南武線「高架化」来年2月にスケジュール公表へ 踏切暫定策は「効果が限られる」



川崎市の建設緑政局は11月24日、JR南武線・矢向~武蔵小杉間を高架化する連続立体交差事業(連立事業)について、これまでの検討結果や踏切解消までの暫定策、今後の方針などを明らかにした。同市は事業費を低減でき踏切解消までの期間も短くできる「別線高架工法」での整備に変更し、都市計画手続きなどを進める方針だ。

「賢い踏切」が導入された南武線の平間駅前踏切。【撮影:草町義和】

この連立事業は矢向~武蔵小杉間4.9kmのうち約4.5kmを高架化し、踏切9カ所を解消するもの。川崎市は当初、昨年度2020年度中に都市計画を決定する方針だったが、コロナ禍による財政の逼迫(ひっぱく)を受け都市計画決定を中止。事業のあり方や計画内容の変更も含め再検討を行っていた。

再検討では現行計画の仮線高架工法に加え、高架橋の高さを低くする案や別線高架工法への変更も含め、検討の深度化や精査を行った。現行計画の総事業費は2015年度の算出時で1479億円。これを精査したところ、総事業費は人件費や資財の高騰などで約1601億円に増加した。事業期間は約21年で、開かずの踏切解消は鉄道工事に着手してから11年目とした。

仮線高架工法のまま高架橋の高さを低くした場合(約12m→約8m)、総事業費は現行計画(精査・深度化後)より50億円減の約1551億円に。事業期間と開かずの踏切解消までの期間は現行計画(精査後)と変わらなかった。

一方、高架橋の高さを約8mとして仮線高架工法から別線高架工法に変更した場合、総事業費は214億円減って約1387億円に。工期も短縮され、事業期間は5年短い約16年、開かずの踏切解消までの期間は鉄道工事に着手してから5年目とした。

高架橋の高さを低くする場合、鹿島田駅の東西を結ぶペデストリアンデッキが支障し、南武線の線路をまたぐ部分ではペデストリアンデッキを撤去する必要がある。建設緑政局は高架化に伴う代替案として高架下をくぐる案と高架上をまたぐ案を検討。高架下案は通路の高さが約1.2mと低くなり、高架上案も高低差が約8mあることから整備は困難とし、駅まで接続している部分の機能回復を基本に検討を進めるという。

鹿島田駅ペデストリアンデッキの支障範囲と代替案。

今後は今年2021年12月から来年2022年3月にかけ、JR東日本や国などの関係機関との調整を実施。これと並行して1月から3月にかけ沿線住民を対象にした説明会を行う。2月には総合計画第3期実施計画案の策定にあわせ、都市計画手続きなどのスケジュールを公表する予定だ。

「賢い踏切」導入でピーク時8分短縮

工期を大幅に短縮できる別線高架工法でも、踏切の解消までには長い時間がかかる。このため建設緑政局は、連立事業区間内で「開かずの踏切」に指定されている平間駅前・鹿島田駅前・向河原駅前の3踏切の調査を実施。当面の暫定策の検討結果も明らかにした。

川崎市は南武線の矢向~武蔵小杉間(赤)で連立事業の実施を計画している。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット編集部】

3踏切とも早急に実施できる暫定策はおおむね実施済み。地下道の整備など新たな対策は、実質的な利用期間(対策を実施してから踏切が解消されるまでの期間)が短く、効果が限られるなどの課題があるという。

平間駅前踏切はJR東日本が今年2021年2月26日、速度の異なる列車の種別ごとに遮断時間を調整する「賢い踏切」を導入した。川崎市の調査によると、「賢い踏切」導入前の2020年10月7日はピーク時の遮断時間が52分だったが、導入後の2021年10月12日は8分短い44分に。最長遮断時間は6分短い4分、下り線1本あたりの遮断時間も28秒短縮され1分27秒になった。

同踏切は「賢い踏切」のほか歩道部のカラー化や駅をまたぐ歩道橋の整備が実施済みのため、建設緑政局は新たな暫定策として踏切の拡幅、地下歩道の整備、両側改札化を検討。踏切拡幅と両側改札化は工事費が約4~5億円、工期は約3年で、地下歩道は工事費が約14億円、工期は約5年とした。

実質的な利用期間は踏切拡幅が利用開始7年目までで、地下歩道は5年目。両側改札化は全体の利用期間が約2年で、高架化の着工時に撤去する必要がある。このため連立事業の進展を見ながら実施の可否を検討するものとした。

鹿島田踏切は10月15日の調査でピーク時の遮断時間が55分、最長遮断時間が31分、上り線1本あたりの遮断時間が2分12秒。これまでに歩道部のカラー化や踏切拡幅、ペデストリアンデッキの整備、橋上駅舎化、「賢い踏切」の導入が行われている。

建設緑政局は「一般的な暫定対策は全て実施している」としているが、一方で「賢い踏切」が導入済みながら「ほかの2踏切よりも踏切遮断時間が長い」とし、遮断時間短縮に向けた対策をJR東日本と連携して取り組んでいくとした。

向河原駅前踏切は10月4日の調査でピーク時遮断時間が52分、最長遮断時間が21分、下り線1本あたりの遮断時間が1分48秒。古くから両側改札化が図られており、ほかに歩道部のカラー化や踏切拡幅、踏切迂回(うかい)路の整備が実施済みだ。建設緑政局は歩行者用の立体横断施設は用地確保が困難とし、「賢い踏切」の導入などについてJR東日本と連携して取り組むとした。

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