高山本線の活性化「新型車両」「バス連携」JR西日本や富山市など基本計画を策定



富山市・富山県・JR西日本の3者は3月31日、「高山本線ブラッシュアップ基本計画」を策定した。JR西日本が運営する富山市内区間(猪谷~富山、36.6km)について、新型車両の導入やバスとの連携などによる活性化策を示した。

ハイブリッド化の試験にも対応したJR西日本のDEC700。【画像:読者提供】

この基本計画では各施策の実施時期を短期・中期・長期に分けてリストアップ。新型車両の導入は短期に検討して中長期に実施する施策として盛り込んだ。新型車両の具体的な仕様は触れてないが「ハイブリッド車両等」とし、参考例としてJR西日本のDEC700とJR東海のHC85系を挙げた。

DEC700はJR西日本が2021年に導入した試験車両。ディーゼルエンジンで発電した電気でモーターを駆動する電気式気動車だが、ハイブリッド方式の試験も行われている。HC85系はJR東海の特急型ハイブリッド式気動車。2022年7月から高山本線の特急「ひだ」に導入され、今年2023年3月には「ひだ」定期列車がすべてHC85系に統一された。

基本計画では「持続可能で次世代に託せる地域公共交通とすべく、ゼロカーボン、SDGs等に資する取組みとして、環境性や持続可能性に優れた新型車両等を導入」するとし、「安全性・安定性・快適性の向上と、電車・気動車のシステム共通化によるメンテナンス技術の向上及び、効率化が図られる次世代車両であるハイブリッド車両等への転換」を図るとしている。

共通運賃や連携ダイヤなども

基本計画では新型車両の導入以外にも「運賃施策」「デジタル技術の活用」「駅施設の改善」「路線バス・コミュニティバス等との連携強化」「地域と協働した拠点活性化」について、さまざまな施策を盛り込んだ。とくに路線バスなどほかの交通との連携による役割分担を図るものとし、地域全体での公共交通の利便性向上を重視している。

高山本線・猪谷~富山の位置。【画像:国土地理院地図、加工:富山市・富山県・JR西日本】

八尾・婦中地域~富山都心では高山本線を速達便、幹線バスを各停便と位置づけ、速星駅で目的地ごとに乗り換える役割分担を図るものとした。大沢野地域~都心は時間帯により高山本線と路線バスを選択できるようにしてフリークエンシー性を確保する。

細入地域~都心は笹津駅を結節点とした交通体系とし、タクシーなど生活交通により笹津駅までのフィーダー輸送を強化。時間帯や目的地により最適な公共交通を選択できるようにすること目指す。今年2023年秋頃には笹津駅~富山駅で朝7~8時台に速達便の運行社会実験を実施するものとしている。

高山本線と路線バスなどの役割分担のイメージ。【画像:富山市・富山県・JR西日本】

高山本線の運行本数は以前から実施されている増便運行を継続するとともに、フリークエンシー性を高めるための増便も実施。その一方、路線バスは役割分担の考え方に基づき運行本数などの見直しも考えられるとした。

ダイヤ面では日中時間の普通列車の発車時刻を統一するパターンダイヤの導入を目指し、鉄道・バスの連携ダイヤを編成することで乗り継ぎしやすくすることも目指す。

運賃面では鉄道とバスを相互に利用しやすくするよう共通運賃化を目指すほか、高齢者向け割引乗車券の発行も提示。ICカードの導入や「MaaS」アプリとの連携、AIカメラによる人流計測など、デジタル技術の活用施策も盛り込んだ。

駅施設の改善策としてはバリアフリー化などを提示。バスなどほかの交通と相互に利用しやすくするよう、デジタルサイネージの整備やアプリの活用による乗換案内の強化も図る。また、越中八尾駅に折り返し設備を増設するものとし、同駅1番線に富山駅方面への折り返し設備の新設を提案。これにより利便性の高いダイヤを設定するものとした。

ほかの交通との連携では、路線バスの駅ロータリー部への乗り入れやパーク&ライド駐車場の整備などを提示。ハイブリッド車両などの導入にあわせ、高山本線からあいの風とやま鉄道線への直通運行を実現するとした。

輸送密度「存廃ライン」に近づく

高山本線の富山市内区間は1日平均乗車人数(越中八尾~西富山)が2000年度で2877人だったが、運行本数の減少もあって2004年度には2422人に減少。富山市とJR西日本は2006年度から2010年度にかけ、運行本数の増便や臨時駅(現在の婦中鵜坂駅)の設置などの社会実験を実施し、2010年度の乗車人数は2770人まで回復した。2011年度以降は活性化事業に移行し、コロナ禍が本格化する前の2019年度は3206人に。2000年度以降では最大になった。

高山本線(富山市内)の普通列車の平均乗車人数と運行本数の推移。【画像:富山市・富山県・JR西日本】

一方で富山市内区間の輸送密度はJR西日本発足時の1987年度が2556人だったのに対し、2019年度は2288人に縮小。鉄道存廃ラインとされる2000人に近づいている。3者は2021年3月に「高山本線ブラッシュアップ会議」を設置し、現状の分析や活性化策の検討を実施。このほど基本計画を策定した。

基本計画は各種施策の今後の進め方について、高齢者向け割引乗車券の発売など一部は先行して実施するものとした。一方で「現在の体制で実現できる施策は限定的」とし、本年度2023年度以降に新たな関係者を含めた「新 高山本線沿線ブラッシュ会議」を設置し、継続的な議論を実施するとしている。

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