JR西日本の新型事業用車「DEC741」公開 クモヤ443「拡大版」の総合検測車



JR西日本は10月27日、新型の事業用車「DEC741」を導入すると発表した。従来の架線検測車「クモヤ443系」の後継車両であるとともに、新たな検測装置を追加してデータ取得範囲を拡大した総合検測車。「地上検査の車上化」を目指した試験を行う。

JR西日本が導入する総合検測車「DEC741」。【撮影:草町義和】

発表に先立つ10月22日、DEC741が近畿車両の本社工場(大阪府東大阪市)で報道関係者に公開された。

公開されたのはDEC741のE1編成。DEC741-1(Mzc=動力・運転台付き、定員3人)とDEC741-101(Tzc=運転台付き、定員2人)の2両で構成される。1両の長さは約21m。

先に完成したDEC700の流れをくむ電気式気動車で、電化・非電化を問わずJR西日本管内の在来線の全区間を走ることが可能だ。JR四国・JR九州・IRいしかわ鉄道・あいの風とやま鉄道・えちごトキめき鉄道・肥薩おれんじ鉄道・ウィラートレインズ(京都丹後鉄道)各社の路線も走る。最高速度は100km/h。

DEC741-1の側面。【撮影:草町義和】
DEC741-101の側面。【撮影:草町義和】
DEC741はDEC700の流れをくむ電気式気動車。非電化区間も走れる。【画像:読者提供】

車体は検測装置の強度の関係から普通鋼を採用した。ステンレスやアルミに比べ腐食しやすいため全体を塗装。同じ事業用車のクモル145形・クル144形などに準じて青をベースとし、警戒色として黄色を入れた。クモル145形・クル144形は先頭部のみ黄色を入れているが、DEC741は軌道・信号検測車のキヤ141系に準じて側面の窓回りも黄色で塗装している。

DEC741-101の側面には街並みをモチーフにしたイラストが描かれた。【撮影:草町義和】

DEC741-101の側面には、街並みをモチーフにしたイラストが描かれた。JR西日本の関係者は「DEC741は鉄道を支える縁の下の力持ちで、鉄道は街の生活を支える縁の下の力持ち。間接的にはDEC741が街の生活を支えるということを表現した」と話した。

50台以上のカメラとAIで取得・解析

検測装置はDEC741-1に「電気設備撮像装置」を搭載。ほかに「電気設備測定装置」と「架線検測装置」がDEC741-1とDEC741-101に分散して搭載された。このうちトロリ線の摩耗状態を調べる架線検測装置は、クモヤ443系に搭載していた装置を移設したもの。このほか、新幹線で試行している「線路設備診断システム」も今後搭載する予定だ。

検測機器などの配置。【作成:鉄道プレスネット編集部、参考:JR西日本資料】
架線検測装置はクモヤ443系に搭載していたものを移設。DEC741-101の屋根上にパンタグラフの姿が見える。【撮影:草町義和】

電気設備撮像装置は、電柱や信号機、碍子(がいし)など沿線の設備を対象にした検測装置。昼夜撮影が可能なカメラをDEC741-1に50台設置しており、屋根上や側方など広範囲を一度に撮影することができる。電気設備測定装置も昼夜撮影が可能なカメラをDEC741-101に4台設置し、架線や架線の周辺を撮影する。JR西日本によると、車上から広範囲に設備データを取得するのは、日本国内の鉄道事業者では初めてという。

DEC741-1に設置された電気設備撮像装置のカメラ。50台のカメラで屋根上や側方など広範囲を一度に撮影する。【撮影:草町義和】
DEC741-101の屋根上にも電気設備測定装置のカメラが4台設置されている。【撮影:草町義和】
DEC741-1の車内。取得したデータはAIにより解析される。【撮影:草町義和】
DEC741-1の車内。手前の机や装置はクモヤ443系に搭載されていたものだ。【撮影:草町義和】

電気設備撮像装置では約100種類に及ぶ設備データを取得することができる。取得したデータは地上の「画像解析装置」に送り、人工知能(AI)技術で設備の自動抽出や画像選別、設備状態の良否判定を行う。この一連の装置を「電気設備診断システム」と呼び、日本信号と共同で開発した。

検査対象を拡大した理由

DEC741は直接的にはクモヤ443系の後継車両だ。クモヤ443系は国鉄時代の1975年に製造された、交直両用の架線検測車。老朽化のため今年2021年7月までに引退した。

老朽化に伴い引退したクモヤ443系。【撮影:草町義和】

ただし、DEC741はクモヤ443系にはなかった検測装置も追加しており、データ取得範囲と検査対象を大幅に拡大することを目指している。その理由について、JR西日本は地上検査の車上化によるリスク低減や検査業務の削減などを挙げる。

クモヤ443系の検査対象はトロリ線に限られており、それ以外の電柱などの電気設備や線路設備は地上検査(人力)で行っている。これらの検査もDEC741のような検測車で行えるようになれば現地での目視検査が減り、触車・感電・転落といった重大労災のリスクを減らすことができる。

また、JR西日本はDEC741による地上検査の車上化に加えIoTインフラネットワークなどの取り組みとあわせ、各種設備の検査業務の労働投入量を2030年までに約1割削減することを目指す。実際に少子高齢化などの影響で保守作業員の不足が深刻化しつつあり、検査対象を拡大した総合検測車の導入が必要な状況だったといえる。

DEC741は11月に完成の予定。【撮影:草町義和】

DEC741は2021年11月に完成する予定。クモヤ443系から移設した架線検測装置は来年2022年4月頃から使用開始する。電気設備診断システムは2021年11月から試験運用を開始し、2025年度からの実用化を目指す。

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