新金貨物線「旅客化」7駅案が優位に 2021年度調査結果「踏切問題」解決策も検討



東京都葛飾区はJR総武本線貨物支線(新金貨物線)の旅客線化構想について、2021年度の調査結果をまとめた。事業主体・事業スキームの評価のほか、新小岩~金町の全体構想区間のうち新小岩~新宿(にいじゅく)を先行して整備する「段階整備」を中心に需要予測や新小岩駅への乗り入れ場所、運行ダイヤの検討などを行った。

新金貨物線の旅客化の想像画。【撮影:草町義和、加工:鉄道プレスネット】

調査検討結果は今年2022年3月にまとめられた。その概要によると、今回の調査・検討では「鉄道事業法による旅客化とする」「貨物列車の運行は継続とする」「国道6号(水戸街道)の踏切遮断時間は増加させない」という条件が設定された。

新金貨物線はJR東日本が保有しているが現在はJR貨物の貨物列車しか走っておらず、JR東日本が運行する旅客列車はたまに臨時列車が走るのみ。事業主体・事業スキームの評価では、旅客列車の運行主体は「様々な機関と協議した結果、現時点で第三セクターが運行主体となるスキームが有力であることが確認できた」とした。

一方、列車運行と施設保有のスキームは第三セクターか葛飾区がJR東日本から施設を譲り受けて第三セクターが運行する「上下一体案」と、JR東日本から施設を借り受けて第三セクターが運行する「上下分離案」の二つを有力とした。両案とも旅客化施設の建設は第三セクターが行うとしている。ただ施設の譲渡料や線路使用料などが未確定のため、今後の関係者との協議や検討委員会などで検討を深度化する必要があるとした。

需要予測は2018年度の調査でも実施しているが、基礎データを一部更新して改めて実施。全線整備時の7駅案と10駅案について、段階整備時点での運行ダイヤと運賃を設定して輸送人員を試算した。運行本数は片道84本で、1時間あたりではピーク時6本・オフピーク時4本。所要時間は7駅案が10.8~11.3分で10駅案は14~17分。運賃はJR東日本の地方交通線と同じ水準とし、3km以内を147円、11~15kmを241円とした。

その結果、1日の輸送人員は7駅案が約2万5260人で、10駅案はそれより少ない2万656人。10駅案は単線での行き違いによる時間ロスが大きくなり、7駅案の速達性が相対的に上がったことが影響したという。また、段階整備時は水戸街道の踏切が影響しないため、ピーク時やオフピーク時、貨物列車・旅客列車の遅延のいずれのケースでも運行ダイヤが成立するとした。

新金貨物線の旅客化ルート(左:10駅案、右:7駅案)。【画像:葛飾区】

新小岩駅の乗り入れ場所は同駅東北広場の隣接地として検討。新小岩駅構内の配線を基本的に変更せず駅施設を整備する場合、既設の自転車駐車場やスカイデッキが支障する。配線を変更して自転車駐車場やスカイデッキを回避する場合、関係機関との協議が必要になる。

新小岩駅の乗り入れ案。【画像:葛飾区】

踏切「維持」「解消」どちらも課題

このほか、全線整備の大きな課題となっている水戸街道との平面交差(新宿新道踏切)の扱いについても調査・検討を行った。新宿新道踏切を残す場合の運行ダイヤの検討と、線路を高架化して踏切を解消する場合の影響範囲の確認を実施。踏切を残す場合は遅延の拡大や所定ダイヤへの回復などに課題があるとし、立体化案では一部の踏切で高さが不足する結果となった。

踏切を残した場合の運行ダイヤや配線計画の検討では、7駅案で貨物列車を引き続き運行するものとし、運行本数はピーク1時間あたり6本以上、オフピーク1時間あたりでは4本以上を想定。踏切遮断時間がいまより増加しないよう、水戸街道の自動車直進が不可となる赤信号の時間(35秒)で列車が通過することを条件にした。

ピーク時は信号サイクルにあわせて運行間隔を調整すると等間隔の運行は難しいものの、1時間あたり6本以上の運行は可能。貨物列車の運行時は行き違い列車の駅停車時間を一部調整することで対応が可能とした。

一方、金町方面の貨物列車が新小岩駅を60秒遅れて出発した場合、水戸街道の道路信号は貨物列車通過にあわせて赤信号になるため信号サイクルに割込みが生じ、それ以降の旅客列車も常に60秒の遅延が生じ続けるとした。

新金貨物線を走る貨物列車。【撮影:草町義和】

また、金町方面の旅客列車が新小岩駅を60秒遅れて出発した場合、新宿新道踏切を道路信号サイクルにあわせて通過するため遅れが拡大。遅延列車と新宿駅で行き違う列車も駅での待ち合わせのため遅れが生じる。終端駅での列車折返し時間の調整で遅延列車を2本に抑えられるが、遅延の収束までに約25分かかるとした。

また、水戸街道の信号は感応式が採用されており、交通状況によって青表示の長さなどを変動させて調整している。この信号サイクルの変動で旅客列車も日常的な遅延が生じるリスクを含んでいるという。

線路の高架化では単独立体交差と連続立体交差の2案を検討。地上と高架のアプローチ部の勾配は貨物列車が走行できる15パーミルとした。新宿新道踏切を解消する単独立体交差の場合、同踏切の前後にある踏切の多くが高さ不足になる。一方、高砂駅から金町駅まで連続立体交差とする場合、高さ不足になる踏切は高砂寄りの1カ所に抑えられる。

連続立体交差案(上)と単独立体交差案の縦断面図。【画像:葛飾区】

今後は事業スキームの検討深度化や費用便益・収支採算性の分析、施設計画の深度化、踏切に関する協議・検討を進めるとした。施設計画の深度化では旅客化に向け車両種別を決定し、駅の位置や駅舎構造、車両基地など施設計画の検討を行う。

葛飾区は新金貨物線の旅客線化に向け、2030年頃に新小岩~新宿を先行開業することを目指している。近く葛飾区や国、JR東日本などで構成される検討委員会が発足する見込みだ。

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