ロシア~イラン鉄道ルート「3本目」融資協定を締結 南北鉄道輸送の強化目指す



ロシアとイランは5月17日、新しい鉄道ルートの整備に向けた協定を締結した。イラン北部の新線の建設に対しロシアが16億ユーロを融資し、両国を結ぶ南北鉄道輸送ルートの強化を目指す。ロシアやイラン、インドなどが参加する複合輸送ネットワーク構想「国際南北輸送回廊」(INSTC)の一環。

旧ソ連諸国とイランを結ぶ鉄道の整備が近年続いている。写真はトルクメニスタン・テジェン~イラン・マシュハドを結ぶ鉄道のイラン側国境近くにあるサラフス駅(2010年)。【撮影:草町義和】

新線はイラン北部のラシュト~アスタラを結ぶ約162km。ラシュトはカスピ海の南岸に比較的近い都市で、ここからカスピ海の南西岸沿いに北上してアゼルバイジャン国境に近いアスタラに至る。ラシュト側は既設のイラン鉄道に接続。アスタラ側もアゼルバイジャンの既設の鉄道を経由してロシアの鉄道に接続し、ロシア北部のバルト海からイラン南部のペルシャ湾につながる南北鉄道輸送ルートを構成する。

イランの首都テヘランで行われた調印式では、ロシアのサベリエフ運輸大臣とイランのバズルパーシュ道路・都市開発大臣が協定に署名。ロシアのプーチン大統領とイランのライシ大統領もオンラインで会談した。会談でプーチン大統領は、この鉄道の整備について「世界の輸送ルートの変化と多様化につながる」「イランとペルシャ湾岸地域の国々の食糧安全保障を保証するうえで重要な役割を果たす」と評価。ライシ大統領は「イランとロシアだけでなく周辺国にも利益をもたらすだろう」と述べた。

INSTCはロシアから旧ソ連各国やイラン、インドにかけ南北の国際ネットワークを構築する全長約7200kmの複合輸送ルートの構想。ロシアからイランまで鉄道や道路を整備し、イランからインドまでは航路を使う。ロシア北部からインドまではスエズ運河経由の航路を使うルートに比べ、所要時間が4割ほど短縮されるという。2002年、ロシア・イラン・インドの3カ国が協定に署名し、のちにアゼルバイジャンなども参加した。

INSTCの構想ルートとラシュト~アスタラを結ぶ鉄道(赤)。【画像:OpenStreetMap/OpenRailwayMap、加工:鉄道プレスネット】

ロシアとイランを連絡する鉄道としては、アゼルバイジャンやアルメニア、ナヒチェヴァン(アゼルバイジャンの飛び地)を経由するルートが旧ソ連時代に整備された。現在はアゼルバイジャンとアルメニアの紛争の影響で寸断された状態だ。

近年はトルクメニスタンからイランに入るルートが整備されている。1996年、トルクメニスタン南東部のテジェンとイラン北東部のマシュハドを結ぶルートが開通。2014年にはカスピ海の南東岸寄りのルートも開通した。軌間はロシアなど旧ソ連各国が1520mmなのに対しイランは1435mm。いずれのルートでも、国境近くの駅でコンテナを載せ替えるか台車を交換する必要がある。

旧ソ連各国やイランとその周辺の鉄道網。ラシュト~アスタラの鉄道(赤)はイラン北部のカスピ海南西岸沿いに整備される。【画像:OpenStreetMap/OpenRailwayMap、加工:鉄道プレスネット】
トルクメニスタンの首都アシガバードからイラン国境近くのセラフスに向かう列車(2010年)。【撮影:草町義和】

旧ソ連時代に整備された寸断ルートを除くと、ロシアとイランを結ぶ鉄道ルートはラシュト~アスタラの新線が3本目。バルト海~ペルシャ湾の鉄道ルートとしては最短ルートを構成する。

ロシアはウクライナ侵攻をめぐり欧米諸国から経済制裁を受け、イランも核開発問題で長年経済制裁を受けている。ロシア・イラン両国は鉄道整備などで関係を強化し、経済制裁に対抗する考えがあるとみられる。

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