都営新宿線「広域停電で真っ暗」終電後の訓練列車に乗ってみた 電力貯蔵装置が活躍



夏の電力供給の逼迫(ひっぱく)による大規模な停電が危惧されるなか、東京都交通局は都営新宿線で広域停電の発生を想定した列車走行訓練を報道関係者に公開した。営業線を使った列車走行訓練を交通局が報道公開するのは、これが初めてという。

広域停電を想定した訓練列車。【撮影:鉄道プレスネット】

訓練は6月24日深夜(6月25日未明)の終電後に実施。都営新宿線で電力会社からの給電がストップし、西大島駅から大島駅へ走行中の列車が停止したという想定だ。訓練列車は10-300形の第10-660編成(10両)を使用。2号車と4号車に乗客役の交通局職員が計25人乗り込んだ。

訓練列車の行先表示は「試運転」。【撮影:草町義和】

列車は6月25日の1時頃、大島駅を発車。まず新宿方面へ走って住吉駅の先で停車し、渡り線を通って本八幡方面の線路に移った。西大島駅を発車して訓練開始。1時25分頃、西大島~大島の線路上で停止し、車内照明も一斉に消灯して車内は真っ暗になった。非常用の照明が数カ所で点灯するが、それでもかなり暗い。空調も停止して静寂に包まれ、いつしか蒸し暑くなってきた。

乗客役として交通局の職員が乗車。【撮影:鉄道プレスネット】
停電により車内は真っ暗に。【撮影:鉄道プレスネット】

しかし、非常用の電気を供給する「電力貯蔵設備」がほどなくして始動。車内照明が再び点灯し、空調の動作音も響き始めた。列車は15km/hほどのゆっくりした速度で動きだし、照明が落ちて暗闇に包まれた大島駅に到着した。

停電時の電力供給の仕組み。【画像:東京都交通局】

大島駅にはホームドアが設置されている。車両側のドアが開いたが、ホームドアは停電のため開かない。乗客役の交通局職員はホームドアを手で押してホームに降車した。ホームドアの開口部は軽い作りになっているため、手動でも容易に脱出できるという。

ドアは開いたがホームドアは閉まったまま。【撮影:鉄道プレスネット】
ホームドアは手で押して開けることができる。【撮影:鉄道プレスネット】

電車が「発電」する電気を活用

東京都交通局は年間約5億kWhの電力を使用。広域停電が発生すれば都営地下鉄の列車も一斉に停止する。とくに駅間で停止した列車は乗客の避難誘導などに時間がかかり、相当な混乱が生じる恐れがある。

そこで交通局は停電対策として、「回生電力」を活用した電力貯蔵設備の整備を計画。2020年、都営新宿線の2カ所の変電所に設置した。

電車で使われているモーターは基本的に発電機と構造が同じ。走行中にモーターを発電機として動かすと列車の運動エネルギーが電気エネルギーに変換され、ブレーキがかかる。発生した電気はかつては熱に変換して空気中に捨てていたが、現在は省エネルギー対策として架線に戻すのが一般的だ。

現在の電車の多くは回生ブレーキを搭載している。【撮影:草町義和】

このブレーキ方式を「回生ブレーキ」といい、回生ブレーキで発生した電気は回生電力と呼ばれる。回生電力は近くを走る電車で消費されるが、都営新宿線の電力貯蔵設備も回生電力の一部を貯蔵し、停電時の非常用電力として供給できるようにした。

交通局によると、都営新宿線の電力貯蔵設備は計19本の列車を駅間から駅まで走らせることができる電力量を貯蔵できるという。少なくとも駅まで列車を運転できれば避難誘導時の安全性が向上し、誘導にかかる時間も短くできるわけだ。

電力貯蔵設備は現在、都営地下鉄のなかで都営新宿線にしか導入されていない。交通局によると、橋梁部がある同線は線路上から駅までの避難誘導で安全性に難があることから優先的に導入。ほかの路線への導入は今後の検証を踏まえながら検討するという。

訓練終了後の大島駅。【撮影:鉄道プレスネット】

停電対策としてはこのほか、東海道・山陽新幹線の新型車両「N700S」などのように車両に非常走行用のバッテリーを搭載し、駅間から次の駅まで架線からの電力供給を受けずに自走する方式もある。交通局総務部安全対策推進課の堀克典課長は報道公開後の記者会見で「(車両バッテリー方式は)車両が重くなる。他社局の動向も見ながら考えていきたい」と話した。

《関連記事》
東京の地下鉄105駅「緊急一時避難施設」初指定 ミサイル攻撃などに備える
【データで見る鉄道車両】都営地下鉄「6500形」2両増やした三田線の新型車両