「江ノ電」こと江ノ島電鉄線(神奈川県)の利用状況に異変が起きている。昨年度2024年度の江ノ電の混雑率は前年度2023年度の1.5倍近くまで急激に悪化。コロナ禍前の混雑率を大きく超えた。

国土交通省が例年7~8月ごろに公表している全国都市鉄道混雑率調査結果によると、コロナ禍が本格化する前の2019年度、江ノ電で最も混雑する時間帯・区間は7時10分~8時10分の石上→藤沢。混雑率は98%だった。
コロナ禍の2020年度は最混雑時間帯・区間が7時36分~8時36分の藤沢→石上に変わり、混雑率は87%に改善。2021年度は最混雑時間帯・区間が8~9時の藤沢→石上で混雑率は80%とさらに改善された。2022年度以降は混雑率が再び悪化。2023年度は最混雑時間帯・区間が7時28分~8時27分の藤沢→石上で、混雑率は99%とコロナ禍前の水準に戻った。
2024年度は、最も混雑する区間が藤沢とは反対側の和田塚→鎌倉に。最も混雑する時間帯も通勤・通学時間帯の朝から昼間の13時55分~14時54分に変わった。混雑率は146%で2023年度の約1.47倍に悪化し、コロナ禍前の混雑率も大きく超えた。江ノ電を運営する江ノ島電鉄の担当者は鉄道プレスネットの取材に対し、混雑率が大きく変化した理由について「外国人観光客の増加が一番だと思う」と話した。
江ノ電は神奈川県の藤沢市と鎌倉市を結ぶ全長10kmの鉄道路線。JR・小田急線の藤沢駅から景勝地の江の島近くを通って湘南海岸沿いに進み、JR横須賀線の鎌倉駅に至る。1976年に放送された『俺たちの朝』など、古くからテレビドラマや映画の舞台として登場しており、地元の通勤・通学客に加え観光客も多い。

2010年代に入ると、インバウンドを背景に外国人観光客の利用が急増。海外で人気のアニメ『SLAM DUNK(スラムダンク)』のオープニングで江ノ電の鎌倉高校前1号踏切が登場したこともあって江ノ電の混雑が激化し、地元客が利用しにくくなる状況になった。2019年度末にはコロナ禍の影響で外国人観光客が大幅に減少したが、2023年5月に新型コロナが5類感染症に移行したのを機に再び増加。2024年度の混雑率の大きな変化は、観光客の過度な集中(オーバーツーリズム)を明確に示した格好になった。
江ノ島電鉄は鎌倉市と連携し、沿線住民を対象とした優先入場の社会実験を実施。観光客には混雑を避けるルートを案内するなどして利用者の分散を図っている。2023年4月にはタッチ決済を導入。日本の交通系ICカードを持たない外国人観光客がクレジットカードでそのまま江ノ電を利用できるようにし、切符売場の混雑緩和を図った。
今年2025年8月には、沿線に在住、勤務している地元客向けに平日オフタイムが乗り放題のデジタルチケット「ジモ得5」(1200円)を期間限定で発売する計画だ。8月10~16日の週を除き、購入した週の平日(月~金曜)の5日間、9時から終電まで江ノ電を自由に乗り降りできる。
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