神奈川県の交通計画「改定」に向け素案作成 20年後めどに新線整備や複線化など目指す



神奈川県は10年以上前に策定した「かながわ交通計画」の改定に向け、改定素案を作成した。10月26日から素案に対する意見を募集している。

2022年度下期の開業が予定されている神奈川東部方面線(相鉄・東急直通線)の羽沢トンネル。【撮影:草町義和】

改定素案は「神奈川における望ましい都市交通」を実現するための交通施策の基本的な方向を提示。「激甚化・頻発化する自然災害」「2050年脱炭素社会の実現」「新技術の進展などの社会経済情勢の変化への対応」が神奈川の都市交通に求められているとし、都市交通の目標として従来の「交通網の充実による県内外・地域間の連携強化」「利便性、快適性、安全性の確保」「環境負荷の低減」に加え、「地域交通ネットワークの確保・充実」を新たに設定した。この目標設定に基づき、鉄道網や道路網の整備などを盛り込んでいる。


鉄道網の整備の格付けとしては、現行計画の「計画区間」「構想区間」をそれぞれ「計画路線」「構想路線」に改称したほか、「その他連携軸を構成する路線」を新たに追加した。

計画路線は「概ね20年後の2040年代前半を目標として整備または事業化に向けた具体的な検討が望まれる路線」と設定。構想路線は「今後計画路線への検討が必要と考えられる路線」とした。その他連携軸を構成する路線は「計画路線や構想路線に該当しないものの、広域連携軸や県土連携軸の強化に資する路線」と位置付けた。

具体的な路線と区間は次の通り。

=:計画路線
-:構想路線
~:その他連携軸を構成する路線

(1)横浜市高速鉄道3号線(新線):あざみ野=新百合ヶ丘
(2)横浜環状鉄道(新線):鶴見=日吉
(2)横浜環状鉄道(新線):中山=二俣川=東戸塚=上大岡=根岸=元町・中華街
(3)京急久里浜線(新線):-三崎口以南
(4)京急久里浜線(複線):京急久里浜-京急長沢
(5)相鉄いずみ野線(新線):湘南台=倉見
(6)神奈川東部方面線(新線):羽沢横浜国大=新横浜=日吉 ※事業中
(7)東急田園都市線(複々線):溝の口=鷺沼
(8)小田急小田原線(複々線):登戸=新百合ヶ丘~相模大野
(9)小田急多摩線(新線):(唐木田)=相模原=上溝-愛川・厚木方面
(10)京王相模原線(新線):~橋本以西
(11)相模線(複線):茅ヶ崎=橋本
(12)東海道貨物支線(旅客線化):桜木町=東京都方面
(13)リニア中央新幹線・神奈川県駅(新線):品川=名古屋 ※事業中
(14)東海道新幹線新駅(新駅)
(15)御殿場線(複線):国府津~山北
(16)大雄山線(新線):大雄山~御殿場線方面
(17)川崎アプローチ線(改良):浜川崎=川崎新町
(17)川崎アプローチ線(新線):川崎新町=川崎
(18)都市高速鉄道上瀬谷ライン(新線):瀬谷=上瀬谷

改定素案に盛り込まれた鉄道網構想図。【画像:神奈川県】

このほか、東海道本線の村岡新駅(仮称)など周辺の交通利便性を向上させる既存路線の新駅整備や誘致も促進するとしている。

改定素案に対する意見の募集期間は今年2021年10月26日から11月24日まで。神奈川県ウェブサイトの電子申請システムや郵送、ファクスで受け付けている。改定素案や現行計画などの参考資料は神奈川県ウェブサイトで公開している。

実質的には計画・構想の縮小か

かながわ交通計画は1986年に初めて策定され、これまでに3回改定されている。最新の改定は2007年10月。それから10年以上が過ぎ、神奈川県は少子高齢化による人口減少など社会情勢の変化を受け、4回目となる交通計画の改定を決めた。

現行の交通計画と改定素案の鉄道網構想図を比べてみると、事業が完了した路線が削除されたほかは上瀬谷ラインが新たに加わった程度で、それ以外の顔ぶれに大きな変化はない。ただし、京急久里浜線・三崎口~油壺間(新線、改定素案では「三崎口以南」に変更)は計画路線から構想路線に格下げされた。三崎口~油壺間は2016年に京急電鉄が計画の凍結を決めている。

また、小田急小田原線・新百合ヶ丘~相模大野間(複々線)や京王相模原線・橋本~津久井町方面(新線、改定素案では「橋本以西」に変更)、御殿場線・国府津~山北間(複線)、大雄山線・大雄山~御殿場線方面(新線)は、構想路線から「その他連携軸を構成する路線」に変更された。

改定素案では「その他連携軸を構成する路線」を「計画路線や構想路線に該当しない」としている。このため、従来の構想路線を「その他連携軸を構成する路線」に変更したことは、実質的には計画・構想の延期や中止であり、鉄道網構想を縮小したといえる。一方で将来の社会情勢の変化などに応じ、長期的には計画路線・構想路線として復活させる可能性があるという「含み」を持たせたともいえそうだ。

神奈川県は来年2022年3月頃、意見の募集結果を公表し、同時期に計画や規則などを公布、公表する方針。

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