ポスター作成の東武駅員「提訴後に死亡」ネット画像の無断使用で裁判



画像を駅のポスターで無断使用されたとして、埼玉県春日部市在住の男性が東武鉄道などを相手取り民事訴訟を起こした件で、ポスターを作成した東武東上線の駅員が提訴から半年後に死亡していたとみられることが2月3日までに分かった。

東武東上線の下板橋駅。【撮影:草町義和】

原告の男性は東武鉄道の列車を動画で真横から撮影。この動画を加工して列車編成を真横から見た静止画像を作成し、ネット上で公開した。駅員がこの画像を使ってポスターを作成し、男性の許可を受けずに東上線の駅に掲出。男性は2021年3月17日、東武鉄道と東武線の駅業務を受託している東武ステーションサービス(東武SS)が著作権を侵害したとし、さいたま地方裁判所に民事提訴した。判決は今年2023年2月8日の予定だ。

一方で男性は民事提訴に続いて2021年3月26日、ポスター作成者を被疑者不詳として著作権法違反で刑事告訴。さいたま地方検察庁越谷支部は2022年9月27日付けで不起訴処分とした。男性によると、不起訴処分の通知を受けてさいたま地検に理由を問い合わせたところ、さいたま地検は被疑者死亡のためと回答したという。

また、埼玉県警春日部警察署とさいたま地検から聞いた話として男性が明らかにしたところによると、駅員はポスター作成当時、下板橋駅に勤務。北池袋駅への異動後に同駅事務室内で死亡した。死亡推定日時は民事提訴から半年近くが過ぎた2021年9月1日の未明。自殺とみられるという。

このほか、男性は2021年3月の刑事告訴とは別に同年10月、東武鉄道を著作権法違反で追加告訴した。男性によると、駅員が東武SS社員だったため東武鉄道は嫌疑不十分で不起訴処分に。このため男性は2022年12月26日、東武SSを改めて刑事告訴したという。

さいたま地検と北池袋駅の地域を管轄する警視庁は取材に対し、駅員が死亡した日時や場所、死因などについて「個別の事案については答えられない」と回答した。

死亡の前後で東武の主張に変化

被告の東武側は民事訴訟では一貫して男性の請求を棄却するよう主張しているが、駅員が死亡したとされる2021年9月1日の前後で主張の一部に変化がみられる。

駅員が勤務していた東武東上線の北池袋駅。【撮影:草町義和】

死亡推定日の前日(2021年8月31日)に東武側が提出した答弁書では、無断使用した画像は「ありふれた表現」で創作的に表現したものではなく、著作物性がないと主張。さらに画像の作成者と原告の男性が同一人物であるかどうか確認できないなどとしたが、ポスターの作成者などには触れていない。

一方、死亡推定日から半年後(2022年3月23日)に東武側が提出した準備書面では、駅員らが自発的に発案して業務時間外に職場外でポスターを作成。駅の所属長らが自発的に立ち上げた連絡組織がポスターの掲示を決めたとし、「(ポスターは)職務上作成した著作物ではなく東武SSが著作者となることもない」との主張を追加している。

この主張が裁判で認められた場合、ポスターについて責任があるのは東武側ではなく駅員個人になる可能性が生じる。この民事訴訟や刑事告訴とは無関係の弁護士は取材に対し、「一般論としては、同じ内容でほかの者を被告として訴えることはできる」と話しており、被告を東武側から駅員個人に変えて改めて民事訴訟を提起することは可能とみられる。

その一方、この弁護士は「これも一般論だが、被告とした人が死亡した場合には、その相続人を訴えることになる。ただ、相続人が相続するようなものでない場合や、相続人が相続を放棄した場合は訴えることができない」とも述べ、実際に相続人を訴えることが可能かどうかは未知数だ。

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