東海道新幹線と近鉄特急で「キセル乗車」 風前のともしび「喫煙車」に乗る



受動喫煙防止のための法整備が進み、鉄道車両における喫煙の規制も「完了」の段階が見えつつある。JRの東海道新幹線と山陽新幹線では、客室内の席に座ってたばこを吸える「喫煙車」が、2020年3月中に消える予定だ。

もうすぐ消える東海道・山陽新幹線の喫煙車。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

12月の某日、風前のともしびになった喫煙車に乗ってみた。

一変する「臭い」

最初に乗ったのは、東京駅を10時13分に発車する東海道・山陽新幹線の臨時列車「のぞみ165号」。東海道新幹線の車両の大半は、全席禁煙で編成中の数カ所に喫煙室を設けただけのN700Aが中心になったが、臨時列車の一部はグリーン車1両(10号車)と普通車指定席2両(15・16号車)を喫煙車とした700系が使われている。

喫煙車が設けられている東海道・山陽新幹線の700系。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

ただし、東海道新幹線では特定の臨時列車の特定の日しか700系を使っていないため、予約時に喫煙車が連結されているかどうか事前の確認が必要。今回乗車した「のぞみ165号」も、大半の運転日は全席禁煙のN700Aを使っている。

禁煙車の14号車と喫煙車の15号車。15号車には「禁煙マーク」が貼られていない。【撮影:鉄道プレスネット編集部】
頭上の案内表示器も「のぞみ165号」の15号車は「禁煙マーク」が表示されなかった。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

今回は15号車の席をチケットレスのネット予約サービス「エクスプレス予約」で購入。自動改札機にICカードをかざすと、たばこから煙が出ている様子が描かれた「喫煙マーク」付きの利用票が改札機から飛び出てきた。

ホームに入ってきた「のぞみ165号」の13号車から乗車して13号車と14号車の通路を歩いて喫煙車の15号車に入ると、室内の匂いが一変する。喫煙者の私ですら、たばこ臭をかすかに感じるほどだった。喫煙の習慣がない人なら、逃げ出したくなるほどの悪臭と感じるかもしれない。壁や肘掛けなどの設備も、少し黄ばんでいるように見えた。

座席の肘掛けに収納されている灰皿。【撮影:鉄道プレスネット編集部】
デッキにも灰皿が設置されている。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

列車は定刻に東京駅を発車。さっそく、肘掛けに収納されている灰皿を引き出し、紙巻きたばこに火をつけて一服。それが終わったら、今度は煙管(キセル)を取り出し、火皿に刻みたばこを詰めた。ある意味「キセル乗車」の実践だ。

撮影時にたばこの銘柄がはっきり写り込まないほうがいいだろうと思ってキセルを持ってきたのだが、もともと使い慣れていないうえ、列車の揺れも相まって、刻みたばこがうまく火皿に入らない。ぼろぼろとテーブルや床に落ちてしまう。灰皿が肘掛けに固定されているため、吸い終わってから灰を落とすのも難儀だ。

キセルを使って一服。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

東海道新幹線の車両はN700Aタイプの車両の導入が進み、喫煙車がある700系は順次引退。定期列車での運用は12月1日限りで終了しており、臨時列車での運用も2020年3月8日限りで終了することが決まっている。席に座ってたばこを吸えるのは、残り3か月もない。

テーブルと一体化した灰皿

「のぞみ165号」を名古屋駅で下車し、近畿日本鉄道(近鉄)の特急列車に乗り換える。予約したのは12時30分発の大阪難波行き特急。6両編成のうち1号車が喫煙車で、5号車にも喫煙室が設けられている。近鉄特急はいまも大半の列車に喫煙車が設定されており、全席禁煙でも喫煙室は設けられていることが多い。

喫煙車が設けられている近鉄特急。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

1号車の客室に入ると「のぞみ165号」の喫煙車と同様、たばこ臭がかすかに漂っているのが分かる。客室とデッキを仕切る壁には号車番号と「禁煙マーク」が描かれた案内表示器が設置されていたが、号車番号のほうは「1」のデジタル文字が点灯しているのに対し、「禁煙マーク」のほうは点灯していない。あとで2号車の案内表示器を見に行ったところ、こちらは号車番号と「禁煙マーク」の両方が点灯していた。

客室内の案内表示器。喫煙車は「禁煙マーク」が点灯していない。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

予約した席に座って肘掛けを見ると、灰皿とテーブルが一体化していた。灰皿を納めた棒にテーブルも取り付けられていて、この棒を完全に引き出せばテーブルをセットできる。灰皿とテーブルのどちらか一方を使うことはもちろん、両方使うことも可能な構造だ。ここでもキセルを使ってみたが、やはり列車の揺れも相まって、刻みたばこの詰め込みと灰落としがうまくいかない。

肘掛けの灰皿はテーブルと一体化している。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

結局、刻みたばこの代わりに紙巻きたばこを火皿に突き刺して吸うことに。このような吸い方をする人も実際にいるが、これではキセルを使う意味がないような気がする。

最後は紙巻きたばこを火皿を突き刺して一服。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

ときどき、禁煙車にいって「新鮮」な空気を吸ってから喫煙車に戻ると、たばこ臭がそれなりに鼻をつく。かつて禁煙車のほうが珍しかったころ、記者はまだたばこを吸っていなかったが、禁煙車と喫煙車で臭いに大きな違いを感じることはなかった。あれから数十年が経過して禁煙がスタンダードになったいま、においの感じ方も変化したということなのだろうか。

喫煙室はしばらく存続か

東海道・山陽新幹線から喫煙車が姿を消すと、残る喫煙車はJR在来線の寝台特急「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」と近鉄特急だけになる見込みだ。ただ近鉄は2016年の時点で「数年後をめどに全ての特急で座席では禁煙にする方針」(2016年6月3日付け共同通信)と報道されており、そう遠くない時期に喫煙車がなくなるとみられる。

座席から離れた場所でたばこを吸える喫煙室は比較的多く残っており、東海道・山陽新幹線を走る16両編成のN700Aは、3・7・10・15号車に喫煙室を設置。山陽・九州新幹線を走る8両編成のN700系も3・7号車に喫煙室を設けている。2020年7月に東海道新幹線でデビューする予定のN700Sも、確認試験車の編成では喫煙室が設置された。

このほか、クルーズトレインではJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島(トランスイート四季島)」とJR西日本のクルーズトレイン「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレス瑞風)」にも喫煙室がある。近鉄特急の場合、全席禁煙の列車でも喫煙室は設置されていることが多い。このほど完成した新型特急電車80000系「ひのとり」も全席禁煙だが、喫煙室が設置された。

近鉄特急の喫煙室。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

ただ、公共空間での全面禁煙化に向けた法整備が進んでいる以上、喫煙車はもちろんのこと、喫煙室の付いた車両も近い将来に消滅するかもしれない。

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