芳賀・宇都宮LRT脱線事故で最終報告 対策工事後の検証で「問題ないものと判断」



開業に向けた走行試験が行われていた宇都宮芳賀ライトレール線(芳賀・宇都宮LRT)の脱線事故について、事故原因などを調査した有識者会議(委員長:須田義大・東京大学生産技術研究所教授)は5月30日、対策工事実施後の検証で「走行安全上の問題はないものと判断できる」などとした最終報告書を取りまとめた。宇都宮市は6月2日、最終報告の内容を公表した。

脱線後に車両が軌道敷内に戻されたあとの写真。脱線したときの走行の痕跡が路面に残っている。【画像:宇都宮市】

事故は昨年2022年11月19日の0時30分ごろに発生。HU300形電車「LIGHTLINE(ライトライン)」の第306編成が宇都宮駅東口停留場の手前にある渡り線への入線試験を行っていたところ、先頭車両の4輪と中間車両の後方2輪が脱線した。

渡り線への進入は通常の営業運転で生じる4パターンと、通常の営業運転では行わない緊急走行4パターンの計8パターンで実施。脱線したのは下り線を逆走して渡り線を通って上り線に移る緊急走行のパターンで、脱線時の速度は13km/hだった。

最終報告の前に公表された中間報告によると、脱線したパターンでは渡り線から上り線に移った直後に半径25mの急カーブがある。このため、旋回した車体が台車ストッパーを強く押し当てて横からの圧力が増大。また、13km/hでの走行時はストッパーへの衝撃も増大して車体から台車に大きな力が加わり、先頭の車軸内側の背面にかかる横圧も大きくなって脱線したとみられる。

脱線発生時のメカニズム。【画像:宇都宮市】

ほかの7パターンでは調査の結果、台車ストッパーを強く押し当てる現象は確認されなかった。ただ、急カーブのため走行パターンや進行方向によらず横圧が大きく、カーブを緩くした部分(緩和曲線)では輪重減少の影響により高い脱線係数が発生したとみられる。

こうしたことから有識者会議は、脱線したパターンでの走行速度を5km/hに抑えることや、2本のレール幅(軌間)を3mmほど縮小すること、カーブでのレールの高低差(カント)を無くすか高低差を縮小することなどを提言していた。

宇都宮市は中間報告を受け、約4100万円かけて対策工事を実施。軌間を6mm程度縮小したほか、カントを無くして軌道を平らにした。また、脱線したパターンでの走行速度は5km/h以下の制限を設けるとした。

最終報告によると、対策工事の完了後に実施した検証では、軌道がカーブした部分でレール内側に車輪の背面側が接触しながら走行していることを確認。緩和曲線での輪重減少も小さくなったことなどから対策工事の効果が確認され、走行安全上の問題はないものと判断できるとした。

一方で最終報告は軌間などの適正な管理が重要で、とくに急カーブの部分では車輪やレールの形状を継続的に確認して摩耗の傾向を調査することが望まれるとし、開業後の保守や調査に力を入れるよう求めた。

芳賀・宇都宮LRTのHU300形「ライトライン」。【撮影:鉄道プレスネット】

芳賀・宇都宮LRTは8月26日に開業の予定。軌道施設を保有する宇都宮市と栃木県芳賀町、電車を運行する宇都宮ライトレールは今後、全線での乗務員の訓練運転や運輸開始に向けた手続きなどを進めて開業に備える。

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