熊本市は路面電車(熊本市電)の大規模な「リニューアル」に向けた準備を本格化させる。来年度2023年度当初予算案に新型車両の導入や新しい決済システムの検討、上下分離方式への移行などの費用を盛り込んだほか、延伸構想の議論も再開する。
市電を運営する交通局の主要事業では、「新決済システム(顔認証等)導入検討経費」として1000万円を新たに計上。新型車両の導入に向けた「多両編成車両導入事業」は規模を拡充して3億627万6000円を計上した。このほか、「上下分離方式移行準備経費」に660万円、「市電開業100周年記念準備経費」に598万8000円をそれぞれ計上した。
市電の決済システムは西鉄系のICカード「nimoca」が導入済みで、2027年3月に保守期限を迎える。熊本市によると、システムの更新のたびに多額の費用がかかる見込みで、大がかりなシステムを保持しない新たな決済手段を導入する必要があるという。市電に導入済みのモバイル定期券のアプリには利用者の顔を登録する機能があることから、2023年度はこの機能を利用して顔認証の実証実験を行う。
上下分離方式への移行準備は2023年度、軌道運送高度化実施計画の策定を進めるほか、実際に運送事業を行う事業者(上者法人)を設立する。交通局による運行は2024年度までとし、2025年度の当初から上下分離方式に移行することを目指す。
また、熊本市は朝夕ラッシュ時の混雑緩和や老朽化した既存車両の更新を目的に、現行定員の1.5倍となる新たな「多両編成車両」を導入することを目指している。市電開業100周年を迎える2024年度をめどに2編成を導入する方針。2023年度は車体フレームの製作を行うほか、多両編成車両の導入で必要になる車両工場の改修(塗装場の拡張など)や停留場の改修(ホームの延長工事など)も実施する。
熊本市電を健軍町停留場から熊本市民病院付近まで約1.5km延伸する構想(自衛隊ルート)は2020年度に基本設計が実施され、事業費は概算で約135億円と試算された。その後、熊本市はコロナ対策に集中的に取り組むとして実施設計の取りまとめなどの検討を中断していた。
熊本市の大西一史市長は今年2023年2月20日、新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザなどと同じ5類感染症に移行(5月8日)することを受け、市議会本会議で「新年度の適切な時期に議論を再開をさせていただきたいと考えている。再開に向けた具体的な検討に入らせていただく」と表明した。
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