小田急電鉄の大野総合車両所、移転先に「幻の車両基地」、移転元にも「幻の新駅」



小田急電鉄の相模大野駅付近にある車両工場「大野総合車両所」(神奈川県相模原市)の移転が正式に決まった。移転先は同じ神奈川県の伊勢原市。小田原線・伊勢原駅の西寄り(伊勢原~鶴巻温泉)に広がる田園地帯に、新しい車両工場「伊勢原総合車両所(仮称)」を整備する。

伊勢原市内への移転が決まった車両工場の大野総合車両所。【撮影:草町義和】

伊勢原総合車両所の使用開始は約10年後の2033年度の見込み。まちづくりの一環として車両所の近くに新駅を整備することも検討される。小田急電鉄と伊勢原市は今年2023年3月8日、車両所の移転や新駅の検討などを含む連携協定を締結した。

約15ha、東西670m・南北290mという広大な敷地に車両の検査・修繕を行う車両工場を整備する大規模プロジェクトだが、実は40年ほど前にも伊勢原市内に車両基地を整備しようという動きがあった。1985年、小田急電鉄が伊勢原市に対し車両基地の建設を申し入れている。

当時の計画によると、場所は伊勢原市の下糟屋・池端地区で敷地面積は16.3ha、収容車両数は約400両。伊勢原総合車両所が伊勢原駅の西寄りに計画されているのに対し、この車両基地は東寄り(愛甲石田~伊勢原)に整備する計画だった。小田急電鉄は計画区域内や代替地の用地買収を一部進めていたが、実現しないまま幻の計画と化した。

伊勢原総合車両所の予定地と新駅の検討地、「幻の車両基地」の位置。【画像:国土地理院地図、加工:草町義和】
小田急多摩線の終点、唐木田駅の先にある車両基地(喜多見検車区唐木田出張所)は収容車両数が約180両。伊勢原の「幻の車両基地」はこの約2.2倍ほどの約400両を収容する計画だった。【撮影:草町義和】

小田急電鉄の広報・環境部によると、この車両基地は輸送量が増え続けることを見越し、輸送力増強の一環として計画。しかし、その後の社会情勢の変化を受けて2000年頃に計画を中止したという。

車両の検査・修繕を行う車両工場と車両を収容する車両基地では目的が異なるものの、広い意味ではどちらも車両基地。伊勢原市内への車両基地の整備計画が20年ぶりに復活したといえるかもしれない。

ちなみに、大野総合車両所の近くにも「幻の新駅」の計画があった。場所は小田原線・相模大野~小田急相模原の中間で、住所としては東林間2丁目。相模大野駅から約1.4km、小田急相模原駅から約1.0kmの地点になる。

大野総合車両所の南端から小田原線の線路沿いに小田急相模原方面へ数分ほど歩くと、線路と道路のあいだに細長いスペースが空いているのが見える。このスペースに下り線を移して上下線の線路のあいだを広げ、島式ホームを整備することが想定されていたようだ。駅前広場のスペースも確保され、いまはトタン板で囲まれた広い空き地になっている。

「幻の新駅」の旧予定地。線路と道路のあいだに細長いスペースが確保されている。【撮影:草町義和】
駅前広場の用地も確保されていた。【撮影:草町義和】
大野総合車両所と「幻の新駅」の旧予定地。【画像:国土地理院地図、加工:草町義和】

この新駅は小田急電鉄が計画したものではない。相模原市は1961~1967年に施行した土地区画整理事業にあわせ、線路のそばに「電車停留場用地」(810平方m)と「駅前広場用地」(1100平方m)を確保。新駅の誘致を目指していた。

しかし、小田急電鉄は既設駅の徒歩圏内にあることなどを理由に新駅の整備に難色を示し、相模原市も1998年に新駅の誘致を断念。同市は現在、確保した土地の活用策を検討中だ。

総合車両所の移転先と移転元、そのどちらにも幻の計画が存在したというのは何かの因縁だろうか。

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