東京メトロ東西線の混雑緩和や臨海副都心・都区部東部のアクセス向上を目指して計画された地下鉄新線「有楽町線分岐線」。昨年2022年3月、東京メトロが鉄道事業法に基づき豊洲~住吉5.2kmの第1種鉄道事業許可を受けた。
分岐線に関係する都市計画はまだ決定しておらず、トンネルの掘削といった本格的な工事も始まっていない。しかし、本格着工の前に実施しておく必要がある「工事」が現在行われている。
事業許可から1年が過ぎた今年2023年4月14日、分岐線の起点となる豊洲駅を訪ねた。地上に出て駅の上を通る晴海通りを眺めてみる。車道は当然ながらアスファルトで覆われているが、部分的に修繕したような痕跡があり、その部分の新しいアスファルトは色が濃い。そして濃いアスファルトの上には、東京メトロのロゴマーク「M」が浮かんでいた。
これは舗装の修繕ではなく「試掘調査工事」によるもの。とくに地下鉄のトンネルを建設する場合、水道管など既存の埋設物を傷つけたり壊したりしないよう注意しなければならない。場合によっては埋設物の移設も必要だ。そこでトンネルの工事に着手する前、埋設物の位置や大きさなどを確認するための「試し掘り」が行われる。
試掘して埋設物の位置などを確認したら、埋め戻して再舗装する。「M」マークは工事の責任者が誰であるかを示しているといえるだろう。
豊洲駅は実のところ、分岐線のスペースがすでに確保されている。有楽町線・新富町~新木場が1988年に延伸開業した際、豊洲駅は島式ホーム2面4線の構造で整備され、このうち内側の2線が分岐線用だ。ちなみにこのスペース、現在は鉄板で覆って二つのホームを一体化しており、暫定的に幅の広い島式ホーム1面として使用されている。
すでにスペースが確保されているのだから、試掘調査を行う必要はないはず。しかし豊洲駅の利用者が増加してホームが混雑するようになったため、分岐線の計画とともにホームを増設する改良工事を行う計画が浮上した。これによりトンネルの拡張が必要になり、改めて試掘調査工事が行われているといえる。
分岐線は豊洲駅の新木場寄りで左カーブして豊洲小学校の南東側に入り込むルートが予定されている。小学校南東側の道路に行ってみると、やはり車道や歩道に「濃いアスファルト」が点在しており、黄色い「M」マークも入っていた。
豊洲駅からバスに乗り、枝川駅(仮称)が設けられる枝川二丁目停留所へ。ここも車道や横断歩道の一部が再舗装されていて、「M」マーク入りの濃いアスファルトが見える。ただ、「M」とは異なるマークが入った濃いアスファルトもあり、分岐線とは別の試掘工事も行われているようだ。
2022年11月時点の計画によると、分岐線の試掘調査工事は豊洲駅・枝川駅・東陽町駅・千石駅(仮称)の周辺30カ所程度を掘削。工事期間は2023年7月末までの予定だ。
分岐線は2030年代半ばに開業の予定。現在の豊洲~住吉は2回の乗り換えで20分ほどかかるが、分岐線が開業すれば9分に短縮され乗り換えもなくなる。また、東西線の混雑率は木場→門前仲町で199%(コロナ禍前の2019年度)なのに対し、分岐線の整備で180%以下になることが想定されている。総事業費は分岐線が約2690億円で、豊洲駅の改良は約296億円。
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