【鉄道コネタ】キセル=不正乗車は誤用? 実は「中間は払わない」も誤用かも



鉄道の不正乗車の方法のなかに「中間無札」がある。乗車区間の両端だけ支払い、中間の運賃は払わないというもの。一般に「キセル」と呼ばれている。

両端のみ金属製の「羅宇煙管」。この構造にちなんで中間無札が「キセル乗車」と呼ばれるようになった(2020年3月までに運用終了した東海道新幹線700系の喫煙車で撮影)。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

キセルは喫煙具の一種。漢字では「煙管」と書く。刻みたばこを詰める「火皿」、口にくわえる部分の「吸い口」、そして火皿と吸い口をつなぐ細い筒の「羅宇(らう)」で構成されている。両端の火皿と吸い口は金属製だが、その中間の羅宇は、竹など金属以外の材料を使っていることが多い。

中間無札では、両端だけ運賃=「お金」を払い、中間はお金を払わない。このため、両端だけ金属製の煙管にちなんで「煙管乗り」「キセル乗車」「キセル」と呼ばれるようになった。

いまでは、不正乗車全般を意味する言葉としても「キセル」が使われるようになったが、本来は中間無札のみを意味する言葉。そのため「不正乗車=キセルは誤用だ」と指摘する人も多い。

しかし、このように厳密に言葉の意味を捉えて誤用だというなら、そもそも中間無札を「キセル」と呼ぶこと自体、誤用のように思える。

全金属製の煙管もある

煙管は両端のみ金属製のものだけではない。羅宇も含めすべて金属製の煙管もある。厳密には、両端のみ金属製の煙管を「羅宇煙管」、全金属製の煙管を「延べ煙管」と呼んで区別する。つまり、単に「キセル」というだけなら、両端だけ金属製なのか、それとも全金属製なのか、分からないのだ。

さまざまな種類の煙管。全金属製の「延べ煙管」もある。【画像:ピーチピックス/写真AC】

中間無札を煙管に当てはめるなら、正確には「羅宇キセル乗車」と呼ばなければならないだろう。また、出発地から目的地まで正規の切符を購入するのなら「延べキセル乗車」といっても差し支えないはずだ。

すべて金属の煙管もあるのに、なぜ中間無札=キセルとなったのか。正確なところは不明だが、全金属製の延べ煙管は高級品のため、金属の部分を減らして低価格化を図った羅宇煙管が一般に普及したためかもしれない。

現在のたばこは紙巻きが主流。煙管を使ってたばこを吸う人を見かけることは、ほとんどなくなった。というより、喫煙自体が周囲も含めて健康を害する「悪い行為」とされるようになり、たばこを吸う人自体を見かけることが少なくなっている。

いまとなっては、煙管→「悪い行為」で使用する器具→不正乗車と連想したほうが、意味的には正しくなるのかもしれない。

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