具体的な考えは明らかにしなかった。

豊予海峡ルートも「同時並行」

佐藤知事は2015年から2023年まで大分市長を務め、市長時代は豊予海峡ルートの構想を推進。2023年4月の県知事選で当選し、6月には豊予海峡ルートを検討するためのプロジェクトチームを県庁内に設置した。佐藤知事は7月5日の所信表明で「今後、丁寧に研究を進めていく」と話した。

豊予海峡ルートは豊予海峡に海底トンネルか橋梁を整備して四国と九州を鉄道や高速道路で結ぶ構想。大阪市と大分市を四国経由で結ぶ基本計画路線の四国新幹線も、豊予海峡を通るルートが考えられている。大分市の2016~2021年度の調査によると、新幹線を複線で整備する場合の事業費は概算でトンネルが9630億円、橋梁が1兆8070億円になるという。

豊予海峡ルート(トンネル案)の平面図と縦断面図。【画像:大分市】

佐藤知事は7月13日の代表質問で、「四国新幹線が豊予海峡を通じて東九州新幹線とつながれば人流や物流の活性化、リダンダンシーの向上など双方の価値が飛躍的に高まる」として必要性や利点を強調。「勝負のときが近づいてきているとの認識のもと、大分を通る東九州新幹線・四国新幹線双方の整備計画路線への格上げに向けて全力を傾注したい」と答弁し、両線を同時並行的に推進していく考えを明らかにした。

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